横浜でスカーフ描いて50年 テキスタイルデザイナー/山下一美さん
横浜開港150年を記念してデザインした風呂敷「不老布」を持ってほほ笑む山下さん
集大成の個展を開催
1859年に横浜が開港して以来、日本は生糸や絹織物の輸出が盛んとなった。特に横浜はシルクの輸入で潤い、東京の大手繊維会社の下請け会社や工場が多くあった。1980年代後半〜90年代は、日本中のデパートに横浜で生産されたスカーフが飾られ、飛ぶように売れたという。そのスカーフのテキスタイル・デザイナーとして華々しい時代に活躍した山下一美さん(69)は、2日(火)からデザイナー活動50年の集大成として伊勢佐木町のギャラリー「on the wind」でスカーフ展を開催する。同じくスカーフデザイナーだった父親の後を継ぎ、15歳から絵筆を握ってきた。開港150年のことしは、「横浜のれん会」の依頼を受け、横浜の地図を組み込んだ楽しい柄の風呂敷をデザイン。長寿や幸せを願い「不老布」と名付けた。「横浜の人の大らかさ、風通しの良さが好き」とハマっ子デザイナーは語る。
横浜生まれ、横浜育ちの山下さん。当時としてはハイカラな家庭に育った。
「わたしは6人兄弟の一番上。父にはとてもかわいがられました。ダンスを習ったり、ビリヤードに連れていってもらったり、お正月には日本髪も結ってくれたし、夏には一家でキャンプへ出掛けていました。季節を楽しみ、自分で工夫して暮らすことを父から教わったと思います」
山下さんがスカーフのテキスタルデザインで得意とするのはペルシャ柄。これは、もともと同じくデザイナーで父親の今井正さんの十八番だった。山下さんは15歳から父の仕事を手伝っていたのだ。
「手伝うといっても色を塗ったり、営業に行くぐらいでしたけど。父はわたしが28歳の時に56歳で亡くなりました。その頃わたしはもう結婚していましたが、2人の妹と手分けして父の仕事を引き継ぎ、その後、妹たちが地方や外国へ行きましたので、わたし1人で仕事を引き受けることになったんです」。同じく絵を志した妹は、現在もそれぞれの分野で活躍しているという。
スカーフ産業が最高潮にあった20、30年前は、「一日13時間も机にかじりついていた」ほど注文が絶えなかった。スカーフだけでなく、得意先からカレンダーやハンカチの受注もあった。しかしここ最近はスカーフもはやらず、工場も次々と閉鎖している。時代の波は容赦がない。しかし山下さんは「むしろ、50年も続くとは思っていなかった」と受け止めている。
“横浜人の大らかさが好き”
2日から始まる個展は、これまで仕事を続けることができたことへの感謝と、デザイナー生活50年の集大成として開催を決意した。
「みなさんの首元でおしゃれに付けていただけたこと、買っていただいたことを本当に感謝しています。地味な仕事ですけど、なんとか続けてこれてよかった」と笑顔を見せる。
横浜を離れ、東京で仕事をするという手もあった。しかし、「横浜の人の大らかさ、街の風通しの良い風土が好きなんです。横浜の人に注文をいただいて、『よかったよ』と言っていただき、夫と息子と猫とそれなりに暮らせたらいい」と欲がない。
古希を目前に、こう考えるという。「生活苦よりもむしろ、好奇心を失うことの方がつらい。わたしは70歳になっても、絵という興味の持てることがあって幸せです」
ギャラリー「on the wind」
JR関内駅徒歩10分。横浜市中区福冨町東通り38石井ビル301。7月1日(水)〜3日(金)、ランドマークホール・ロビー(JR桜木町駅徒歩3分・ランドマークプラザ5階)でも展示を行う。
入場:無料
問い合わせ&予約:TEL045・251・6937
HP:http://www.onthewind.net (外部サイト)