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  埼玉版 令和5年6月号  
歌の命は「時」を超える  作詞家・売野雅勇さん

売野さんは、自分が作詞した歌の世界を小説化することを考えているという。「『星屑のステージ』や『少女A』、『六本木純情派』など、40周年記念コンサートで演奏する曲を短編小説にしようと思っています」。7月に自身が作詞した曲の編集企画CDが4種類発売される予定だが、「手始めに、その中の1枚に入る12曲程度の歌を題材に短い小説にします」
「涙のリクエスト」「少女A」…、7月に作詞活動40周年コンサート
 涙のリクエスト」「少女A」「2億4千万の瞳」「め組のひと」「SOMEBODY’S NIGHT」など、1980〜90年代を中心に数々の大ヒット曲を世に送り出した作詞家の売野雅勇(うりの・まさお)さん(72)。「今日まで長い間愛されてきた、これらの歌に対しあらためて敬意を表したい」と、作詞活動40周年を迎えた心境を語る。「流行歌はヒットが終われば消えてしまうと思っていましたが、歌は人間にとって最も身近な娯楽で、切り離せないものだと分かってきました」と、歌が持つ生命力の強さを感じている。7月15日開催の作詞活動40周年記念コンサートには藤井フミヤらミュージシャン19人(組)が集結し、売野さんの代表曲を歌う。

 「曲を絞り込むのに苦労しました」。売野さんの作詞家活動の集大成ともいえる「MIND CIRCUS SPECIAL SHOW『それでも、世界は、美しい』」。2年前に開催する予定だったが、コロナ禍で今年に延期された同コンサートは、まさに“売野雅勇ヒットパレード”だ。「これまで作った歌は1500曲を超える」という売野さんが、自らの曲の中から約40曲を選んだ。

 売野さんは1981(昭和56)年に発表したシャネルズ(後のラッツ&スター)の「星くずのダンス・ホール」で作詞家(ペンネームの麻生麗二)デビュー。以来、詞を提供した歌手は荻野目洋子、河合奈保子、菊池桃子、小泉今日子、郷ひろみ、近藤真彦、シブがき隊、田原俊彦、チェッカーズ、中森明菜、中谷美紀ら数多い。

 世界的に注目を集めるシティー・ポップ(JマイナスPOP)やJマイナスROCKの礎を築いた一人でもある売野さん。そんな彼が作詞家の道を歩むようになったのは、先輩からのアドバイスがきっかけだった。

 売野さんは51(昭和26)年、栃木県足利市に生まれた。流行に敏感でスポーツ好きだったため上智大学に進学後、アメリカンフットボール部に入る。

 毎日練習に明け暮れた学生時代、ラジオを聞くのが好きで音楽をよく聞いていたという。就職活動でレコード会社やラジオ放送局の試験を受けたが採用されず、広告代理店に入社。その会社で自ら希望してコピーライターの仕事に就く。売野さんがコピーライターに関心を持ったのは、アメフト部の先輩から「売野は話が面白いので、向いている」と勧められたからだった。「長い文章を書くのは苦手でしたが、コピーは会社の先輩から教えてもらいながら見よう見まねで書けるようになりました」。その後、フリーになった売野さんはレコードやCDのコピーを書いていたが、それを見た音楽関係者から「書いてみないか」と勧められ、作詞家へと転身する。

「頼られるのが好き」
 売野さんが生み出した作品は“物語性”に富んでいる。例えば、中村雅俊が86(同61)年に歌ってヒットした「想い出のクリフサイド・ホテル」。「最初にクリフサイド(崖っぷち)という言葉を思い付いたんです。この言葉をキーワードに、架空のホテルに泊まった男女の危険な恋の物語という設定にしました」。作詞には、曲ができていない状態から詞を書くケース(詞先)と、先にメロディーができていてそれに詞を付ける場合(曲先)とがある。「『想い出のクリフサイド・ホテル』の場合は、詞先でした。詞先は自由に書けるというメリットはありますが、何もないところから一歩を踏み出すので、詞の世界が決まるまでは迷いの連続。その点、曲先は、曲さえよければ楽です」

 売野さんは“仕事(作詞)は受け身であること”がモットー。依頼が来るまでじっと待ち、自分から売り込むようなことはしない。「人から頼られるのが好きなんです。依頼された仕事はよほどのことがない限り断りません」。唯一、自らリクエストした歌手が矢沢永吉だった。「若いころから矢沢さんにほれていて、曲を書きたいと思っていた」という売野さん。「僕の名前が売れてくれば必ず依頼が来るはず」と内心思っていたが、最初の大ヒットとなった中森明菜の「少女A」(82年)や、チェッカーズの「哀しくてジェラシー」(84年)などヒット曲を連発しても矢沢から曲の依頼が来ない。しびれを切らした売野さんは矢沢の制作ディレクターに会って交渉。そうして生まれたのが、ヒット曲の「SOMEBODY'S NIGHT」(89年)。それから矢沢の曲をいくつも書くようになる。

「生きる価値はある」
 今回の記念コンサートのタイトルになっている「MIND CIRCUS」は、96年に発表した女優・中谷美紀のアルバム収録曲だ。当時、ホテルの部屋で1週間全く書けずに一人苦しんでいた売野さんが階下へ降りようとエレベーターを待っていたとき、突然一行目のフレーズが浮かんだという代表作の一つ。売野さんの人生観がうかがえる思い出深い曲名に、「それでも、世界は、美しい」というコピーを付けた。同タイトルには、「つらくて悲しいことが多い世の中だけど、それでもこの世界は美しく、生きる価値はあるよ」という売野さんのメッセージが込められている。


絵・金子國義
♪売野雅勇 作詞活動40周年記念オフィシャル・プロジェクト
   MIND CIRCUS SPECIAL SHOW「それでも、世界は、美しい」♪

 7月15日(土)午後5時、東京国際フォーラム(JR有楽町駅徒歩1分)ホールAで。

 出演は麻倉未稀、稲垣潤一、荻野目洋子、さかいゆう、杉山清貴、中島愛、中西圭三、中村雅俊、藤井フミヤ、森口博子、横山剣ほか。

 予定曲(全曲作詞:売野雅勇)は「Woman」、「想い出のクリフサイド・ホテル」、「哀しみの外電」、「最後のHoly Night」、「SOMEBODY'SNIGHT」、「少女A」、「崇高な果実」、「夏のクラクション」、「星屑のステージ」、「水の星へ愛をこめて」、「六本木純情派」ほか。

 全席指定1万5000円。問い合わせはディスクガレージ Tel.050・5533・0888(平日正午〜午後3時)

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