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「1人でも多くの若者の就労支援の力になりたい」と話す須田さん |
脱“引きこもり”へ向け、自立就労を支援
引きこもり、という言葉が定着して久しい。引きこもりとは、自宅や自室に長期間引きこもって社会参加できないでいる中学卒業段階以降の青年の状態を指す。内閣府によると、2015年の若年無業者は約76万人と推計される。水戸市の須田彰さん（58）は、問題が表面化される26年前から毎年約300人の若者と向き合い続け、若者と社会の懸け橋となってきた。2004年には特定非営利活動（NPO）法人すだちを立ち上げ理事長に就任。地域の若者の自立就労相談支援を行っている。
NPO法人すだちは働くことについてさまざまな悩みを抱えている15歳以上の若者に、コミュニケーション教室やパソコン講座などを無料で開講。コミュニケーション教室では、自己紹介や互いに質問をし合い、人と会話をするトレーニングなどを行う。また、わが子の自立に悩んでいる家族のサポートも担っている。
「社会に出て、いきなり大人と仕事をするのは大変なことです。ですから、若者が社会で生活できる力を付けるために雇用できる事業を行おう、と思いました。ここで彼らに力を付けてもらって元気になってもらえれば、自殺者も減るのでは、と期待しています」と須田さん。
すだちの発足当初は未就労の若者のみを雇用していたが、今はさまざまなスタッフを混在させることで彼らの成長をサポートしている。
実は、須田さんも大学卒業間際に大学に行けなくなり、そのまま5〜6年間、実家に引きこもった経験がある。「いろんなことが複雑に絡まりあって、気が付いたら動けなくなっていました。でも、幸いなことに完全には孤立してはいませんでした」と振り返る。友人に誘われ、地域の仲間の集まりに参加した須田さんは、妻となる眞理子さん（60）に出会い、結婚。その後、眞理子さんの支えもあり、徐々にアルバイトを始め社会に適応していった。「最初はアルバイトを週に1日から始め、そのうちに週に2日から3日働くようになり、少しずつ働く時間と回数を増やしていきました」
その後須田さんは、水戸市の大検予備校に就職。しかし、バブルがはじけ、予備校は廃校になった。そこで須田さん夫妻は、市内の自宅付近で学習塾を始める。塾は夜間に行うため、昼間は元大検予備校の生徒などを対象に無料で勉強を教え始めた。無料にしたのは、「どうせお金を受け取って、自分たちを世話しているだけだ」と若者に思われると、彼らとの間に溝ができると思ったからだ。
「元大検予備校の生徒の中には、『親からは他人を信用してはいけないと言われてきたが、俺たちのことをこんなに親身になって世話する人がいるんだと思ってうれしかった』と言ってくれた生徒がいましたよ。その子は、就職して最初の給料日に『お嬢さんにうまいものを食べさせてやれよ』と、心ばかりを手渡してくれました」と懐かしむ眞理子さん。
また、ある若者が大学に合格した時、新聞配達で稼いだお金で須田さん夫妻を温泉に招待したり、自宅で若者が作った鍋料理でもてなしてくれたという。
「社会に出ていない若者と関わることは大変です。時に生徒から『元気になると会いたくない』と言われると寂しいですね。つらい時のことを思いだしてしまうのでしょう。でもこれまで誰も来なくなるということはなかったので続けてこれました」と眞理子さん。
須田さん夫妻は、同NPOで向き合い、育っていった若者のことを常に気遣っている。
「私たちのところに来て元気になった人は10人に1人ぐらいですが、すだちで元気になることができなかった子も、他の誰かの支えで社会に関わるようになっていればうれしい。全ての人は救えなくても、1人でも多くの未来ある若者の就労を支援でき、明日への懸け橋となれたらうれしいですね」
NPO法人すだち Tel.s029・259・2774 |
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