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  横浜・川崎版 平成29年11月号  
「演技は己の存在証明」  俳優・風間杜夫さん

職業柄、自分のことをよく見つめ返すという風間さん。「夜、酒を飲みながら一人部屋に引きこもり、自分を描いてもらった絵に向かって『お前どう思う、これでいいのか!』『お前がそういうのならいいか…』と自分を褒めたり叱ったり…。自問自答が僕の趣味です(笑)」
9日から舞台「24番地の桜の園」
 映画「蒲田行進曲」(1982年)やテレビドラマ「スチュワーデス物語」(83年)などで一世を風靡(ふうび)し、今も実力派俳優としてテレビや舞台、さらに落語などで活躍する風間杜夫さん(68)。9日からはチェーホフの原作を脚色した舞台「24番地の桜の園」に出演する。同舞台を控え、風間さんは「演技とは己の存在証明」と語る。「舞台に立ち、生身をライブでさらすのは今でもかなりの緊張を強いられます。だからいつも相当の覚悟—、『ぎりぎりいっぱい生き切ってみせるぞ!』という気概をもってお客さんの前に出ています。でも自分が今生きているということをお客さんに目撃してもらっているわけで、こんなにありがたいことはないですね」

 原作「桜の園」の舞台は20世紀初頭のロシア。1861年の農奴解放令の後、農奴に依存して生活していた地主貴族たちが没落していく中、女地主ラネーフスカヤ夫人も莫大(ばくだい)な借金を背負い、思い出深い「桜の園」を競売に出す羽目に。昔の夢に溺れる生活を送る彼女には、農奴出身の商人ロパーヒンの忠告も耳に入らない—。社会の転換期に生きる人々の苦悩や葛藤をユーモラスに描いた傑作戯曲を、舞台では原作をほぼ忠実に生かしながらも、筋立ての順番をシャッフルするなどの大胆な演出が図られるという。

 風間さんが演じるのは、ラネーフスカヤの兄ガーエフ。一族の柱石たる人物だが、彼もまた現実を直視することなく過去への逃避に明け暮れる役柄だ。台本を読んだ風間さんは、自分には「桜の園」のような先祖代々の土地はないと笑いながらも、「親から引き継いだわが家を思い出しました。4回くらい改修、リフォームを繰り返しましたが、今でもさまざまな思い出が浮かびます。見に来ていただいた皆さんに問題提起をしながらも、郷愁を誘うような舞台にしたいですね」。

かつては名子役
 風間さんは東京出身。幼少のころより児童劇団に参加し、子役として映画にもたびたび出演。大人が何を自分に欲しているのかを理解して演技していたという。「われながら名子役でした(笑)。人前で演技する快感を覚えたきっかけです」

 将来も俳優にと考えたが、子役のまま俳優になると大成しないとアドバイスを受け、中学、高校は芸能界を離れ、大学での学生演劇から俳優への道を目指した。だが、当時は学生運動華やかなりしとき。所属する劇団員はデモに参加してばかりで劇団は約1年で解散。当てが外れた風間さんだが、俳優への道を諦めず養成所などを経て自分の手で劇団を旗揚げする。経済的にも困窮し、不安で眠れない日もあったというが、風間さんの演技と情熱はやがて、演出家つかこうへいの目に留まるところとなる。そして「蒲田行進曲」の主役に抜てきされスター街道をのし上がることに。「つかさんに教わった演劇観は今も僕の中に随分残っています。彼の人間的魅力に触れ、彼の熱気にあおられて、そして彼の毒をたっぷり浴びて、今日の僕があります(笑)」

 風間さんの魅力の一つは、どんな役柄もこなす確かな演技力。その役づくりは自分の内側を掘り起こして形にしていくという。「どんな立派な男でも卑劣な男でも、役との共通項を自分の中に見つけ、それをデフォルメして役に放り込む感じです。だから、どの役もみんな僕の分身です」

古典落語12本会得
 現在、風間さんは落語家としても活躍している。実は風間さんは幼少より落語の大ファン。だが舞台の練習中、長ぜりふを落語調で演じてしまい、つかから注意され落語を封印。以後は寄席に行くのも自らに禁じていたという。そんな風間さんが落語と再会したのは、明治の落語家たちを描いた舞台「すててこてこてこ」(96年)で初代三遊亭円遊を演じたことがきっかけ。「その際に林家正雀師匠に落語を教わりました。そのときに『いつか落語を一本覚えて人前でやりたいな』と思ったら、すぐいろんな人から声がかかってね。やってみたら褒められたんです。だから続けているんですね(笑)」

 横浜にぎわい座をはじめ全国で高座に上がっており、これまで会得した古典落語は12本。中でも得意なのは「火焔太鼓」「湯屋番」だという。よく一人芝居と落語の比較を質問されると風間さん。一人芝居は常に動き続け、落語は動かず話芸だけで客に対するという違いがあると話す。ただし、「両方とも見えない相手役をお客さんに想像させなければならない。役者としての技量が試される場です」

 70の大台が見えてきた風間さんだが、これまで大病や大けがをしたことはなく、人間ドックも年1回必ず受診するという。「昔は健康など気にしない破滅型人間に憧れましたが、今は毎晩孫3人に囲まれて、実に気持ち良く生きています。まっとうに生きてきたご褒美かなと思ってます」

 自身と同年代のシニアに対しては、「この年齢になると先に逝った人たちのことを思いますよね。自分は、無念にも先に逝った同胞よりも長く生かされているんだ、彼らの分まで充実して生きてやろうという気概で、日々を過ごしてほしいですね」

「24番地の桜の園」
 9日(木)〜28日(火)、Bunkamura(JR渋谷駅徒歩7分)シアターコクーンで。全20公演。
 作:アントン・チェーホフ、翻訳・脚本:木内宏昌、演出・脚色・美術:串田和美、出演:高橋克典、風間杜夫、八嶋智人、松井玲奈、美波、大堀こういち、小林聡美ほか。
 全席指定。S席1万円、A席8000円、コクーンシート5000円。Bunkamuraチケットセンター Tel.03・3477・9999

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