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日頃から「断捨離」を実践している樹木さん。取材中も着ていた服をその場で脱いでスタッフに気前よくプレゼント。「助かるわ〜。物が一つ減っていくたびに、スキッとするのよ」 |
5月下旬、出演作「海よりもまだ深く」が公開
映画「誰も知らない」でカンヌ国際映画祭を沸かせた是枝裕和監督の新作「海よりもまだ深く」が5月下旬から上映される。同作に出演した樹木希林さん(73)。中年になっても定職に就かない、いわゆる“ダメ男”の息子の世話をする母親を軽妙に演じた。小説家になるという夢をあきらめきれず、その一方で愛想を尽かされた妻にまだ未練たらたらの息子を演じるのは阿部寛。映画の中では「幸せは、何かをあきらめないと手にできないのか」が問われているが、樹木さん自身は「あきらめる、というよりも俯瞰(ふかん)で見ればいい」と話す。
台風の夜、いつもは離れて暮らす11歳の1人息子の真悟と元妻の響子、そして自称・作家で現実は興信所のアルバイトで何とか食いつないでいる真悟の父親の良多は、良多の母・淑子の住む団地に泊まることになった。他愛ない会話の流れで、息子は父にたずねる。「パパはなりたいものになれた?」。一瞬、答えにつまる良多。
樹木さんは「一族に1人や2人はこういう息子みたいな人がいるのよね。一族の垢(あか)を背負っちゃうの」と、独自の見解を示す。実生活では歌手の内田裕也との間に生まれた1人娘(女優の内田也哉子)がいることは周知の通り。
「私は子どもを産んで良かったけれど、現実にこういう息子がいたら苦しくなっちゃうでしょうね。でも母親なら『誰が何て言ったってうちの子はかわいい、悪いのは父親の血筋(笑)、もしくは嫁の辛抱が足らないからで(笑)、本当は出来がいい』と思いたいわよね」
ありがとうと言ってこの世を去りたい
主人公・良多のように、時代の波に乗れず不器用に生きる人は一定数いる。樹木さんは「みんな自分に期待しすぎるのよ」と優しく叱る。
「私なんて子どものころは運動会ではいつもビリだし、何をやっても人と同じにできなかったから、夢なんか見なかった。女優になったのも夢がかなったとかじゃないの。常に自分に期待しないから、夢がかなわないなんてこともなかったわね」
“期待しない、結果を求めない”でやってきた女優歴は50年超になる。最近では映画「わが母の記」「あん」などの話題作に出演。紫綬褒章、旭日小綬章も受章した。しかし樹木さんは、「演じることには無欲なの」と謙遜。
「チョイ役の方が好き。いい役がほしいとか、賞を取らなくちゃ、なんていうことは考えられないわね」と続けた後、「本当は考えなくちゃいけないんだわねぇ」と笑う。
仕事でも私生活でも意識しているのは「俯瞰」。自分の演技や、置かれている状況に陶酔しない。少し離れた位置から客観的に見るようにしている。映画の中では「幸せは何かをあきらめないと手にできないのよ」と息子を諭すシーンがあるが、樹木さん自身は「あきらめる、というよりも俯瞰で見ればいいのよ」と言う。そうすれば、執着していたことから少し距離を置くことができるからだ。
「この映画でいうと、良多も最後にちょっとだけ自分の姿を俯瞰して見ることができたんじゃない? そこで今まで気付かなかったものが見えた時に、望みが生まれたんじゃないかな。いつまでも泥の中をあっぷあっぷしているのは、つらいからね」
本作の撮影は、是枝監督が20代まで住んでいたという東京都清瀬市の団地で行われた。かつては若い家族でにぎわっていたが今は高齢化が進み、首都圏とは思えない静けさと昭和の雰囲気が残る。全身にがんを患う樹木さんは、「エレベーターがないから、息が切れて大変だった。がんよりこっちの方が大変よ」とぼやく。
10年前に乳がんが分かった時は手術を受けたが、現在は放射線治療を定期的に行うのみで普通の生活を送っている。薬も飲まず、長生きも望んでいない。「寿命が尽きたら、“ありがとうございます”、と言って去りたい」と穏やかに語る。
「もしもの時も、延命治療だけはやめてもらいたいと思っているの。周囲にもちゃんと言ってあります。大丈夫よ、うちには『おくりびと』(娘婿の本木雅弘が主演した映画のタイトル)がいるから(笑)」 |
©2016 フジテレビジョン バンダイビジュアル AOI Pro. ギャガ |
「海よりもまだ深く」
笑ってしまうほどのダメ人生を更新中の良多は、元妻の響子に恋人ができたことにショックを受け、息子を連れて母のもとに出向く。すると台風が来て翌朝まで帰れなくなってしまい…。
監督:是枝裕和、出演:阿部寛、樹木希林。117分。
21日(土)から横浜ブルク13(Tel.045・222・6222)ほかで上映。 |
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