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「いろいろな偶然に導かれて、今回の出版に至ることができました」と語るみつはしさん |
高校生の“チッチとサリー”の学園生活を描いた4コマ漫画「小さな恋のものがたり」や、朝日新聞日曜版に連載された「ハーイあっこです」の著者である漫画家・みつはしちかこさん(70)が、この春、没後20年になる相田みつをの詩にイラストを付けた詩画集「あなたにめぐりあえてほんとうによかった」(ダイヤモンド社)を出版した。「相田さんの詩も私の漫画も“普通の人”の味方。作画は不思議なご縁でした」とみつはしさん。実はここ数年間、自身の病気や夫の死などで休業していたが、同書の出版に向けて再び絵筆を握ったことで元気を取り戻したと喜ぶ。「いくつになっても夢をみたり、心をときめかせることは大事だと思う。野の花のように、かれんだけどたくましく生きたい」と語る。
野の花のようにかれんに、たくましく
みつはしさんはことしデビュー50年を迎えた。代表作「小さな恋のものがたり」は現在も連載中だ。初恋の人、サリーを明るくけなげに思い続けるチッチは、美人でもなく特別な才能があるわけでもない、普通の女の子。「コンプレックスだらけなあなたも人生の主人公」というみつはしさんのメッセージは、半世紀間ずっと変わらない。
一方、相田みつをの言葉や詩も、没後20年たった今も色あせない。東京・有楽町にある相田みつを美術館には、若い世代の姿も多く見られるという。
「もちろん相田さんの詩は知っていましたけれど、私とは遠い世界にいる人だと思っていました」とみつはしさん。しかし、編集者の猛プッシュもあって、話を聞くうちに気持ちも前向きに。
「ここ3年の間に、病気をしたり、夫を亡くしたり、その1カ月後に突然昏睡(こんすい)状態になって3カ月入院したりしました。こんな体じゃ家族にも迷惑を掛けるだけだし、『死んでしまってもよかったのに』と思ったこともあったぐらい、どん底でした。この本の依頼をいただいた時はとてもできないと思ったのですが、偶然にも編集者の方が私の母校でもあり、『小さな恋のものがたり』の舞台になった都立武蔵丘高校の後輩だったんです。こんなご縁があるんだな、と驚きました」
(ダイヤモンド社・980円) |
ときめく心を忘れないで
求めすぎないことを諭し、普通の人の心を慰める相田みつをの詩。「あなたにめぐりあえてほんとうによかった」という言葉がみつはしさんの心に染み込み、チッチとサリーの世界にすんなりマッチした。みつはしさんにとって「あなた」というのは読者のことでもあり、チッチのことでもあり、また周囲の人のことでもある。巡り合いは、ひとつひとつが奇跡なのだ。
自然と筆が進み、表紙を含めて4枚を描き下ろした。中でも、秋の夕暮れの中、道の奥からチッチがサリーに向かって笑顔で走り寄っていく一枚が、みつはしさんのお気に入り。「元気になってまたあなたに会いに行くわ、という気持ちがうまく表せました」と満面の笑みを浮かべる。
若い主人公2人の絵を描いているうちに、みつはしさんの体も回復し、どんどん元気になってきた。「まるでチッチとサリーにエネルギーをもらったみたいです」
「あなたにめぐりあえてほんとうによかった」から(ダイヤモンド社) |
ずっと綱渡り 病気で初心に
みつはしさんは、1回目の持ち込みですぐにデビューでき、その後も順調に漫画を描いてこられたことにずっと罪悪感があったという。また、10代の子を50年も描き続けていることにも無理があるのではないか、年齢に合わないんじゃないか、と今までを全否定するような気持ちになることもしばしばあった、と振り返る。
「ずっと綱渡りをしているような感覚でした。でも病気をして、しばらく仕事もお休みして、ふと昔の作品を読み返してみたら、『なんだ、私って昔から言ってることが変わってないじゃない。これで良いんだ』と肩の荷が下りたんです。波瀾(はらん)万丈だったり、向上し続ける人生ではないけれど、少しずつ違う毎日を面白がること、野の花のように生きることが私の原点なのだ、と気付きました。病気が初心に帰らせてくれたんです」と晴れ晴れとした笑顔で話す。
レンゲソウ、シュウカイドウ、オオイヌノフグリ─。本には、みつはしさんが大好きな花をたくさん描きこんだ。母を亡くした子どものころ、よく1人で野原に行って泣いていたみつはしさんを慰めてくれた野の花々。「かれんだけどたくましいところが好き」という気持ちは今も変わらない。
近いうちに、「小さな恋のものがたり」の第42巻も出版予定だ。病気を経た今、「チッチを描くのがすごくうれしいし、楽しい」という。描いているうちにチッチのキャラクターが憑依(ひょうい)してきて、自分もまた若返り、初恋のときめきも戻ってくる。
「年齢に関係なく、夢みたりときめくことは必要ですね。生きているという実感がわきますから」
少女のような瞳をキラキラさせた。 |
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