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「バッハには内面的な躍動感と自由があります。そして、静かなパートは敬けんな気持ちになれるのです」と話す堤さん=サントリーホール館長室で |
みなとみらいホールで無伴奏チェロ組曲を演奏
日本のクラシック音楽界の黎明期に、数少ない日本人演奏家として世界中で活躍し、多くの後輩をけん引してきたチェリストの堤剛(つよし)さん(70)。4月7日(日)に横浜みなとみらいホールで演奏会を行う。曲目は、J・S・バッハ「無伴奏チェロ組曲」全6曲だ。「バッハには内面的な躍動感と自由があります。そして、静かなパートは敬けんな気持ちになれるのです」とその魅力を解説する堤さん。全6曲を1日で聴くことができるコンサートは非常に少なく、貴重な機会となる。「音と音が響き合う、ヨーロッパの教会で聴くような演奏を、みなとみらいホールで目指したい」と堤さんは語る。
堤さんにとって、演奏会でバッハ「無伴奏チェロ組曲」全6曲を弾くのは、今回が2回目となる。
「以前の演奏会では1番から6番まで順番に弾いたので、最初の方はいいのですが、4番、5番となると大曲ですから、お客さまもわたくしもお互いにくたびれちゃって(笑)。そこで今回は、1部は1番と5番、2部は2番と6番、3部は4番と3番というふうに組んでみました。これですと、柔らかいものと強いもの、といった対比がありますし、お客さまにもそれほど負担なく、それでいて6曲全部が俯瞰(ふかん)できると思ったのです」と構想を述べる。
バッハ「無伴奏チェロ組曲」は、20世紀最大のチェリストと呼ばれたパブロ・カザルスの十八番でもあった。カザルスは、それまで練習曲というイメージが強かったバッハに光を当て、その魅力を世界に広めた立役者でもある。カザルスは、晩年まで毎日のようにチェロ組曲を弾いていたという。
“重なる音”をイメージして弾く
「ある人がカザルスに『先生、そんなに弾いて飽きませんか?』と尋ねたところ、『とんでもない、弾くたびに新しい発見があります』と答えたとか。わたくしも弾くたびに自分なりに曲を掘り起こしてみます。そうすると、今までに気付かなかったものが見えたり、聴こえてきたりするのです」と話す堤さん。
音楽の仕事をしていた両親のもとに生まれた堤さんは、東京生まれ、湘南育ち。幼少からバイオリンを始め、その後チェロに転向し、斎藤秀雄氏に師事。バッハの曲には子どものころからなじみがあり、「その素晴らしさは子どもなりに感じていました」と話す。
「バッハの持っている内的リズムは、うわーっと盛り上がるものではないけれど、常に躍動感がありますね。タイミングの取り方によって音の広がりが出てきますので、色々な弾き方ができるのです。本当の意味での自由さと内面的躍動感が、バッハの魅力だと思います」
しかし、堤さんの言うように“自由に”弾くためには、技術がなければできない。堤さんの卓越したテクニックがあってこそ、バッハの持つ自由を表現できるのだ。
堤さんは以前、バッハが演奏したドイツ・ライプチヒのホールでバッハの組曲を3曲弾く機会に恵まれた。その時、サロンでは音がすぐ消えず、いくつも重なって聞こえることに驚き、またヒントを得たという。
「チェロという楽器はピアノやオルガンと違って単音しか出ないのですが、バッハはこんな風なイメージで作曲したのかと目が覚めたような気持ちでした」とかみしめるように振り返る。
それ以来、「いかに音と音が重なって聞こえるか」を意識しながら、弾くことを心がけている。その点、4月の演奏会会場となるみなとみらいホールは、「重厚な音を楽しむには最適」と堤さんの期待も大きい。
「みなとみらいホールにはパイプオルガンがありますので、チェロと共鳴し、組曲を弾くのにぴったり。非常に楽しみです」と笑顔をみせる。
最近、高齢者の間でチェロを習うことが流行っているという。
「チェロは座って弾きますし、楽器の持ち方も自然なのでメソッドさえちゃんとやっておけばいくつになっても上達できるので、定年を過ぎて何か楽器をやってみたい方にはお勧めです。ぜひ挑戦してみてください」と堤さんからアドバイス。
日本のクラシック音楽界を長きにわたってリードしてきた堤さん。最高の音を追求する姿勢は未だ衰えず、穏やかな口調には人格者の風格があった。 |
(C)K.Miura |
堤剛のバッハ無伴奏全曲
4月7日(日)午後1時、横浜みなとみらいホール(みなとみらい駅徒歩3分)で。
満を持しての無伴奏全曲。休憩2回、4時15分終演予定。
全席指定4800円、65歳以上4300円、舞台後方席3500円。
問い合わせ・予約は
TEL.045・453・5080 |
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