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「ミューザだからできる企画を楽しみたい」と話す小川さん |
3年ぶり、ミューザ川崎で音楽祭開催
2011年3月11日、東日本大震災でホールが被害を受け、当面の間使用不可となったミューザ川崎シンフォニーホール(以下ミューザ)。長らくの復旧作業を経て、ことし4月に待望の再オープンを果たした。7月28日からは3年ぶりにミューザを本拠地に戻し、音楽祭「フェスタサマーミューザKAWASAKI」を開催する。川崎市民でもあり、同ホールのアドバイザーを務めるピアニストの小川典子さん(51)も、ミューザの復活を心待ちにしていた。「ホールの使用停止という痛みを味わったことによって、以前よりも市民やスタッフの結束力が強まったと思います」と語る。
小川さんは生まれも育ちも川崎市。アメリカ・ジュリアード音楽院に留学後、渡英し、現在もイギリスを拠点に演奏活動を行っている。日本でも頻繁に公演を行うため、帰国することも多い。東日本大震災の発生時は、ちょうど多摩区の自宅近くにいて、ミューザが当分使えなくなったこともすぐ耳にした。
しかし、阿部孝夫川崎市長はいち早くその年のフェスタサマーミューザを空いている施設を使って開催することを決断。当時、すでに市民の中で「音楽のまち・かわさき」やフェスタサマーミューザが浸透しつつあり、「建物(ハード)がないからといって、これまで育ててきた音楽祭(ソフト)をやめるというのは違うのではないか」という考えからだった。
「あの決断は、音楽に携わる者にとって何よりの頼りの一言でした。起こってしまったことはつらかったけれど、後は前を向いて進むしかない。形にこだわらず、ソフトを優先する、そういう考えを行動に移したのは、日本では珍しいと思います。そして一丸となって代替公演をやり切ったスタッフの結束力も素晴らしい」と小川さんは拍手を贈る。
結局、11年も12年もフェスタサマーミューザは会場を変更、拡大して継続。その結果、「音楽のまち・かわさき」の風が市内全域に広がるといううれしい驚きもあった。
フェスタでは子どもをステージに
ことしのフェスタサマーミューザは7月28日(日)から8月11日(日)まで。期間中の8月4日(日)に、小川さんは子どもをステージに上げ演奏姿を間近で体験してもらう「ピアノ★ミラクル」を行う。曲目はあえて「子どもっぽくないもの」を選ぶ。企画側の真意が伝わるのか、毎年、参加した子どもからはかなり本格的な質問が出る。
「こういった試みはイギリスでもやっていますが、ここまで大掛かりなのはミューザだけ。子ども向けのプログラムは大人向けのものより神経を使いますし、多くの理解者と協力してくださる方が必要です。でも小さいうちから生の音楽に触れることはとても大切なことだと思います」
小川さんの演奏が世界で高く評価されるのは、的確な曲の解釈と、その表現力にある。また、クラシックから現代音楽までレパートリーは広い。
ことし7月には、イギリスで開催される世界最大の音楽祭「BBCプロムス」に招待されている。当日はもう一人のピアニストと連弾でマルコム・アーノルドの「2台3手のためのピアノ協奏曲」を演奏する予定だ。
イギリスの風 ようやく日本にも
渡英して26年。イギリス人の気質、暮らしは「水が合う」という。「イギリス人はお葬式でも泣かないのに、オペラを見て泣く。音楽の助けを借りて泣くんです」。彼らとともに過ごす毎日は「音楽がいかに心を揺り動かすのか」ということに気付くという。
ミューザを本拠地とする東京交響楽団の次期音楽監督がイギリス人のジョナサン・ノットに決定したことにも触れ、「ようやくイギリスの風が日本にもどんどん吹いてきていることがとてもうれしい」と喜ぶ。
9月には趣向を変えた3公演を開催
9月7日(土)には丸1日ミューザを使ってランチタイム、アフタヌーン、イブニングの計3公演を行う「Noriko's Day」を開催する。
アフタヌーンのプレトーク「典子の部屋」には女優・かたせ梨乃を招き、「イブニング・ラブ・ソング」ではソプラノ歌手・鮫島有美子とリサイタルを行うなど内容も充実。同日の午前中には公募したピアニストの若き卵にレッスンも付ける。
「ミューザだからできた企画です。絶対に面白いと思います。ここから未来の名プレーヤーが育っていくことがあれば」と期待に胸を膨らます。
ピアニストとして、日英のかけ橋として、小川さんの更なる活躍に期待したい。 |
ユベール・スダーン |
フェスタサマーミューザ KAWASAKI 2013 7/28〜8/11
会場はミューザ川崎シンフォニーホール、テアトロ・ジーリオ・ショウワ(2公演)。
日本を代表する9つのオーケストラが出演する。オープニングはユベール・スダーン(写真)率いる東京交響楽団。各公演の演奏時間は70分〜2時間。
チケットは3000円前後。問い合わせはミューザ川崎シンフォニーホール TEL.044・520・0200 |
Noriko's Day
9月7日(土)、ミューザ川崎で「ランチタイム」と「アフタヌーン」が各1500円、「イブニング」が2500円。3公演のセット券は4500円。問い合わせは上記電話番号へ。 |
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