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相棒の「ゴローちゃん」と笑顔を届ける城谷さん |
独学で腹話術を学び、定年と同時にプロの腹話術師となった城谷護(まもる)さん(70)。現在、東京・浅草東洋館の定期公演のない時は、東日本大震災の被災地へ相棒の「ゴローちゃん」とともに訪問している。これまでも三宅島や中越地震の被災地など160カ所以上の避難所を回り、ボランティア公演を行ってきた。また養護学校や老人ホームへも出向く。「喜んでいただくことが、自分の元気になります。今後の目標は腹話術を医療に役立てること。認知症や自閉症の人で、人とは話さないのに人形だと話したり笑いかける方がいらっしゃるので、そういった方面でもっと腹話術を役立てたい。ただ腹話術師の人数が少ないのが悩み。定年後に始めても十分間に合うので、一緒にやってみませんか?」と呼び掛ける。
城谷さんのネタには時事ものが多い。
「長生きにはこつがあるよ」「教えて」「それはね、役所に届けを出さないこと!」
城谷さんとゴローちゃんのやり取りに会場はどっと沸く。子ども用のネタもある。
「ゴローちゃん、自己紹介しよう。星座は? おじさんはやぎ座」「ぼくギョウザ!」「違う違う、じゃあ血液型は?」「クワガタ!」。シンプルで分かりやすい駄じゃれに、被災地の保育園の子どもたちは笑い転げた。
「被災地の方は腹話術どころじゃない心境だったでしょう。4月に宮城県の高校の体育館の隅をお借りして公演しましたが、集まったのは10人ぐらい。でも腹話術を終えると段ボールの仕切りのあちこちから拍手をいただきました。『ゴローちゃん、1カ月ぶりに笑ったよ』と握手をしてくださったおばあちゃんがいて、うれしかったですね」
ゴローちゃんと握手する女性(宮城県で) |
“医療や福祉に役立てたい”
長崎から上京し、船舶設計技師の仕事をしながら45歳で腹話術の勉強を始めた城谷さん。若いころから劇団に入っているが、みな忙しくて出演依頼に応じられず、1人で気軽にできる腹話術に魅せられた。ある師匠の門をたたいたが、断られたので独学を続ける。その後、城谷さんの熱意を認め、その師匠は何度か指導してくれた。
アマチュアで15年活動後、60歳の時に東京演芸協会の試験を受けて、見事合格。晴れてプロに。現在、浅草東洋館などに定期的に出演している。
その一方で、長崎県の雲仙普賢岳、阪神大震災の神戸、三宅島などこれまでに行った被災地激励公演は160回に上る。また、老人ホームや支援学級、養護施設などでも公演を行っている。
「重度の身障者の方も認知症の方も、とても喜んでくれます。自閉症の子どもで、人とは話さないけれど人形とは話したり抱きしめたりする子もいるんですよ。にこっと笑ってくれたりね。とても感動します」
今後は娯楽だけでなく、医療や福祉に腹話術を役立てることを目指している。「笑うことは体にもとても良いでしょう。でも現在は腹話術師の数が足りていないので、後輩の育成に力を入れています」
城谷さんのもとには、定年を迎えて習いに来る人も多い。「定年後は練習時間もたっぷりあるし、十分間に合います」と太鼓判を押す。腹話術を習い始めてから、夫婦の仲が変わったという人もいるという。
「2人から人形を入れて3人になることで、会話が増えたそうです。『下手くそだな』という言葉も、直接本人に言うのと人形に向かって言うのとでは違うでしょ(笑)。病気の人がいる家庭も、腹話術で明るくなったそうです」
被災地を回り続けて城谷さんが思うことは、「支え合いの大切さ」。
「日本は災害列島。どこにいても地震や台風、水害などが起きる。だからこそ助け合うことが大事ですね。腹話術をやればやるほど、人って支えあっているんだな、と実感するんですよ」
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