「ひたちの民話」英訳完成 日立市の通訳ボランティア勉強会
勉強会では作業は思った以上に難航し、単語ひとつの英訳にさえ頭を抱えることもしばしば
日立市の「通訳ボランティア勉強会」は、今年の3月に、伊藤正夫・大越斉著「ひたちの民話」の英語版「Hitachi Folk Tales」を出版した。「民話を読んだ方に日立へ足を運んでいただき、民話の生まれた自然の光と影、匂いなどを体感し、日立の良さを再発見していただければ」と通訳ボランティア勉強会リーダーの秋山久子さん(56)は話す。
翻訳に1年半、半年かけ校閲
秋山さんを含め、日立国際交流協議会に所属する団体の有志は、諸外国からの訪問団のガイドを行うことが多い。特に日立市の姉妹都市であるアメリカ・アラバマ州のバーミングハム市や、ニュージーランド北島北東部のタウランガ市からは定期的に訪問団が来日する。彼らのガイドを務めるうちに「もっと日立市の歴史や観光スポットを勉強して分かりやすい表現で説明する必要があると痛感」(秋山さん)し、2007年に「通訳ボランティア勉強会」を立ち上げた。メンバーは約10人。秋山さんがリーダーとなった。
今年3月に刊行した「ひたちの民話」英語版
秋山さんは、元国際線客室乗務員。結婚を機に日立に住み、86年から自宅で英語教室を開いている。
「御岩神社、鵜の岬などについて勉強をしていく中で大越さんの著書『ひたちの民話』に出合いました」。「ひたちの民話」は、09年に、日立演劇部60周年プロジェクト・「ひたち民話の会」の大越斉さんと伊藤正夫さんが出版。分かりやすい話し言葉で、「猿の恩がえし」「金色姫」「諏訪の水穴」など日立に伝わる24話の民話を紹介している。
例えば、水戸光圀公など代々の藩主が参拝し、「神仏を祀る唯一の社」として独自の信仰を伝えてきた入四間町の御岩神社には、「三本杉の天狗」という民話がある。
「ひたちの民話」英訳本を手に秋山久子さん
「日立の良さ再発見を」
「“むかし、太い幹の途中から枝が3つに分かれ、その上に天狗が住んでいました。村人が通るたびにいたずらをしていたのですが、ある時、天狗が修験者の法螺(ホラ)貝に興味を示し盗み…”というお話です。ただ神社を案内するだけではなく、このような民話を英語でご紹介できるとより興味を持っていただけるのではと考えました」
そこで2年前から通訳ボランティア勉強会の会員で「ひたちの民話」の英訳を試み始める。しかし、作業は思った以上に難航し、単語ひとつの英訳にさえ頭を抱えることもしばしば。
「和英辞典は全く役にたちませんでした。そこで、水戸市スピーク英仏会話の文化人類学が専門のダニエル・デマレ先生と話し合いながら、音読に耐えるように、リズムや韻に心を配って翻訳しました。先生に見ていただいた原稿を持ち帰りメンバーで読み返し、納得のいかないところを再びダニエル先生に質問することの繰り返しでした」と秋山さん。
例えば、「God」は一神教の神を意味するが神道では八百万の神なので、「a god」または「gods」と表現。「水は甘かった」は「sweet water」と訳すと意味をなさないため、「refreshing」とした。
「英語を勉強する者にとって、これはどういう風に表現するのだろう、どうしてこれじゃ駄目なのだろうという過程はとても面白い作業でした。あいまいな日本語を違和感がない程度に論理的な英訳表現にするのは大変でしたが、おかげで英語力が付きました」と笑う秋山さん。
翻訳を進めていくうちに英語版と日本語版の対訳で出版しようということになり、大越さんに相談し快諾を得た。最後にデマレ氏とは別の外国人にチェックを受け、真っ赤になって返ってきた原稿をまたみんなで練り直した。翻訳に1年半、校閲に半年かけ、今年の3月に全24話の英訳が完成。「Hitachi Folk Tales」と題し、秋山さんが自費出版した。
同書には民話のほかにも、「Notes」というコラムページも挟み、例えば外国人には想像しにくい「土間」(dirt floor)や、「はっけよいよい」などの注釈も加えた。
今年4月に日立市の吉成明市長がバーミングハムを訪問した際、出来たばかりの「Hitachi Folk Tales」を持参した。
「例えばお孫さんがホームステイで海外に行く時におみやげとして持っていっていただいて、家の近くにこんな場所がありこんな民話があってという話をしていただきたいですね。また、ALT(学校で英語の指導助手を務める外国人)の人たちにも教材として使っていただければ」と希望する秋山さん。
「Hitachi Folk Tales」はイトーヨーカドー日立店・北書房、日立シビックセンターで販売。1500円。B5判フルカラー。問い合わせは秋山 TEL.0294・36・1224