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気軽にクラシックを…「糀ホール」開館20年 同ホール経営の岡野洋貴さん |
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「地域に憩いの場を作りたい」と話す岡野さん |
川崎市高津区溝口に明治中期から続く元・造り酒屋(現在は小売り)が営む音楽ホールがある。その名も「糀(こうじ)ホール」。酒造りに欠かせないコウジと、居心地の良い、という意味の“cozy”を掛けて命名された。同ホールは田園都市線沿線の音楽愛好家には、すっかりおなじみだ。ことし開館20周年を迎え、9月27日にはピアニスト・舘野泉さんのリサイタルを開催する。同ホールを運営する岡野洋貴(ひろき)さん(72)は、「ホールの開業は、当時バブルで浮かれている社会への疑問がありました。音楽は生活の潤滑油。地域の方の生活に潤いをもたらすお手伝いができれば」と話す。
糀ホールは、1階に岩崎酒店を有する岩崎ビルの5階にある。収容人数は140人。週末の多くは音楽の発表会や小規模コンサートに使われ、年に4、5回は同ホールが企画するクラシック音楽の演奏会が開かれる。
客席と舞台を合わせたホールの広さは、約140平方メートル。舞台と客席の距離は驚くほど近い。この密着度は、大ホールでは決して味わえない。
「もうけは考えていないんです。演奏家の方も、それに賛同してくださる方にお願いしています」と岡野さん。「地元の方が気楽に来ることができて楽しめる、アットホームな演奏会になればいい。よく冗談で“げたばき音楽会”なんて言っていますが、ぱっと来て、家族で食事でもして家に帰る、そんな機会がもっと増えればいいと思っているんです」
今の日本では、そういったチャンスは少ない。
「都内まで聴きに行くと、往復にとても時間がかかるでしょう。それが原因で音楽から離れてしまうのはもったいない。音楽は生活の潤滑油ですから」。岡野さん自身、高校、大学とブラスバンドでトロンボーンを弾いていた。「大学時代は神宮球場にばかり」いて、母校の応援歌を演奏していたという。
ホールが竣工したのはバブル崩壊後の93年。先代から受け継いだ資産を活用する目的と、「何か地域の憩いの場になるものを」という考えから、決行した。
「わたしは40代半ばで家業に専従する以前は、サラリーマンでした。その当時、日本は経済一辺倒。でも出張でよく行ったヨーロッパは日本ほどモノ、カネを追いかけまわしていない。生活に落ち着きがある。考えさせられました」。そういった経験が、ホール事業を始める土壌になった。
これまで、ギタリストの荘村清志、バイオリニストの大谷康子などの著名演奏家が糀ホールで演奏してきた。9月に演奏を行うのは、糀ホール出演4回目となる舘野泉さん。02年に脳出血により右半身不随となるが、不屈の精神で復活し、「左手のピアニスト」として今もなお世界中から熱い支持を得ている演奏家だ。
1階の岩崎酒店の前で。2階はギャラリー |
地域活動にも尽力
糀ホールでは、これからが期待できる音楽家の演奏会を開くことも多い。以前は、岡野さんの妻・正子さん(65)が中心になって企画してきたが、現在は、ボランティアグループの「田園クラシック音楽の会」と一緒に企画している。
ホール事業を始めてうれしいことのひとつに、いろんな人とのつながりができたことがあると岡野さん。また高津区民音楽祭や溝口大山街道振興会など、地域の仕事に関わることが多くなった。
「日本を良くするにはまず地域から。そのためには、まず我々高齢者がやっていかないと。定年になって時間のある方にはぜひ地域活動に参加してほしいですね」と呼びかける。
インタビュー中、何度も「地域のために」というフレーズが出てきた岡野さん。クールな表情の裏に秘めた、「まち」への熱い思いを感じた。 |
舘野泉 左手のピアノ演奏会
9月27日(金)午後7時、糀ホール(JR・東急田園都市線溝の口駅徒歩5分)。
バッハ(ブラームス編曲):「シャコンヌ」、スクリャービン:「左手のための小品 前奏曲と夜想曲 作品9」、吉松隆:NHK大河ドラマ「平清盛」より「遊びをせんとや」ほか。
全席自由4500円。糀ホール TEL.044・812・6090 |
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