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音楽の絆で人々に笑顔を ビッグバンド「デキシーセインツ」の外山喜雄・恵子さん夫妻 |
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イベント当日の演奏曲について喜雄さんは、「うち(デキシーセインツ)はルイ・アームストロング専門。ステージでは、昨年のNHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』でブームとなった『明るい表通りで』を、スペシャル・ゲストで94歳の大ベテランであるクラリネット奏者・北村英治さんと一緒に演奏しますよ」。恵子さんが補足する。「ほかのバンドはグレン・ミラーなど白人ジャズが主流。私たちがちょっと変わっているんです(笑)」 |
7月27日「デキシーランド・ジャズ・ジャンボリー」で演奏
トランペット片手にごつごつとした声で希望の歌を歌い、世界中を魅了した20世紀を代表するジャズの巨人、ルイ・アームストロング。彼に憧れ、約半世紀にわたりビッグバンド「外山喜雄とデキシーセインツ」を率いて、アームストロングの愛したデキシーランド・ジャズの灯を守り続けてきた、トランペット奏者でボーカルの外山喜雄さん(79)。同じく楽団員でバンジョー兼ピアノ奏者の妻・恵子さん(81)とは二人三脚で歩んできた。27日には、名うての楽団が集う「デキシーランド・ジャズ・ジャンボリー」に「デキシーセインツ」も参加。喜雄さんもアームストロングばりの歌声を披露する。「ルイ・アームストロングのように、音楽の絆で人々に笑顔を届けるお手伝いをしています。それが、多くの人に恩を受けてきた私たちなりの恩返しです」
ルイ・アームストロングのあだ名にちなみ、「日本のサッチモ」と呼ばれる喜雄さんは、映画「五つの銅貨」を高校のときに見て以来の根っからのサッチモファン。デキシーランド・ジャズの魅力を、「“魂の解放”を呼ぶスイングのリズムにあります」と説明する。約120年前に米ニューオーリンズで生まれ、黒人により演奏されていたジャズ。当初は“低俗”というレッテルが貼られていたが、第1次世界大戦とスペイン風邪の大流行という過酷な現実が多くの人の価値観を転換させ、デキシーランド・ジャズを先駆けにジャズの音色が世界中に響くようになったのだという。
そして、喜雄さんはこう続ける。「疫病と戦争に苦しめられている状況は現在と一緒。当日は、理屈抜きで楽しめるデキシーランド・ジャズで皆さんに元気になってもらいたいですね」
夫婦が出会ったのは、早稲田大学の「ニューオルリンズジャズクラブ」。サークルの紅一点だった恵子さんは、新入生として入ってきた喜雄さんのトランペットの腕前や歌う姿に目を奪われた。それからジャズ喫茶などでデートを重ね、1966年に喜雄さんの大学卒業・就職を待ち結婚。社会人1年生として一生懸命だった喜雄さんだが、サッチモへの憧れは断ち難く、「サッチモの故郷、ニューオーリンズを見てみたい」という思いが募るばかりだった。そんな喜雄さんの背中を押したのが恵子さんだった。「あなたの生きる道はやっぱり音楽!」
移民船で渡米
翌年には2人とも職を辞し、移民船に飛び乗って渡米。一路ニューオーリンズを目指した。「ジャズの本場が見たくてアメリカに来た」というと見ず知らずの人々が2人を手助けしてくれた。「当時のアメリカの人たちには本当に親切にしてもらいました」と恵子さん。
夫婦は同地を拠点にジャズ・ミュージシャンとしての活動を開始。約5年間の武者修行を経て、帰国後に知己となった仲間たちと75年に「デキシーセインツ」を結成した。そして、7〜8年が経過したころ、楽団の“経営者”として「少ししんどくなってきた」とぼやく喜雄さんのもとに、学生時代の先輩から連絡が入る。「うちの会社で始める大きな遊園地に、楽団として入ってくれないか?」。それが83年開園の東京ディズニーランドだった。
「デキシーセインツ」は、映画「メリー・ポピンズ」に登場した「パーリーバンド」にふんしほぼ毎日出演。その後23年間、子どもたちに囲まれながら園内を演奏し練り歩いた。「園内とはいえ路上パフォーマンスがメイン。エンターテイナーとしてどんなときも観客の笑顔を第一としたサッチモの極意に触れた気がしました」と喜雄さん。
「銃に代えて楽器を」
また、94年に夫妻は日本ルイ・アームストロング協会を設立し、「銃に代えて楽器を」運動をスタートさせた。その内容は、貧しい黒人が中心に住むニューオーリンズ貧民街の、銃や麻薬ですさんでいる子どもたちに日本で寄付を募った中古楽器を譲渡。貧困から犯罪に走らざるをえない子どもたちに、演奏家として身を立ててもらおうというもの。「今こそアメリカで受けた恩を返すとき」と喜雄さんは運動立ち上げの動機を語る。「サッチモも貧民街出身の黒人。少年時代に銃に絡み少年院に収容されましたが、そこで楽器に触れ『偉大なジャズ王』への道を歩みました。それをアメリカ人たちに思い出してほしいのです」
また2005年には、ハリケーンで大被害を受けたニューオーリンズへ、日本各地から届いた義援金を寄付している。すると11年、東日本大震災ではニューオーリンズ側から「恩返し」とばかりに「震災で楽器をなくした子どもがいたら贈りたい」とのメールが夫婦のもとに届く。すぐに協力者を通じ津波で楽器も練習場もなくした宮城・気仙沼の中学生ジャズバンドに楽器が寄贈された。「避難所で暮らす子どももいましたが、楽器を受け取ったときの笑顔は忘れられません」と喜雄さん。恵子さんは「ジャズを通して善意の輪が、日米に広がったのです」と目を輝かす。
現在、80歳前後の2人だが、今も月に4〜5回はステージに立つ。「子どものころ、ディズニーランドでの私たちの演奏を聞いてデキシーランド・ジャズを始めた若い人たちは結構いるんです。彼らと一緒に、ジャズを盛り上げ多くの人に笑顔を届けていきたいですね」と2人はほほ笑む。 |
外山喜雄とデキシーセインツ 2022年1月18日 新春デキシーランド・ジャズ・ジャンボリーVOL.14 会場:めぐろパーシモンホール
©Japan Popular Music Association & Koji Ota |
♪デキシーランド・ジャズ・ジャンボリー 2023 夏休みスペシャル!
27日(木)午後4時、めぐろパーシモンホール(東急東横線都立大学駅徒歩7分)大ホールで。
デキシーランド・ジャズの音色を守り続ける5大ビッグバンドが勢ぞろい。聞く人をハッピーにするデキシーランド・ジャズを往年のファンのほか、若い世代にも生で味わってもらう夏休みスペシャル企画。
予定曲:「明るい表通りで」「聖者の行進」「シング・シング・シング」ほか。出演:外山喜雄とデキシーセインツ、薗田憲一とデキシーキングス、有馬靖彦とデキシージャイブ、デキシーキャッスル、中川喜弘とデキシーサミット、スペシャル・ゲスト:北村英治(クラリネット)、森口博子(ボーカル)。
全席指定。SS席8000円、S席6000円、A席4000円。日本ポピュラー音楽協会 Tel.03・3585・3903(平日正午〜午後6時)
【読者割引】
電話予約の際、「定年時代を見た」と言えば、SS席8000円を6000円に割引(先着80人、掲載日から1週間以内)。 |
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