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箱根に居を定めてから40年近くになる。「体力づくりのためによく芦ノ湖周辺を歩きます。いつまでも山歩きができる体でいたいですね」と話す浜さん |
箱根での生活をエッセーに
映画「007は二度死ぬ」では日本人初のボンドガールに、また植木等「無責任男」シリーズなどに出演し、スクリーンで大活躍した浜美枝さん(72)。現在はラジオや講演会のほか、箱根の自宅兼ギャラリーでイベントなどを開催している。今年、女優生活50年と箱根での古民家暮らしの中で感じたことをまとめたエッセー「孤独って素敵なこと」(講談社)を出版。「自然に囲まれた箱根の家で一人過ごす時間はかけがえのないものです。私にとって孤独は寂しいものではなく、自分を見つめ直す時間。孤独にも明るい面があり、孤独の先にこそ幸せがあると思います」と話す。
2014年の年末、新聞の取材を受けた浜さんは、その中でふと「孤独ってすてきなことよね」とつぶやいた。それはそのまま記事の見出しになり、新聞を見た編集者から「本にしませんか」と声が掛かって生まれたのがこのエッセーだ。
当初、オファーに驚いたという浜さん。「孤独がすてきなことという考えが特別注目を浴びるとは思ってもみませんでした」と言う。
「孤独というとすぐにネガティブなことを考えてしまうけれど、そんなことはないと思います。例えば家族が寝静まった夜に1人でゆっくり過ごしながら今の自分を見つめ直す。1人旅の先ですてきな出会いがある。そんなふうに孤独の中でこそ見えるものがあります」とほほ笑む。
1人旅が好きだという浜さんは、古希を迎える数カ月前に単身、フランス・パリに渡った。この旅に出るまで「このまま70代に入るのが怖いような気がしていた」という。だが、滞在中に出会った、凛(りん)と生きる高齢の女性の姿が、「背中をポンと押してくれた」。そんな体験をした喜びも同書に記している。
「パリでは特別何をするわけでもなく過ごしたのですが、何でもない街ですれ違う人やカフェで出会った人がおしゃれをしていることに感激しました。彼女たちの生きる姿勢に励まされたような気がしましたね。そして私自身も70代になっても美しいものに感動したり好奇心を持つことができる、そう思えた旅でした」と振り返る。
著書には孤独の中での出会いについてもページを割いた。浜さんの友人は、作家の森瑶子さん、モデル兼コーディネーターのフローレンス西村さんなど、芯の強い女性ばかり。みな鬼籍に入っているが、今でも浜さんの心に住み続け、支えとなっている。
「古希を迎え今を大事に」
「それぞれ背負うものがありながらも、それを含めて生きることを愛し、最後まであきらめなかった人たちです」と振り返る。
そして「私は皆さんに本当に良くしていただいたんです。もう彼女たちにお返しはできない代わりに、今度は私が若い人を応援したい。この本は私なりの皆さんへのエールでもあるんです」と言い添える。
60代の時は70代を見据えて準備に余念がなかったが、古希を迎えてからは「今を大事に、丁寧に生きたい」という気持ちが強くなってきたという。
「60代の時に、来るべき時に向けて暮らしをダウンサイジングしたんです。部屋もリフォームしてずいぶん身軽になりました。今は隅々まで磨くとか、毎日花瓶の水を換えて野の花を生けるとか、冷蔵庫の中の食材を使い切るということが楽しくて仕方がないんです」と顔を輝かせる。
現在、箱根の自宅は一部をギャラリーとして開放しており、定期的にイベントを開催している(イベント開催時のみ開館)。在宅の時は浜さんも顔を出し、来客との会話を楽しむ。「例え一期一会であっても、人の出会いは喜び」と言う。
「こうしよう、こうしたい、という気持ちは刻々と変わります。これからはその変化を楽しみながら、一日一日を大切に歩んでいきたい」と語った。 |
「孤独って 素敵なこと」 浜美枝著
スポットライトの下の自分よりも、箱根の古民家に1人いる時間が好き—。女優生活50年で悟った「本当の幸せをつかむ方法」をつづったエッセー。
(講談社・1296円) |
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