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萬屋錦之助や美空ひばりらから「お姉ちゃん」と呼ばれて慕われてきた淡島さん |
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5月公開の映画「春との旅」に出演
北海道の小さな漁村に暮らす元漁師の忠男と仕事を失った18歳の孫娘・春。足が悪く1人で暮らせない忠男は、春を連れ、ついのすみかを求めて兄弟の家を回る旅に出る。5月公開の映画「春との旅」で、忠男の姉を演じた女優・淡島千景さん(86)は、芸能界でも萬屋錦之助や美空ひばりら、たくさんの仕事仲間から「お姉ちゃん」と呼ばれて慕われてきた。そんな“お姉ちゃん”は、劇中のせりふ「生きるってつらいこと」に同感する、と話す。「でも『考える』ということができる人間として生まれてきたのだから、自分を楽しくさせることを見つけなくちゃ。『定年時代』はしたいことができる時よ」と、妹、弟たちにエールを送る。
「世の中は厳しいけれど、人のせいにしていてはだめよ。○○がこうだったからこうなった、なんて言ってもしょうがないこと。人間の命の期限は神様しか知らないわけだから、それまでは自分を楽しくさせることを考えるといいんじゃないかしら。定年を過ぎたらそういうことを見つけなくちゃ。ね」と、のっけから「お姉ちゃん」は辛口だ。
淡島さんは1941年に宝塚歌劇団に入団し月組の娘役トップスターとして9年間活躍。宝塚を退団後は松竹へ移籍し、映画の斜陽後はテレビ、舞台にと活動の場を広げた。80歳を過ぎてもオファーの絶えない現役の大スターである。
「夫婦善哉」での共演を機に黄金コンビといわれた森繁久彌は昨年死去したが、淡島さんはまだすっきりと背筋を伸ばし、元気にインタビュー会場へやって来た。この春公開される映画「春との旅」では、ついのすみかを探すために孫と旅を続ける足の悪い頑固な弟に、老いの厳しさを諭す姉を演じている。
「老いに対する恐れは?」と聞くと、間髪入れずに「ありますよ。でも考えてたって老いるんだから。今自分ができることをするだけよ」と事もなげに言う。「若い人と同じにはできないけれど、自分で自分のことができるようにするのが毎日の務めみたいなものね」と、プロの役者の心掛けを語る。
淡島さんの健康の秘けつは若い時から続けている体操と、その日のことはその日に納めること、ちゃんと食べて寝ること。
「失敗したらすぐ、その日のうちに謝ります。でも失敗を失敗と認められなかったり、双方で意見が違う時もある。そういう時はじゃ、仕方ないわね、で終わり」。さっぱりしていますね、と言うと「そうでないと健康でいられないわよ」と笑顔で返された。
小さな楽しみを見つけて
淡島さんが自身の半生を語った本「淡島千景 女優というプリズム」(青弓社)を読んでも、若い時からさっぱりとした性格は変わっていないようだ。宝塚を辞める時も松竹を辞める時も、パッと決断した。物事にこだわらない。昨日まで「右」と言われてきたものが今日「左」になっても、いとわないという。
半世紀以上も俳優という仕事を続けてきた淡島さんが自分に律しているのは、「絶対にうそは言わない」ということだけ。
「うそを言うと、どんどん雪だるまになっていくおそれありね。この人にはなんて言ったかしら、この人にはなんて言おうかしら、なんて思うのは結構しんどいことですよ。だからあるがままを見てもらうの。そして自分はこうでありたいと思う信念を、途中であんまり曲げないことね。まあこの方(主人公・忠男)も曲げなかったからこうなっちゃったのかもしれないけど」と笑う。
年を取ると頑固一徹になるのかと思いきや、淡島さんはその逆だという。
「我を張っていても何にもならない、ということが分かってくるの。人間は周りの人と一緒に暮らしていくしかできないわけだから。“自分”というのは持っていていいの。むしろ自分は持っていなきゃだめよ。でもそれは人に見せたりする必要はないでしょ。そういうことを悟るんですよ、この年になるとね」。達観した哲学を披露した。
撮影の合間の楽しみは絵画を描くこと。絵画グループ「チャーチル会」の会員だが「あまりにみなさんが上手だから退会しようかと思っている」ようだ。
「だけど、自分ひとりでも花や景色を描いて、あ、上手になったと思えたら楽しいじゃない。小さい楽しみを見つけることって大事。口で言うほど簡単じゃないし、やりたいことを探すのは大変よ。でも、50からの手習いで全然いいと思うの。みなさん、会社や子育てなんかで大変な時代を送ってこられたのだから、これからは自分たちのことをお考えになるのが一番だと思うわ」
(C)2010『春との旅』フィルムパートナーズ/ラテルナ/モンキータウンプロダクション |
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映画「春との旅」
監督:小林政広、出演:仲代達矢、徳永えり、大滝秀治、淡島千景、柄本明。134分。5月22日(土)から横浜ブルク13(TEL045・222・6222)で上映。
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