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「人とのつながりが財産として残っているなとつくづく感じました」と原田さん |
海辺でコンサートや講演会も
日立市・大田尻海岸にあった「鵜の島温泉旅館」の館主・原田実能さん(53)の事業計画が、10月、東日本大震災からの復興に資する起業と雇用を創造することを目的とした「復興六起」プロジェクトの起業企画コンペティションの最終審査で選ばれた。東日本大震災で鵜の島温泉旅館は建物の3分の2を津波で全壊した。「旅館を再びオープンすることが、私の大きな目標です。大震災の後、一番大事だなと思ったのは『人とのつながり』です。何もかも失ったような気がしましたが、人とのつながりが財産として残っているなとつくづく感じました」と原田さんは、明るく話す。
おいしいアンコウ鍋で人気のあった鵜の島温泉旅館。東日本大震災で被災し、現在、再オープンを目指して活動中だ。
「震災後、津波の跡片付けをしている時、旅館をどうしようかと話していました。息子に『お前は何をやりたいんだ』と尋ねると、息子は『小さな旅館をやりたい』と。私は、初めて涙が出ました。これが、再興に向かっての原動力です」と原田さんは振り返る。
しかし、再興への道のりは厳しい。前回申請していた「中小企業グループ補助金」は、下りなかった。残った鉄筋の建物を利用し企画したものがあったが、市街化調整区域ということで計画は不可能に。現在旅館は休業中で、原田さんは日立駅情報交流センターでマネジャーとして働いている。
「旅館を再びオープンするまでにやっておくことが2つあります。1つは、旅館をオープンした時に鵜の島温泉旅館の魅力はこれだ、というものを作っておくこと。もう1つは、地域やお客さまとのつながりを深めることです」と話す原田さん。
手始めに認定NPO法人ふるさと回帰支援センターが内閣府「復興支援型地域社会雇用創造事業」の一環として実施する「復興六起」に事業案を応募したところ、最終選考で選ばれた。原田さんの事業計画は、旅館の跡地を利用して海辺でバーベキューを行い、自然豊かな海を十分に味わってもらうこと。
「地域の農作物を集荷し、野菜や特色のある料理を販売する移動販売車のカフェで人々と交流を深め小さな“点”を作ります。そして海の前で講演会やコンサートなどのイベントを企画し、“面”として旅館跡地を利用して、小さな“点”を繋いでいこうと考えています」
この計画を進めるため、原田さんは日本野菜ソムリエ協会の「ジュニア野菜ソムリエ」の資格を取得した。また、11月23日には、旅館の跡地で1日限定の「旅カフェ」も開催した。復興六起のプランが本格的に動きだせば、旅館再建への足がかりとなるだろう。
「今は、お土産物を販売しながら旅館で培ったおもてなしの感覚を磨いています。再び『中小企業グループ補助金』にも応募しました」笑顔で話す原田さん。 再興への情熱は静かに燃え続けている。 |
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