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  埼玉版 令和6年8月号  
子どもの幸せ、平和とともに  特撮造形家・村瀬継蔵さん

村瀬さんが手にする造形物は、「カミノフデ ~怪獣たちのいる島~」に登場する不思議な生き物「ムグムグルス」だ。「ヤマタノオロチ」をはじめ、出雲神話を想起させるキャラクターが複数出てくる同作にあって、「ムグムグルスは『因幡の白うさぎ』の要素から着想を得た。物語では大切な役割を担っています」とほほ笑む。温和な人柄で後進からも慕われる。「年が年なので、みんなに助けていただいた。おかげで(自身の)50年近く前の心境と今の思いが響き合う、すてきなファンタジー映画になりました」
米寿で初の総監督、映画「カミノフデ」公開
 「ゴジラ」や「ガメラ」、「大魔神」の各シリーズをはじめ、数多くの特撮作品に関わってきた村瀬継蔵さん(88)は、現在の怪獣造形の礎を築いた“レジェンド”と称される。65年もの歩みの中、「ずっと『子どもたちに夢と幸せを』と念じてきました」。米寿で初の総監督を務めた新作映画「カミノフデ ~怪獣たちのいる島~」にも、「変わらない思いを込めています」と穏やかな笑みを見せる。終戦から間もなく79年。“戦争の記憶”をかみ締めるように言葉を継ぐ。「作品の根底には『戦争をなくしたい』という願いも流れている。平和でないと、みんな幸せにはなれません」

 時空を超えて暴れ回る怪獣「ヤマタノオロチ」と、少女が探し求める「神の筆」―。ヤマタノオロチは、ゴジラの好敵手「キングギドラ」より首の本数が多く、ガメラのように口から火を吐く設定だ。現在、劇場公開中の「カミノフデ ~怪獣たちのいる島~」には1960~70年代、子どもたちを夢中にさせた怪獣、ヒーローを思い起こさせるキャラクターが相次ぎ登場する。“当時の少年少女”も今は50代以上。村瀬さんはこう話す。「ご覧になって『懐かしい』と喜んでもらえたら…。そして、今の子どもたちと一緒に楽しんでいただけたら、なおうれしいです」

 北海道池田町に生まれた村瀬さんは、十勝平野の自然の中で育ちながらも、「つらいことの方が多かった」と回想する。「貧しい農家だったので、牛や馬の世話、野菜づくりの手伝いに明け暮れていました」。終戦1カ月前の「北海道空襲」では池田町も標的に。このとき、10歳の誕生日を3カ月後に控えていた村瀬さんは記憶をたどる。「頭上を米軍機が飛んでいるのが何度も見えました」。戦闘シーンを想定した怪獣の着ぐるみなどの造形に携わりながらも、「(戦争を知る)私たちの世代は『戦争を消したい』という思いを、常に作品に注いでいます」。

 戦後は、「学校の学芸会が数少ない楽しみ」。上京後、23歳で東宝に入社し「特撮の神様」といわれる円谷英二の「円谷組」に加わった。「大怪獣バラン」(58年)を皮切りに、「モスラ」(61年)、「キングコング対ゴジラ」(62年)などで造形助手に。大映作品「大怪獣ガメラ」(65年)への製作参加を機に独立してからは、「大魔神」シリーズ(66年)などの造形を手掛け、「造形師」としての地歩を確立した。まだ、材料が十分になかった中、「試行錯誤しながらやっていました」。

 テレビでも、「仮面ライダー」(71~73年)や「ウルトラマンA」(72~73年)などの人気作で手腕を発揮。海外にも活躍の場を広げ、韓国映画「大怪獣ヨンガリ」(67年)、香港映画「北京原人の逆襲」(77年)などで、高い技量を示している。「北京原人の逆襲」では自作の着ぐるみに身を包み、火だるまの北京原人がビルから落下するシーンのスタントに挑むなど、その活動は時に「造形の枠」を超える。

香港から日本へ
 新作映画「カミノフデ」の基となる台本は、村瀬さん自身が「北京原人の逆襲」撮影の合間に書いた「神の筆」だ。貧しい人々がひしめき合って暮らす「九龍城砦」が香港にあった時代。自らの幼少期を重ね合わせ、「つらさを感じている子どもたちに夢と希望を届けたい」との願いを込めた。しかしその後、香港で村瀬さんと契約していた会社の経営悪化もあって、「お蔵入り」に。テレビ番組の取材を機に“復活”の企画が具体化したのは、半世紀近くたってからだった。舞台を現代の日本に置き換えた「カミノフデ」には、村瀬さん自身がモデルの特撮造形家も。総監督として全体に目を配る傍ら、映画「マタンゴ」(63年)を連想させる巨大キノコなどの造形は、「結果的に自分でやってしまいました」とほほ笑む。着ぐるみ、ミニチュア模型による「アナログ特撮」を軸にしながらも、最新の撮影・合成技術を組み合わせ、「CGとはひと味違う、『本物』の存在感がある映像になりました」。そして、テーマソングは「DREAMS COME TRUE」のオリジナル曲「Kaiju」だ。村瀬さんと「DREAMS COME TRUE」の吉田美和は同郷で、歌詞には池田町の情景も織り込まれている。村瀬さんは声を弾ませる。「(映画を)見る人の気持ちを明るくさせてくれる曲です」

 「カミノフデ」は、「(村瀬さんの)最初で最後の総監督作品」ともいわれるが、村瀬さんは「自分から『最後』と言うつもりはないです」と苦笑する。今春、「日本アカデミー賞協会特別賞」を贈られるなど、「特撮造形のレジェンド」とたたえられても、現役へのこだわりを持ち続ける。「一つ仕事を終えると、今でも『次』に気持ちがいってしまいます(笑)」


©2024 映画
「カミノフデ」製作委員会
「カミノフデ ~怪獣たちのいる島~」
 特殊美術の造形家として長年活躍した時宮健三がこの世を去った。「お別れの会」の会場を訪れた孫娘の朱莉は、そこで同級生の卓也と出会い、さらに穂積という男性から、祖父がつくろうとしていた映画「神の筆」の小道具の筆を手渡される。

 突然、光に包み込まれた朱莉と卓也が気付いたとき、そこは「神の筆」の舞台の孤島。怪獣「ヤマタノオロチ」が世界を破壊し尽そうとする光景を目の当たりにした2人は、「神の筆」の秘密に迫る冒険の旅に出る―。

 総監督:村瀬継蔵、脚本:中沢健、特撮監督:佐藤大介、テーマソング:DREAMS COME TRUE「Kaiju」、出演:鈴木梨央、楢原嵩琉、釈由美子、斎藤工、佐野史郎ほか。74分。日本映画。

 30日(金)から、イオンシネマ大宮(Tel.048・654・9494)ほかで上映。

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