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  横浜・川崎版 平成28年3月号  
「俳優は生き方が問われる」  俳優・大杉漣さん

眼鏡は大杉さんのトレードマーク。映画「蜜のあわれ」でも老作家が掛ける眼鏡を自身で探したほど思い入れがある。「昭和のテイストが出るように、店長さんとあれこれ打ち合わせをして調整していただいたんですよ」という丸眼鏡にも注目!
室生犀星の小説映画化「蜜のあわれ」で老作家役
 ある時は裏社会の人間、またある時は一流企業の社員、そして自分を鳥と思い込んでいる男…。「300の顔を持つ」とまでいわれるほど、これまでさまざまな役を演じてきた俳優の大杉漣(れん)さん(64)。北野武、新藤兼人、黒沢清など、名だたる映画監督と仕事をしてきた。4月には室生犀星(さいせい)の晩年の作品を映画化した「蜜のあわれ」に老作家役で出演する。「俳優は、どうやって生きているのかが問われている仕事だと思うんです。世の中が与えてくれるものに慣れ過ぎず、自分で探し問い続ける、その姿勢を忘れずにいたいですね」と話す。

 「蜜のあわれ」では、少女になった金魚と恋をする老作家を演じた大杉さん。小悪魔的な魅力を振りまく金魚の少女役の二階堂ふみさんと共に、耽美(たんび)で摩訶(まか)不思議な世界を表現した。映画は室生犀星の同名小説をベースに作られたもの。撮影も犀星の故郷・石川県金沢市など北陸で行われた。

 「主人公の老作家は犀星さんが自分自身を投影したと推測されるキャラクターです。映画では作家の妄想を描いていて、ある意味哀れでもあるけれど、チャーミングでもある。そんなおかしみが伝わればうれしいですね」と大杉さんは話す。

 自宅で飼っている犬の「風(ふう)」ちゃんと猫の「寅(とら)」ちゃんを溺愛している大杉さんだけに、金魚の恋人を持つ役柄には抵抗がなかったとか。「もしトラちゃんが人間になったら、結婚します(笑)」とにやり。

 スタッフみんなで作品を作る撮影現場をこよなく愛する大杉さんは、そんな自身を“現場もん(者)”と呼ぶ。撮影は「日々、闘い」だそうだ。「作品や監督によって演出もアプローチの仕方も違いますし、そもそも、ものづくりってルールがない。言葉と闘い、自分と闘い、闘い続けないと成立しない仕事。また、生き方が問われる仕事でもありますね。常に“ING”(進行形)でいること、フットワークを軽くすることも大事です」

 30代後半までは舞台が中心で、「映像の世界は遠いものだった」と振り返る。所属していた劇団が解散して以降、北野武監督の「ソナチネ」への出演を皮切りに、テレビや映画を問わず数え切れないほどの映像作品に出演してきた。しかし、俳優としての姿勢には特に大きな変化はない。

 「若い時と比べてフィールドは変わったけれど、演じるということは一緒ですね。僕はサッカーが大好きなんですけど、サッカーで例えるなら芝生でしかできないんじゃなくて、石ころがあっても普通の土の上でも、フィールドがない所でもやりたい。同じように仕事もここでしかやらない、ということはないです。それが、“大杉漣的俳優”の在り方かもしれないですね」

 俳優としても人間としても、「こうあらねばならぬ」という縛りは設けていない。年齢的なこともことさら意識しない。映画で演じた「老いのおかしみ、恐れ」も、特にないという。「年だからとか関係ない。人それぞれでいい」と言う。怖いのは「ノウハウに慣れてしまうこと」だ。

 「今の世の中、与えられていることに慣れ過ぎてしまうことがありますね。受け入れることも大事だけど、自分の過ごし方は自分で選びたいし、見つけたい。そして出合っちゃったものは、楽しみたい。俳優もそうだし、サッカーも下手なんですけど40年以上やってもまだ楽しいんです。楽しみには苦しみも伴いますが、それを乗り越えるのがまた楽しいんです」


©2015『蜜のあわれ』製作委員会
4月1日から横浜ブルク13ほかで上映
 自分のことを「あたい」と呼ぶ少女“赤子”。共に暮らす老作家を「おじさま」と呼び、きわどい会話を繰り返し、小悪魔ぶりを発揮している。ある時、老作家の講演会で赤子は謎の女と出会う。

 原作:室生犀星「蜜のあわれ」、監督:石井岳龍、出演:二階堂ふみ、大杉漣、真木よう子ほか。110分。

 4月1日(金)から横浜ブルク13(Tel.045・222・6222)ほかで上映。

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