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年を重ねながら…心ふくよかに 女優・羽田美智子さん |
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2015年9月、古里の常総市に甚大な被害を与えた「鬼怒川水害」で、羽田さんは「お年寄りの役割を再認識しました」と話す。毎月、ボランティア活動で古里を歩く中、「(高齢者は)さまざまな経験をくぐり抜けてきただけに腹が据わっていて、周りに安心感をもたらしていると実感しました」。3年以上たち、「だいぶ復興はしてきましたが、これからも自分ができることはやっていきたいです」 |
映画「この道」、与謝野晶子演じる
エリート刑事、老舗旅館のおかみ、農家の主婦…。女優の羽田美智子さん(50)は「若い頃より、できる役柄が広がりました」と声を弾ませる。11日公開の劇映画「この道」では、作家・与謝野晶子の役。反戦詩として有名な「君死にたまふことなかれ」を作りながらも、後に戦争賛美の作品を公にした胸中に思いをはせる。「その葛藤を表現するのは、易しくなかったです」。作中では、りんとしたたたずまいを見せるが、普段の物腰は柔らかだ。年を重ねるイメージを笑顔で話す。「すてきな経験の蓄積が、心をふくよかにしてくれると感じています」
「ふくよかになってきたのは、心の方ですよ(笑)」。羽田さんは「日本の人は、女性が年を取ることを『何かを失う』というイメージで捉えがちな気がします」と首をかしげる。「芸能界のお父さん」と慕う伊東四朗らの名を挙げ、言葉を継ぐ。「多くの人たちから“心の宝物”を頂いてきて、今の私があります」。東日本大震災の翌日、テレビの旅行番組のロケ地で、伊東から「来てくれてありがとう」と抱き寄せられた。前夜、羽田さんは伊東に電話をかけ、「こんなときに(旅行番組の)仕事をしていいんですか?」と尋ねている。「『俺は芸人なんだ。仕事からは逃げられない』との言葉には誇りと覚悟がこもっていて…、はっとさせられました」
「占いが転機に」
水海道市(現・常総市)に生まれ育った羽田さんは、自身を「ごく平凡な田舎の少女でした」と言う。茨城の農村を主舞台におととし放映されたNHK連続テレビ小説「ひよっこ」では、主人公の親友の母親役で、「ネイティブの茨城弁を生かしました(笑)」。都内の短大に進学後も進路を決めかね、友人に誘われるまま、「当たる」と評判の占い師を訪ねた。「すると『芸能界に行きなさい』と。なぜか、自分の道が開けたように感じました」
1988年、日本旅行のキャンペーンガールに選ばれ、芸能界デビュー。映画やテレビドラマ出演のチャンスも得たが、「初めはろくな演技ができませんでした」と苦笑する。それでも共演の植木等らが「フォローしてくださった」。94年公開の映画「RAMPO」では、江戸川乱歩らを魅了するヒロイン役に抜てきされ一躍注目を浴びた。「人でなしの恋」(95年)では、夫の行動に不審を抱く妻を好演し、日本アカデミー賞優秀主演女優賞を受賞。98年以降はテレビドラマに軸足を移し、お茶の間におなじみの存在になった。「私は運がいいのかも」と笑みを見せる。「サラリーマン金太郎」(TBS)、「おかしな刑事」(テレビ朝日)、「警視庁捜査一課9係」(同)、「花嫁のれん」(東海テレビ)…。これらは高視聴率からシリーズ化され、長く全国放映されている。
共演を重ねた野際陽子、渡瀬恒彦らを思い返し、「亡くなった人の教えも、私の中に生きています」。南方で戦死した祖父の遺影を見て育った羽田さんは、両親や伊東、野際らの戦争体験にもよく耳を傾けた。「私は直接戦争を知らないけれど、嫌な時代のにおいを感じてきました」
白秋の「姉的存在」
そんな羽田さんは、明治末から戦前・戦中を舞台にした映画「この道」の台本を読み、「表現者として引き付けられました」と言う。主人公は詩人の北原白秋と作曲家の山田耕筰。2人が生み出した「この道」や「からたちの花」などの童謡に感嘆する。「単純なようでいて壮大なテーマが隠されている、奥深い作品ばかりです」。羽田さんが演じた与謝野晶子はáÄやんちゃá≠ネ白秋に気付きを与える「お姉さん的存在」だ。だが戦時色が濃くなる中、白秋と耕筰、晶子らの歩むáÄ道á≠ヘ険しさを増す。「この映画は、時代とは決して切り離せない『それぞれの人生』を描いた作品です」。「君死にたまふことなかれ」で弟の無事を祈った晶子は息子の出征後、こんな歌を詠んでいる。
《水軍の 大尉となりて わが四郎 み軍(いくさ)にゆく たけく戦へ》
晶子の心の奥を懸命に探り、演じ終えた今、かみ締める。「子どもを人質に取られたような気持ちもあったのでは…。私たちはありがたい時代に生きていると、あらためて感じました」
「成長し続けたい」
2015年、古里を襲った「鬼怒川水害」の後、毎月ボランティア活動に通った羽田さんは、こう話す。「日々の生活の中でも、周りから『ありがとう』と言ってもらえるようなことをしようと心掛けています」。若い頃は自分に自信が持てず、「よく自分を責めていた」と言うが、「今は、落ち込んでも『これから上がるだけ』と切り替えています」と柔和な笑みを絶やさない。人との「縁」が心を“ふくよか”にしてくれたと確信するだけに、「私も若い人に何かを伝えていけるよう、新しい年も一日一日を大切に、自分を磨いていきたいです」。 |
©2019映画「この道」製作委員会 |
「この道」 日本映画
自由奔放な性格の天才詩人・北原白秋と、西洋音楽を日本に広めた作曲家・山田耕筰。児童文芸誌「赤い鳥」を創刊した鈴木三重吉の仲介で出会った2人は、関東大震災の直後、「傷付いた人々の心を歌で癒やしたい」との思いで一致し、2人の“作詩・作曲”による童謡を発表し始める。1925(大正14)年には、日本初のラジオ放送で「からたちの花」が歌われ、続いて発表した「この道」も大評判となるが…。
監督:佐々部清、脚本:坂口理子、出演:大森南朋、AKIRA、貫地谷しほり、松本若菜、柳沢慎吾、羽田美智子、松重豊ほか。105分。
11日(金)から、TOHOシネマズ水戸内原(Tel.050・6868・5037)ほかで全国公開。 |
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