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舞台ではピアニストの小曽根真さんの演奏が付く。「1プラス1が3か5になれば。僕が引き算にならないようにしなくちゃ(笑)」 |
裁判劇「Terror」の朗読に挑戦
俳優の橋爪功さん(74)は、長年のライフワークとして朗読公演を続けている。ことしの8月に朗読するのは、ドイツの人気作家フェルディナント・フォン・シーラッハの戯曲「Terror」。「テロが起きた時、多くの人間を救うために犠牲が生じることは仕方がないのか?」を問う裁判劇だ。「舞台でできないことは何もない」をモットーとする橋爪さん、「観に来ていただいた方は、ちょっと面白い体験をなさるかもしれない」とにやり。
ことし橋爪さんが朗読するのは、シーラッハ初の戯曲「Terror」。ドイツ語でテロを意味する話題作だ。ヨーロッパではすでに上演されており、日本では7月中旬に東京創元社より発売予定だ。
「裁判劇なんです。数百人を乗せた飛行機がテロリストに占領されてしまう。彼らは飛行機を7万人が集まっているサッカースタジアムに落とすと宣告する。数百人を犠牲にするか、それとも7万人を巻き添えにするのか? そしてパイロットはある決断をする。それが正しかったのか、有罪なのかをあなたが判断してください、という内容なんです」
この作品は、昨年パリで起こった同時多発テロの前に書かれていた。シーラッハ氏は長年ベルリンで刑事事件弁護士として活躍し、40代半ばで作家デビューを果たした異才だ。法曹界に長く身を置いた人ならではの勘が、このようなストーリーを生み出したのかもしれない。「作家って予知能力みたいなものがあるよね」と橋爪さんも舌を巻く。
通常、橋爪さんが海外の、しかも現代小説を朗読することはほとんどない。しかしシーラッハ作品は別だ。
「もともとはカミさんが彼の本のファンだったの。彼女に薦められて読んで、これだ!と。原作ももちろんだけど、酒寄進一先生の訳が素晴らしいんですよ。非常に簡潔で、わだかまりがない。気に入りました」
“しゃべくり”好き原点はラジオ
「Terror」が日本で上演されるのはこれが初。昨今の世界に漂う不穏な空気を色濃く反映した内容だけに注目を集めることは必至だ。また裁判劇のため、1人で10人近い人物を演じ分けなくてはいけない。橋爪さんもおのずと気合が入る。
「ぼくは、舞台でできないことは何もないと思っています。お客さまの頭の中で起きることは制限がないですから。だからこちらも、お客さまの視線に耐えうるだけの激しさを放出します。そうすれば、出した以上のものを受け取ってくださる」。舞台は観客と俳優がともに作り上げるものなのだ。
橋爪さんが「語り」という芸に引かれる原点はラジオ。
「ラジオドラマは昔からよく聞いていましたね。渥美清さんは本当に面白かった。ほかにも、巖(いわお)金四郎さん、徳川夢声さん…。ドラマだけじゃなく、講談も漫才も、とにかく“しゃべくり”は好きでしたね。僕自身もラジオから劇団外の仕事に入りまして、NHKでは吉川英治さんの『三国志』を3年間やらせていただいたし、朗読にはとてもシンパシーがあります」
せりふの応酬も演劇の面白さの一つだが、「語りというのも演劇の大きな要素の一つ」と橋爪さん。
「浄瑠璃もそうでしょ? そう考えると、朗読はもしかしたら日本のお家芸かもしれないですね。だから皆さんも恥ずかしがらずに朗読に挑戦してみては」と勧める。
「声に出して読むと、黙読よりも色、匂い、光や音のイメージが頭の中に入ってきて、読み手の心に何かが起きるんです。世界が広がります。だから楽しい。それと普段自分があまりしないこと、例えば大声で笑ったり、うそ泣きしたり、そういう疑似体験をしてみることも、あながち悪いことじゃないと思いますよ。脳の活性化のためにもね(笑)」 |
撮影:岸隆子 |
橋爪功(朗読)×小曽根真(ピアノ) 「裁判劇 Terror」
8月13日(土)午後2時と6時、日経ホール(地下鉄大手町駅徒歩2分)で。
原作:フェルディナント・フォン・シーラッハ、翻訳:酒寄進一、演出:深作健太。
全席指定7500円。申し込みはチケットポート Tel.03・5561・9001(午前10時〜午後6時) |
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