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「世界中の映画を観るのが夢ですね」と語る佐藤さん |
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開館1年 名画や単館系作品を上映
「定年後こそ、勉強するべき」
川崎市麻生区の映画と演劇のための施設「川崎市アートセンター アルテリオ映像館」は、名画や単館系作品の上映や俳優らのトークショーが人気を呼び、開館1年で入場者数約3万人を突破した。自治体の運営する映画館としては、異例の成功だ。同館の企画・作品選定委員会の委員長で映画評論家の佐藤忠男さん(78)は、「地味でも内容のある作品は、ちゃんと働いてきた中高年に見てもらえる」と自信をのぞかせる。映画と読書で独学を積んできた佐藤さん。「定年世代こそ、勉強して過ごすことが大事だと思う。世界を知るための手段としてもっと映画を見てほしい」と話す。
「けんかえれじい」「フツーの仕事がしたい」「赤い風船 白い馬」…。先月、アートセンターで上映された作品だ。新旧を問わず、また神奈川県内では上映されない単館系の作品が、バランスよく上映されている。トークショーも多い。客層は中高年が中心だ。
「散歩がてら行ける範囲にあること、落ち着いて見られる作品を上映していることが成功のひけつ。地味でも内容のある作品は、ちゃんと働いてきた中高年に見てもらえます」と佐藤さんは分析する。50年以上にわたって映画評論に従事してきた佐藤さん。1996年には紫綬褒章を受章。また韓国王冠文化勲章を受賞するなど、国際的評価も高い。
敗戦後に見たアメリカ映画に衝撃を受けたのが道の始まりだ。
「通りを歩く女性に男たちがにっこりと振り返る。日本でそんなことをするのは不良だけだし、目つきもいやらしい。それまで日本は原子爆弾に負けたと思っていたけれど、それ以外の面で負けたのだと思いました」
それ以来、むさぼるように映画館に通った。「世界中の映画を見たい」と思うようになった。
「メキシコの『真珠』という映画は実に魅力的でした。貧しい暮らしをしているインディオが、まったく卑屈ではなく、毅然としている。インドの映画も、人々は貧乏でも楽天的。豊かな国がいばって貧困にあえぐ国が卑屈にならざるをえないなんてことはない、と気付きました」
アジア映画の普及に 尽力
日本映画の紹介のために世界中を飛び回り、現地に埋もれている映画を見せてもらった。そして、それまであまり認知されていなかったアジアの映画をもっと広めようと、82年には国際交流基金映画祭で企画「南アジアの名作を求めて」を手掛けた。未知の映画に出合うために、どこへでも出掛けた。
映画でアラブの良さ を知る
最近は、毎年春開催のアラブ映画祭の普及に尽力している。
「初めのうちはわたしもイスラム圏にマイナスな先入観がありました。でも、『ともだちの家はどこ?』などに代表されるように、まとわりつく情緒があるんです。“寅さん”みたいな映画もあります。イスラム=怖い、というイメージがありますが、映画を見れば分かるんですね」
世界中が互いに理解し合うには映画がいい、と力説する。近年日本に起きた韓流ブームも喜んでいる。「これまで啓もう家が善意を持ってやっても効果がなかったのに、ひっくり返りましたね」
今でも日々、勉強ざんまいという。佐藤さんのいう勉強とは読書と映画。「昨日も2時間半の映画を3本見てきて、これはさすがにくたびれた」、と苦笑。
「定年後こそ勉強して過ごすことが大事だと思う。世界を知り、教養を持ち、人生経験を深めていくべきだと思います」
川崎市アートセンター
問い合わせ:TEL 044-955-0107 |
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