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  横浜・川崎版 平成27年6月号  
特別展「戦後70年 時計屋さんの昭和日記」  横浜都市発展記念館で開催

独立開業した下平時計店の前で(個人蔵・昭和30年ごろ)。後列右が下平さん
厳しい時代でも前向きに
 6月10日は時計の日。横浜都市発展記念館では28日まで、特別展「時計屋さんの昭和日記 ─一青年のみた戦中戦後の横浜─」を開催中だ。同展は横浜・根岸の時計店に奉公していた1人の青年の日記を読み解き、そこから見えてきた戦中戦後の横浜の様子を写真や数々の資料とともに追ったもの。同展を担当した𠮷﨑雅規調査研究員は、「厳しい時代を前向きに生き、最終的に幸せを得た一青年の人生と、その背景にあった時代相をぜひご覧ください」と話す。

 日記の書き手である下平政熙(まさひろ)さんは、1930(昭和5)年、根岸の谷﨑時計店に奉公するため長野県下伊那郡上郷村(現・飯田市)から横浜にやって来た。そして到着したその日から、76歳で死去する前日までの64年の間、出征中を除いて毎日、日記を書いていた。

 奉公先では朝早くから夜遅くまで働き詰めの日々を送り、仕事を終えた後はハーモニカを吹いたり、レコードを聴いてほっと一息。通信教育の勉強をすることもあった。たまの休みには映画鑑賞や、海水浴へ。日記からは、そんな戦前の横浜の庶民の暮らしが見えてくる。

 「下平さんの日記は丁寧な情景描写があるのが特徴です。おそらく日記を書き始めたころは、故郷へ手紙を書く時の“ネタ張”となるよう、意識して記していたからではないかと考えています」と 𠮷﨑さんは話す。

 やがて大平洋戦争が始まった。日記からは、徐々に生活が苦しくなっていく様子がうかがえる。42(昭和17)年4月、中村町に焼夷(しょうい)弾が投下されたのを機に、防空訓練も頻繁に行われるようになった。

 下平さんは44(昭和19)年3月から、出征のため横浜を離れた。その後、横浜の空襲は数を増し、45(昭和20)年5月29日の横浜大空襲では多くの死傷者を出した。同展では横浜大空襲直後の被害の様子を日本人が撮影した貴重な写真も初めて公開している。


下平政熙氏の日記(個人蔵)
日記にあふれる人柄に胸熱く
 戦後、復員した下平さんは前にも増して仕事に打ち込み、ついに独立。48(昭和23)年1月20日、18年前に横浜にやって来た記念の日に、磯子区・滝頭の住宅兼店舗で「下平時計店」を開店したのだ。この日は下平さんにとって「一生忘れる事の出来ない喜びの日」となったと記されている。

 独立の3年後には結婚も果たす。結婚数日後の日記には、「どうしてこんなに毎日が夜も昼も楽しいのかと、ピンセット持つ手を止めて、天井を眺め、畳を眺めて温い気持に包まれている」とある。やがて子どもが生まれ、横浜の経済状況も回復していき、日本は高度成長期へと突入していく。

 下平さんは94年1月に76歳の生涯を閉じた。死後、さまざまな資料が横浜市技能文化会館、セイコーミュージアム、当時は設立準備段階だった横浜都市発展記念館に寄贈された。そして、その時に寄贈された「炊事日記」(同展でも紹介)を分析するために下平さんの子息と話をするうちに、 𠮷﨑さんは店舗の本棚に残されていた日記の存在を知ったという。

 当初、日記は歴史的資料としての価値に重きを置かれていた。けれど日記を読み解くにつれ、下平さんの人柄や人生に引き付けられた 𠮷﨑さんは「必ずしも普遍化できない一人の青年の人生を描きつつ、その背景にあった時代相を見せる方が訴える力が大きいのでは」と考え直し、構成を変えたという。

 「本展を開催して1カ月ですが、来場者の方にご好評いただいているのは、所々に展示した日記の抜粋からあふれている下平さんの人柄のお力だと感謝しています。厳しい時代にも前向きで我慢強く、真面目。家族思いで、仕事や交際に誠実。そんな人柄がしのばれる下平さんの人生だからこそ、胸を熱くさせるのでしょう。皆さまもぜひご覧になってください。ご来場をお待ちしています」

特別展「戦後70年 時計屋さんの昭和日記」
 特別展「戦後70年 時計屋さんの昭和日記─ 一青年のみた戦中戦後の横浜─」は28日(日)まで、横浜都市発展記念館(みなとみらい線日本大通り駅すぐ)で開催中。月曜休館。
 「時計の日」にあたる10日(水)は、時計や時計に関するものを持参すると通常300円の入館料が240円に。また2日(火)の開港記念日は無料開館。14日(日)午後2時からは展示解説を行う(45分)。
 横浜都市発展記念館 Tel.045・663・2424

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