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斜面を色鮮やかに彩るアジサイ |
身内の急死きっかけで植樹
青、紫、赤…。潮来市の天台宗二本松寺「あじさいの杜(もり)」では、約100種類、約1万株のアジサイが梅雨から初夏を彩る。10年前、住職の高森良仁さん(70)の妻、久美子さん(67)の妹の急死を受け、供養のためにと久美子さんが境内にアジサイを植え始めたのが始まりだ。その後、一家総出でこつこつ作り上げてきた。「『一年に一度、アジサイが咲く二本松寺で会おうね』というように、地域の交流の場になってくれれば」と夫妻。ことしは25年ぶりの秘仏本尊薬師如来の特別開帳も行う。
二本松寺は、現在の地に移転開山してから800年の歴史を誇る。
約4ヘクタールの境内には、水戸光圀公の「お手植えの槇」(天然記念物)があり、また樹齢400年のボダイジュが大きな木陰を作る。“あじさい寺”として有名になったのはここ最近だ。
「以前、他の寺で亡くなったお嬢さんの供養のためにアジサイを植えたということを聞いたことがありました。妹が亡くなった年にそのことを思い出し、翌年からポツリポツリと一人で植え始めました」と久美子さん。
久美子さんがアジサイを植え始めてから2〜3年後、住職と次男の淳至さん(39)も造園に加わるように。住職が参加したとある講演会で「お寺は資産を活用していない」という議題が上がり、「広すぎて手付かずの境内を有効に活用しよう」と思ったのがきっかけだ。
早速、父と息子で小さなパワーショベルを使って森を切り開き、斜面を削った。石畳を敷き、遊歩道も整備した。水やりのために斜面に水道を引くなどの工事も住職と淳至さんで行った。「雨が降ると土が流されてガッカリしました。排水と給水が大変でした」と住職。その後、久美子さんが畑で1本1本挿し木で増やしたアジサイを夫妻で植え、「あじさいの杜」と名付けた。
本堂の前で住職の高森良仁、久美子夫妻 |
大きな石の移動や高木の剪定(せんてい)は専門業者に任せるが、それ以外は家族一丸となって「あじさいの杜」を造り上げた。檀家からアジサイや石、土の寄付もあった。
「アジサイには常に手を掛け、目を掛け、気に掛けていますが、一番気を掛けているのは水です。夏場は水やりで5時間くらいかかったこともありました」と住職。一方、久美子さんも、「地下水も使っていますが、水道を使い過ぎて、水道局から『水もれをしているのでは』と問い合わせが来たこともあります」と苦笑する。
剪定や冬場の寒肥えなど年間を通して管理作業は多い。特に植えてから3年ほどの株はよく目を配る必要がある。「毎日、1株ずつ見て回っています。『何で育たないのかなあ』とよく見るとモグラの穴を見つけたこともありました」と住職。
「あじさいの杜」の特徴は色使い。真ん中を赤、周囲が徐々にピンクから白のグラデーションになるよう、こだわっている。「土が酸性なので、赤い花を咲かせたい場合はアルカリ性の土壌にするために石灰をまきますが、なかなか思うような色に咲いてくれません」と久美子さん。
毎年、傷みのあるアジサイ50〜100本ほどを植え替える。新品種も積極的に取り入れている。久美子さんの娘や息子が新種のアジサイを母の日に贈ってくれるという。今年は、涼やかな青が魅力のガクアジサイ「エリエールアニバーサリー」とボリュームがあって鮮やかな「チボリ」、昨年フラワーオブザイヤーを受賞した「ケイコ」が贈られ、来年以降「あじさいの杜」に仲間入りする。
アジサイの開花時期と同じころ、樹齢400年のボタイジュの花も見ごろを迎える。昨年は、約4万人が訪れた。
「きれいですねと褒めていただけるので励みになります」と久美子さん。今年からは仮設トイレや手すりを設置し、順路の表示も行う。
「すべて『一隅を照らす』の精神です」と住職。「一隅を照らす」とは、人が置かれている所でベストを尽くし、身近な人々を輝かせ、最終的に集まった光で日本、世界、地球を照らすこと。1人の力は小さくても、持てる力を最大限に発すれば、平和で明るい世の中になる—。そんな願いが二本松寺のアジサイには込められている。 |
本堂では、秘仏本尊薬師如来の特別開帳が行われる |
秘仏本尊薬師如来 25年ぶりにご開帳
20日(月)〜30日(木)、二本松寺本堂で25年に1度の茨城県指定文化財秘仏本尊薬師如来の特別開帳が行われる。本堂および「あじさいの杜」入山参拝料300円(4枚つづり1000円)。潮来市堀の内1230。JR潮来駅からタクシーで15分。問い合わせは Tel.0299・64・2263 |
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