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  横浜・川崎版 平成29年5月号  
日記のように歌を創作、これまで2000曲を発表  シンガーソングライター・小椋佳さん

生前葬コンサートを開催した理由について、「僕自身は墓も葬式も必要ないと思っている人間なのですが、家族は葬式を挙げないわけにはいかないという。僭越(せんえつ)ながら、僕が死ねば葬式も大げさなものとなり、家族に苦労を掛けることになると思いましたので、生きているうちに済ましてしまおうと考えたのです」
5月、“トリビュート・コンサート”開催
 「さらば青春」(1971年)、「俺たちの旅」(75年)、「愛燦々」(86年)など、シンガーソングライター・小椋佳さん(73)が制作した数々の歌は今も色あせない魅力を放つ。これまで約2000曲を発表し、約300人の歌手に楽曲を提供してきた小椋さん。17、18日の両日に行われるトリビュート・コンサートでは、小椋さん自身のほかに、小椋さんから楽曲の提供を受けた代表的なアーティストたちが一堂に集結、歌謡界を彩った数々のヒット曲を歌い上げる。「僕が生み出した楽曲といえども、歌い手の皆さんが歌うことでそれぞれ別の味わいの曲となっています。僕自身もコンサートを楽しみたいですね」

 コンサートに出演するのは、五木ひろし、梅沢富美男、中村雅俊などそうそうたるメンバー。小椋さんは2014年に「生前葬コンサート」、翌年には「余生あるいは一周忌コンサート」を開催しており、今回のトリビュート・コンサートはさながら“偲(しの)ぶ会”だ。「これだけの皆さんに僕の歌を歌ってきていただけたんだな…という感慨を感じますね」

 小椋さんが歌作りを始めたのは大学生のころ。歌を歌うことはもともと好きであったが、思春期だったこともあってか世に流布している曲のどれもに商業主義が透けて見え、歌っていると“悪寒”を感じるようになったという。「世の大人が押し付けてくる歌ではなく、自分が歌うためだけの歌を作り始めました。自分の日記から言葉を拾い出し、そこに3つのコードしか弾けないギターでメロディーを載せた歌作りでした」

 歌手になる気は全くなかったというが大学卒業間近、「自分の存在意義を見つめ直したい」と芸術家の道を探り、多くのアーティストやその卵たちと交流を持つようになる。その中には寺山修司もいた。

「組織人かつ表現者に」
 だが結局、小椋さんは芸術家の道を断念。そして、「芸術家はアウトサイダーの視点から、個を喪失し組織の歯車となった人間たちの病理を描き、表現している。なら自分はこの世を支配する金融資本主義の組織に入りながら、芸術家とは違った役割を果たす表現者となる道を歩む」と67年、日本勧業銀行(現・みずほ銀行)に就職。

 そんな小椋さんを訪ねる人がいた。レコード会社のディレクターだった。一時期、寺山のサロンに出入りしていた縁で、寺山が率いる劇団「天井桟敷」が自主制作したレコードアルバム「初恋地獄篇」に歌声を吹き込んでおり、それに目を付けたのだという。

 その後、紆余(うよ)曲折を経てレコーディングしたデビューアルバムが、「さらば青春」などを収録した「青春〜砂漠の少年〜」(71年)だ。ただし銀行員は副業禁止。「何も知らなかった」という小椋さんをおもんぱかって先輩らが人事部に掛け合ってくれたが、答えは「こんなの売れっこないし、問題にならん」。

 だがあにはからんや、レコードは大ヒット。すると週刊誌が小椋さんと勧銀をバッシングするような記事を掲載、銀行全体に衝撃が走った。人事部に呼び出され「音楽はもうやめろ」と言われたが、小椋さんは堂々と反論。「自分の歌作りは日記と同じ。それを禁じるというのであれば銀行を辞めます!」

 結局、歌作り自体は認められたが、マスコミへの出演やステージ活動は一切しないと誓い、その場を収めた。また、これで落着したのは小椋さんの働きぶりにもよる。「同期の誰よりも目に留まるような働き方をしましたし、文句を言わせないくらいには頑張りましたね」とニヤリ。金融ビッグバンのはるか前に金融自由化を研究、選抜されアメリカにも留学。また退職までに30〜40の辞令を受け、銀行という巨大組織の大方の仕事を経験したと自負する。

 その間にも歌作りのオファーは尽きず、楽曲を提供した「シクラメンのかほり」(75年)がレコード大賞に輝いたほか、同賞作詞賞を受賞した「夢芝居」(82年)など、多くのヒット曲を世に送り出した。ただし小椋さんは、ヒットを狙って作った歌は1曲もないという。「歌作りはいわば真剣な遊びです。それに『ヒット曲を』と言われても僕には分かりません(笑)」

 その後、銀行を49歳にして退職。生前葬コンサートを終えた現在は、「『余生』という人生を生き直しています。死については、いつでも覚悟はできていますが、ただ生きている以上は一生懸命生きようという思いは強いですね」とほほ笑む。

命の大切さを歌に
 今回のトリビュート・コンサートでは、今年、小椋さんのカバー曲でアルバムを出したウクライナ人歌手ナターシャ・グジーも参加。小椋さんの最新作「命はいつも生きようとしてる」を歌う。「この曲は僕が青春時代に哲学にのめり込み過ぎ、思い詰めて自殺を考えたとき、逆に命の大切さに思い至った、僕にとっては大事な気付きを歌にしたものです。ここ数年で一番自分の思いを込めた作品です。ぜひ聞いてください」

♪小椋佳トリビュート・コンサート2017 〜命はいつも生きようとしてる〜♪
 17日(水)〜18日(木)、NHKホール(JR原宿駅徒歩10分)で。17日は午後6時、18日は同3時開演。
 出演:小椋佳、五木ひろし、梅沢富美男、研ナオコ、中村雅俊、堀内孝雄、坂田美子、ナターシャ・グジーほか。

 全席指定。S席1万円、A席8000円。問い合わせは東京音協 Tel.03・5774・3030

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