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延命治療を拒否 “笑ってさよなら” 俳優/入川保則さん |
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取材中、終始笑顔が絶えなかった入川さん。取材場所に、自ら購入した泉屋のクッキーを差し入れてくれた |
末期がん、最期のメッセージ
テレビ番組「水戸黄門」の悪徳商人や、杉良太郎、ミヤコ蝶々らの舞台など幅広い分野で名脇役として長年活躍してきた俳優の入川保則さん(71)。昨年、末期の直腸がんが発覚し全身に転移、余命半年と宣告された。入川さんは延命治療を拒否し、「死に逆らわない」と発表、話題を呼んだ。最近になってその死生観を「その時は、笑ってさよなら 俳優・入川保則余命半年の生き方」(ワニブックス)として出版。その内容に迫った。
手術を一度は受けたが、抗がん剤も投与しない「無抵抗主義」を貫く入川さん。現在は通院しながら神奈川県内で1人暮らしをしている。
「2つの病院で診ていただいて、どちらからもあと半年といわれました。絶対に治るなら借金してでも手術をしますが、そうじゃない。戦争も経験したのに僕は71歳まで生きることができたし、がんは仕事を引退するいいきっかけにもなったので、延命治療をしないことにしたのです」
“命の期限”は8月だったはずだが、7月半ばの取材時点では入川さんの顔色はすこぶるよく、とても末期がん患者と思えない。普通、末期になると食欲は落ちるが、毎日の晩酌は欠かさず、むしろ体重は増えたという。「このままじゃ、“がんもどき”と言われてしまう」と笑わせる。
幸いなことに今のところ痛みがなく、投薬の必要がない。「他のがんではこうはいかなかったでしょうね」
日々、体力の衰えは感じているが、「よく歩くようにしていたらふらつきがなくなりました。震災後、駅のエスカレーターが止まっていることが多くなって、階段を上らないといけなくなったのが良かったのかもしれません」とまた笑わせる。
芸歴は50年以上
(ワニブックス・1155円) |
入川さんは兵庫県神戸市出身。6歳で終戦を迎えた。映画が大好きで、高校生の時にセミプロフェッショナルの劇団に入る。21歳の時に、大島渚氏が脚本を書いたテレビドラマ「青春の深き淵より」で主役を務め、それ以後テレビに映画に舞台と駆け抜けてきた。芸歴は約50年になる。
役者の力量が問われる舞台の仕事が好きだという。「役者としてのピークは65歳からの2〜3年」だった。
「これ以上上手くはできないな、と自分で思える境地にたどり着くことができたので、心残りがないのかもしれないですね。若い時はいい役をいただいたのに生意気なところがありましたね。そういうのが取れて、苦しんではい上がってくるのに50年かかったかな」と振り返る。
「がんになったことを喜んでいるわけではないし、決して死にたいと思っているわけではないけれど、役者は体が動かなくなったら終わりだし、体は動くのに仕事がないのもつらい。ある意味、自分の理想の終わり方を迎えることができたので、ぼくはラッキーだと思っているんですよ」と淡々と心情を説明する。
著書の中で、「もともと苦しいものを、楽しいものに変えていく過程こそが人生なんだ」と書いた。
「ぼくの場合、その楽しいことが役者の仕事でした。『成功した』、というより『面白かったな』、と思って死ねたらいい。実はがんを公表して、かえって仕事が増えたんです。また『水戸黄門』にも呼んでいただいたし(今秋放送予定)、今映画も撮っています。本当にがんに“ありがとう”ですね」
穏やかな顔をしていた。 |
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