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  茨城版 平成22年10月号  
帆引き船造り続けて60年  (行方市荒宿/田上一郎さん)

帆引き船を作り続けて60年になる田上さん
伝統技術を次世代に
 風の力を利用して引網を引っ張り白い帆を上げ、漁をする帆引き船。ワカサギ漁をする霞ケ浦の風物詩として、最盛期には何百隻も浮かびそれは見事な風景だったという。明治時代から続いたその漁も1965年ころから動力を使うトロール漁に変わり姿を消したが、帆引き船は霞ケ浦の漁業の歴史を知る重要な文化遺産であることから、現在、土浦市・行方市・霞ケ浦市などが観光帆引き船として復活させている。その帆引き船を作り続けて60年になるのが、行方市荒宿に住む船大工の3代目、田上一郎さん(76)である。

 17歳からこの仕事を始めた田上さん。当時霞ケ浦湖岸は漁が盛んで漁師も各々船を持っており、従って船大工も10数人はいてにぎやかだった。漁は7月から10月にかけて日没から夜明けまで行われたため、風の強い夜などはよく修理にも出掛けていった。

 この木造の船を作る上での最大のポイントは何といっても水が入らないようにすること。そのためにはまず材料選びが重要だ。専門の仲介業者と共に山に入って木を探す。材料は杉だが周りは腐りやすいので、なるべく大きな木の赤木と呼ばれる中の方を使う。それを製材所で10メートルの長さに製材してもらう。天候にもよるが半年ほどで製作に入り、完成は半年後になる。


帆引き船製作の道具の数々
 製作工程の中で一番大事なのがすり合わせだ。これは2枚の板を合わせ1枚の大きな板にするための接合部の加工のこと。先端が、くし形をしたノコギリを使って板の曲がりや凸凹を整えて水が入らないようにする。ここは田上さんの腕の見せ所だが、「体の弱かった父親からその腕前をあまり学ぶことができなかったことが、今でも残念で仕方がない」と言う。

 「手とり足とり指導してもらっているよその船大工さんを見るとうらやましいと思った」と、困難な作業に直面した時など、自分流で進めなければならない不安もあったが、工程はどうあれ、「人が乗って安心できる船を作ることが大事」との思いで仕事を続けてきた。

 これまでに作った船の数は100隻以上。設計図もしっかり頭の中に入っているという。しかし、帆引き船を作れる人が県内にはもういなくなってしまった。2年前には、優れた技術者を推奨し後継者の育成という目的もある、「県職業能力開発推進大会」で優秀技能賞を受けるなど田上さんの責任も重くなってきた。

 行方市から依頼され今年完成した帆引き船の製作には、4代目になる息子の勇一さん(49)が参加した。「人に伝える大変さも知りました」と田上さんは言うが、それでも次の代への準備は始まったようだ。

 「漁師さんがいる間は、迷惑をかけるので、もう少しこのまま仕事を続け役に立っていきたい」と田上さん。

 造船は、がんがんと音をさせる作業が多く、耳が多少遠くなったが、「これは職業病です」ということでそれ以外は体もいたって元気。これからも田上さんの作った帆引き船が、一隻でも多く霞ケ浦に浮かんでくれることを期待したい。

 問い合わせはTEL.0299・56・0033

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