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横浜育ちで今も横浜在住の藤さん。ホテルニューグランドのバー、シーガーディアンⅡの常連だ。「昔のシーガーディアンは午前中から開いていて(※現在は午後5時から)、映画の撮影が終わるとよく行っていました。昼間から飲むのなんて僕ぐらいだから、いつも貸し切りでした(笑)」 |
映画「お父さんと伊藤さん」に出演
「愛のコリーダ」などの実験的な作品から「柘榴坂の仇討」など時代劇や娯楽作品まで、幅広く活躍する俳優・藤竜也さん(75)。8日から公開される映画「お父さんと伊藤さん」では、元小学校教師の頑固な“父さん”を演じている。一家の大黒柱としてがむしゃらに働き、ふと気が付くと老齢の域に達した“お父さん”が自分の人生の最後にどのような折り合いをつけるのか? “お父さん”と同年代の藤さんは、「過去を振り返らないのが、しなやかに生きるこつかもしれませんね。一番大事なのは今と明日ですから。日々の営みを大切に生きる、それに尽きると思います」と語る。
息子夫婦の家を飛び出し、30代の娘の家に転がり込んできたお父さん。ところが娘には、20歳年上の同居人“伊藤さん”がいた!しかも仕事はいわゆる“堅い”ものというわけではなさそうで…。元教師のお父さんにとって娘の価値観は受け入れ難い。が、いまさら帰る場所もない。ぎくしゃくしながらも、父、娘、娘の恋人の3人暮らしが始まる。最初は伊藤さんに良い顔をしなかったお父さんだが徐々に2人の心の距離は近くなる。しかしある事件が起きて、お父さんはまたも行方をくらましてしまう—。
「お父さんと実際の自分は全く正反対」と言う藤さん。しかし、「彼の複雑な心境は理解できるし、年寄りならではの寂しさ、やるせなさは共有できます。やはり必要とされなくなるのは悲しいですよ」とかみしめるように話す。
藤さん演じるお父さんが若かったころに比べ、今は職業や男女関係のあり方など社会全体が多様化かつ複雑化している。
昔の価値観に固執すると生きにくい世の中だ。藤さん自身は芸能という仕事柄、「時代の波に乗る」ことに抵抗が少ないという。加えて「過去も振り返らない」。なぜなら「大切なのは今と明日ですから」。
俳優は、依頼される役柄が年齢や時代に応じて変化する。一定のイメージに固執する役者もいるが、藤さんの姿勢は柔軟だ。ジャンルも問わない。最近では「オレオレ詐欺」に引っ掛かった元ヤクザの組長などコミカルな役も。「毎回、違うのがいいんです」と笑う。
「枯淡」とは無縁
役を離れた藤さんは、肩の力の抜けたダンディーな紳士。言葉遣いも意外なほど古風で丁寧だ。“渋さ”を評価されることが多いが、自身を“枯れた”と思うことはない。
「若いときは自分も年を取ったら内面も枯れて枯淡(こたん)の域に到達すると思っていましたけど、実際はぜんっぜん(笑)。生々しいです。でもそれが生きている証しなんでしょうね」と笑う。
仕事も遊びも全力で楽しむ。その分思い切りも早い。以前は陶芸に凝って自宅の敷地内に大きな陶芸小屋を作って熱中していたが、ある時「くたびれちゃって、すぱっとやめた」そうだ。陶芸小屋も思い切って撤去した。「年を取っても趣味があるのはとてもいいと思います。けれど、飽きたらこだわらないほうがいいですね」と笑顔。
「日々の暮らしの中でできる限りのことを営み、続けていくのが人生ですよね。たいそうなことをするために生きている人もいるけれど、ほとんどの人はそうじゃない。だから力まず、つかず離れず、でいいんじゃないかな。そんなことをこの映画を見て思っていただけたらうれしいですね」 |
©澤日菜子・講談社/2016映画「お父さんと伊藤さん」製作委員会 |
「お父さんと伊藤さん」 日本映画
監督:タナダユキ、出演:上野樹里、リリー・フランキー、藤竜也ほか。119分。
8日(土)から横浜ブルク13(Tel.045・222・6222)ほかで上映。 |
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