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  横浜・川崎版 平成25年10月号  
「血か? 時間か? 家族とは?」  映画監督・是枝裕和さん

カンヌ映画祭では、審査員で女優の二コール・キッドマンからも称賛の声を掛けられた。「欧米では養子制度が定着しているので、より身近に感じたようですね」
監督作「そして父になる」がカンヌ・審査員賞受賞
 ことし5月に開催されたカンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞した映画「そして父になる」がいよいよ公開となった。主演は福山雅治で、6年間育てた1人息子が他人の子であると知り、「血か、時間か」と悩みながら成長していく父親を好演している。本作の監督・脚本を務めたのは、自身も女の子の父親である是枝裕和さん(51)。「自分が父親になってから日々悩んでいることを主人公に悩ませてみたいと思いました。この映画が、親子ってなんだろう、父親ってなんだろうということを考えるきっかけになればうれしい」と話す。

 都内の高層マンションに住み、一流企業に勤める野々宮良多の一家は、誰もがうらやむ家族のはずだった。我が子が自分たち夫婦と血がつながっていないことが判明するまでは。出生時にいわゆる「取り違え」が起きていたのだ。

 病院の手配によって、両家は顔を合わせ、先々について話し合う。これまでの例では、ほぼ全員が「血」を優先しているという。つまり、これまで育ててきた子どもを手放し、他人の家で育ってきた子どもを受け入れるということだ。良多の周囲も血を選べと口を出す。良多自身、気弱な息子の性格に日ごろから疑問や物足りなさを感じていたことは事実だ。6年間、手塩にかけて育ててきた子どもを手放すことはできるのか? それぞれの思いが交錯するなか、ひとまず試験的な交換が行われる─。

 是枝監督は言う。

 「この映画は『血か、時間か、あなたならどちらを選びますか』と迫っているのではないのです。福山さん演じる良多が、取り違えという問題に取り組むことで、父親として成長していく物語なのです」

 「そして父になる」がカンヌ映画祭で上映された後、場内は10分もの間、拍手が鳴りやまなかったという。養子制度が定着している欧米では子育てにおいて「血か、時間か」というテーマは非常に身近で、ゆえに反響も大きかったようだ。映画祭の審査員の1人で女優のニコール・キッドマンは上映後、是枝監督に「母親の気持ちがとてもよく分かる。感動した」と賛辞を惜しまなかったが、彼女も実子、養子、代理母から生まれた子どもを育てている。

 「トロントの映画祭でも、ある人が『自分は養子を育てているが、その子が大人になって悪いことをした時に育て方が悪かったからなのか、その子の実の親の血筋のせいなのかというのをすごく悩んだ』と話してくれました」と監督。

 そもそもこの作品を製作したきっかけは、数年前に監督自身が女の子の父親になったことから。10カ月お腹に子どもを宿してから出産に挑む母親に比べ、父親は子どもとのつながりに心もとなさを覚えるというのは世の通説だが、是枝監督もその例にもれなかったという。どのようにして自身の父性を育てていくのか、それは監督自身の課題であった。

 「子どもができてから自分の子ども時代のこと、そして今はもういない自分の父親のことを考えることが増えました」と振り返る。

 「あの時、おやじは何を考えていたのかな、とか。それほど密着した記憶はないし、いい思い出だけではないですが、みんなそうですよね。当時は今みたいに“イクメン”(育児に積極的に参加する父親のことを指す)なんて言葉はなかったし(笑)。自分の父親象を見つめ直し、乗り越えていくことも父になるひとつの形かな、と思います」

 2004年に発表した「誰も知らない」で“世界のコレエダ”となった監督だが、転機作は、当時死去して間もなかった母親への思いを込めた「歩いても 歩いても」(08年)だ。

 「それ以来、自分の体験を掘り下げて映画にする、という形になってきました。撮っていると色々な発見がある。それが楽しいんです。分からないことを分かりたいですから」


©2013『そして父になる』製作委員会
「そして父になる」
 監督:是枝裕和、出演:福山雅治、リリー・フランキー、樹木希林。120分。横浜ブルク13(Tel.045・222・6222)ほかで上映中。

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