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「奥久慈」の民話本を出版 (常陸大宮市/堀江文男さん) |
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「晴れた日は奥久慈の山並みが美しい」と堀江さん |
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昔、遊ぶものもあまりなかった子ども時代の楽しみといえば、親や近所の年寄りが話してくれる童話や民話だった。時代が変わり大人も子どもも忙しい生活の中、そんな話を聞く機会もほとんどなくなってしまった。しかし先人たちが大事に語り継いできたこの遺産を少しでも後世に残したいと、常陸大宮市北富田に住む堀江文男さん(81)は生まれ育った秘境の玄関口といわれる「奥久慈地方」に伝わる民話を集めた本を出版。一方でその民話を少しでも多くの人たちに伝えたいと自らが「語り部」となりその思いを伝えてきた。
「遺産を後世に残したい」 自ら「語り部」に
1993年に、旧山方町の役場から、町に宿泊するボーイスカウトに地域に伝わる伝説や民話の話をしてほしいとの依頼を受けた堀江さん。教師時代には時々授業の合間に昔話をしたこともあったそうだが、今の子どもに受け入れられるのか不安なまま、自分が祖父や近所の古老から伝え聞いた話を思い出しながら聞かせた。
しかし、「子どもがあまりに興味深げな反応をするのに驚きました」と言う堀江さん。と同時に、昔は親から子へ子から孫へと語り継がれてきた故郷に伝わる昔話も「このままではいずれ消えてしまうのではないか」と危惧した。そこで、まだ自分の心の中に残り覚えている奥久慈の懐かしい民話や伝説を書き留めたいと考え、「奥久慈の秘話」の制作に取り掛かった。
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全3編に10年を費やして出版した民話本「奥久慈の秘話」 |
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全3編の完成までには10年を費やした。自分の記憶をたどるほかに、地域の古老からもより詳しい話や新しい話の発掘に出合うなどした結果、計28話を集録することができた。70歳まで教職に携わっていた堀江さんには、日本中に教え子や知り合いがおり、出版を心待ちにしていた。1000冊刷った初版本はわずか2カ月で在庫が切れ、即500冊を増刷というほどの反響だったという。
本の編集にあたる傍ら、堀江さんは民話の「語り部」としてあちこちの学校や公民館・老人会や研修会で、方言を交えて感情豊かに読み聞かせをするボランティアの活動を続けている。多い年には年に20カ所近く出掛けたこともあった。99年には民話の保存と伝承の功が認められ、県内での精力的な活動をした人に送られる「茨城わくわく賞」を授賞している。
民話や伝説には暗く悲しくつらい過去の歴史を物語るものが多い。「それだけに地域の人たちが強く支えあって生きてきた絆の深さを感じることが出来る貴重な資料なのです」と堀江さんは語る。
「八溝さんの天狗と兎」「お犬様と常安寺」「三太と沢又の開墾」など、読み進めていくとどの話にもぐんぐん引き込まれていく。民話には不思議な力があるのだ。
堀江さんも80歳を過ぎ、語り部として人前に出ることも少なくなったが、後を語り継いで活動してくれる仲間が数人いるとの事で、頼もしい限りである。
問い合わせTEL:0295・57・9493
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