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  茨城版 令和2年12月号  
歌が好き! 人が好き!  シャンソン歌手・佐々木秀実さん

「黒色のドレスが自分の中でしっくりくるんです。エディット・ピアフやジュリエット・グレコの影響ですね」と佐々木さん。「歌って、語って、お芝居をするのが佐々木秀実のシャンソン。自分と違うさまざまな存在を演じ分け、ドラマチックな雰囲気を味わってもらうのが私のステージです。衣装とメークは、自分とは違う存在になるときのスイッチであり、鎧(よろい)でもあります」
1月にアルゼンチン・タンゴ初挑戦
 「歌が好き! そして人が好きなんです!」と語るのは、確かな歌唱力と女性と見まがう中性的な魅力で人気の新世代シャンソン歌手・佐々木秀実(ひでみ)さん(40)。これまでもさまざまなジャンルとコラボレーションしてきた佐々木さんだが、1月のステージではタンゴを歌う。「タンゴは大好きです。ヨーロッパで派生したコンチネンタル・タンゴの曲は、シャンソンのレパートリーとしていつも歌っています。今回は、アルゼンチン・タンゴの曲も歌いますが、実は初挑戦。今からワクワクしています。当日はタンゴ楽団の皆さまとセッションし、私の歌とトークでステージに化学反応を起こしたいですね」

  1月のステージは、「コロナ禍」により今年6月から延期したもの。ほかにも多くのコンサートが中止・延期に。ステージに立てなくなった当初、自身の内面を見つめ直したという佐々木さん。「歌えなかったのは正直つらかったですね。自分にとって『歌う』ことは、イコール『生きる』ことなのだと思い知らされました。当日は皆さまに楽しんでもらうのはもちろん、私自身も精いっぱい楽しめるステージにしたいです」  佐々木さんは1980年に出生。父の実家は茨城県土浦市で料亭を経営していた。

「人との交流、歌の深みに」
 「幼少期は芸者さんたちにかわいがられていました」と懐かしむ。「彼女たちがお化粧ときもので美しく変化し、三味線を弾き長唄を歌う姿に憧れました。それが歌との出合いであり、今の自分のジェンダーの在り方に影響を与えていると思います」。ちなみに佐々木さんは自身の性別について、「恋愛対象として男性にひかれるが、でも女性になりたいとは思えない。悩んだ時期もありましたが、今は吹っ切れました。人から聞かれた場合、『性別は“佐々木秀実”』と答えてます(笑)」。

 やがて、憧れのまま三味線、長唄、日本舞踊を学び、若くして、「自分は歌で生きていく」と人生の指針を定めた佐々木さんだが、10代前半に試練が訪れる。声帯近くに急性咽頭腫瘍が発覚したのだ。病院のベッドで声を失う恐怖に震えていたある日、音楽好きの母がエディット・ピアフのCDと自叙伝をプレゼントしてくれた。それが転機となる。「シャンソンに触れたのはそれが最初。命の限り、愛の限り歌うピアフの歌声に胸を貫かれ、『完治したならシャンソンを、このドラマチックな音楽を歌いたい』と勇気を奮い立たせ、手術に臨むことができました」

 中学時代、4回の手術で腫瘍が完治。佐々木さんはシャンソン歌手になるという目標に向け、堀越高校に進学。アイドルグループ「V6」の岡田准一、俳優の高橋一生らと学生生活を送った。「当時からスターだった岡田君を、追っかけの女の子たちから私と一生君でガードしてました(笑)」

 在学中も夢へまい進した佐々木さん。17歳で「日本アマチュアシャンソンコンクール東京大会」にエントリーし、最年少で入賞。さらに、新宿のシャンソニエ(シャンソン専門のライブハウス)「シャンパーニュ」でステージデビューを果たす。

 その後、自分の夢を応援してくれる芸能事務所に所属。パリに留学し本場でシャンソンのエスプリを学んだ。

阿久悠の目に留まる
 留学中、事務所が方々に佐々木さんのデモテープを配っていたが、なんとそれが大物作詞家・阿久悠の目に留まり、帰国早々の02年に22歳でファーストアルバム「懺悔」を発表。メジャーデビューを飾る。「阿久先生には、『大人でも子どもでもない、男でも女でもない、君は不思議な魅力を持つ“等身大でない歌手”。そのスタンスを忘れないで』と励ましていただきました」

 翌年、セカンドアルバム「聞かせてよ愛の言葉を」を発表。タイトル曲が07〜08年のNHK連続テレビ小説「ちりとてちん」の挿入歌に採用され大きな反響を呼び、全国にその名が知れ渡った。

 佐々木さんはシャンソンの魅力について、「落語と一緒です(笑)」と解説。はなし家は一人何役もこなし、江戸の街並みと江戸っ子たちの姿を、観客に見事に想像させる。「私も同じ。シャンソンは歌や詩、お芝居全てを一人でこなし、パリの街並みを想像してもらい、そこで生まれるドラマチックな物語を紡ぎます。私の歌う姿から、ピアフの生きざまを感じてもらえればうれしいですね」

 その後、佐々木さんは歌番組のほか、トーク番組でも活躍。「人と話すのが好きです。どういう立場の人でも話すと楽しいんです。それがシャンソンを歌い、演じることに深みをもたらします」

シャンソンを普遍に
 「コロナ禍」の現在、“シャンソンの灯”を絶やさないため、個人的にインターネットで配信を行っているという佐々木さん。「若い人からも反響があり、驚きました。シャンソンの素晴らしい詞と曲は世代を超えて心に響くのですね。今後は老若男女、誰もが私のステージを聞きに行くことが“ステータス”と思ってもらえるような歌手になるよう精進し、それを通じてシャンソンを普遍的な存在にしていきたいです」


チコス・デ・パンパ(左)と佐々木秀実
♪アルゼンチン・タンゴコンサート 〜世界のタンゴ
 1月15日(金)午後2時、なかのZERO(JR中野駅徒歩8分)小ホールで。

 予定曲:「恋心」「カミニート(小径)」「淡き光に」「夜のタンゴ」「夜のプラットホーム」ほか。演奏:チコス・デ・パンパ(バンドネオン・北村聡、バイオリン・永野亜希、ピアノ・宮沢由美、コントラバス・佐藤洋嗣)、歌:佐々木秀実。

 全席指定5400円。問い合わせはインターナショナル・カルチャー Tel.03・3402・2171

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