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妻も書字を楽しんでいる。「展示会の手伝いなどもしてくれます。女房のサポートがなきゃできないです」と根本さん |
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「毛筆ですらすら手紙を書くのは憧れるけど、字が下手だし…」。そう思う人は多いのではないだろうか。だが、字は上手下手ではない、書くことを楽しもう、と「書字研究会」の主宰者で、ひたちなか市在住の書家・根本祐一さん (66) は提唱する。
"書字" とは根本さんの造語で、数多くの字を書き、手で書く習慣、書く力を現代に取り戻すのが狙い。この書字は手ごろな道具で、自宅でできる。定年後に同会を立ち上げた根本さんは、現在講座や体験教室、展覧会で活動する。来年の年賀状に向けて、筆をとってみてはいかが。
「何文字書いたか」に重き
上手下手関係ない
5年前、老人ホームで書道を教えていた時のこと。おじいさんやおばあさんが「上手に書けないから、もうやめたい」と言った。根本さんは、「高齢になっても、『上手下手』にしばられてしまうのか」と疑問を感じた。
パソコンの普及で、字を書く習慣が減ってきている昨今。書く側、見る側の「上手下手」の意識は、さらに "書離れ" を進めてしまう。書道を否定するわけではなく、「上手下手」とは関係なく字を学びたい人たちのために、違うシステムを作りたいと思った。
そして誕生した "書字" は「何字書いたか」に重きを置いている。やり方さえ分かれば、教室に通わず自宅で楽しめ、毎日書くことを習慣付けられる。「1万字書いたら奇跡が起きますよ」。書く力が付き、自分の字が変化していくのが分かる、と実体験に基づき話す。
手本のまねをして上達するのではなく、自分の字を大切にして整えていく感覚。毎日自分で目標を決め、字典の1ページ目から書いていく。
「『2000字書いた』など達成感を味わってもらいたい」。また、1字1回が原則で書き直しはしない。「"一字一会" です。何回も書くと集中力が無くなります。常に新しい字と出合えるので、年間を通して書道では出合えない字の数になります」。根本さんは、世の中にある漢字をすべて書いてみたいと言う。
道具もユニークで、100円ショップで購入できるものばかり。筆は中筆か小筆。普段鉛筆で書くように腕を机につけて書くので、腕に負担がかからない。また手先を動かすので高齢者にお薦め。
墨を入れるのは "根本式墨つぼ" に。広口びんのなかに、綿とガーゼで作ったてるてる坊主を入れ、墨を注ぐ。筆でカーゼをなぞると、適量の墨がつく。
また半紙ではなく、小学生が使う升目がついた国語用ノートを勧めているのも面白い。升の数で文字の大きさが自由に変えられるし、ケイ線が入っているので書きやすい。
「ここに年月日も記入すれば、日記代わりになります」
ことし亡くなった母も、80歳を過ぎてから書字を始めた。母が書いた紙は保管している。今となっては貴重な思い出の品だ。
目標は3万字大書字展
05年、「書字のすすめ」という本を自費出版すると、反響が全国から届いた。「ぜひやってみたい」この言葉を一番期待していた。書字を習う男性の1人も、「上手にならなきゃというプレッシャーがなくなり、字自体に興味を持つようになりました。いま、年賀状は手書きです」と話す。
書家としての活動で多忙な根本さんは、以前はサラリーマンだった。40代のころ、「第2の人生、昔から好きな書を柱に社会に貢献できる活動、書く力の向上運動をやってみよう」と考え、働きながら書道を習い始めた。
会社から2時間かけて帰宅後、ネクタイをしめたまま廊下で字を書いた。
「スーツを脱いじゃうと書く気がしなくなるでしょ」。定年後に役立てたいという強い気持ちが、疲労に打ち勝った。定年と同時に書字研究会を立ち上げ、「充実した生活がスタートできました。定年後も人生です。力尽きて何もできなくなってしまっては…」
目下の目標は「3万字大書字展」だ。床を文字で埋め尽くす、というこの展覧会。「手書きの文字の海の中に入って、そのパワーを感じてもらおうというものです」。すでに1万字書いた。3年計画で1日5時間書いている。
最大の悩みは書字を広める方法。
「個人が何か提案しようとすると、伝達方法の無さにがく然とします」。体験教室をできるだけ開いて、1人でも多くの人に書字を知ってもらいたいと意欲を燃やす。
◎"書字" の問い合わせ
ファクス : 029-265-5162 |
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