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  埼玉版 令和4年7月号  
「もう年だから」…頭から追い出す  89歳で初のエッセー本を出版・大崎博子さん

今はパソコンだけでなく、スマートフォンも使いこなす大崎さん。一人娘が日本に居ないこともあり、「認知症が一番怖い」と言う。「でも、認知症はある程度なら予防可能では…。少なくとも認知症になりにくい生活はできると思います」。体の老化も感じてはいるが、「『これ以上衰えない』と頑張っている」と笑みを見せる。「ただ、『歯をくいしばって』という意識は毛頭ない。毎日楽しく無理なく、健康づくりができています」
=写真提供:(株)宝島社
ツイッター「フォロワー」は15万人超
 短文投稿によるウェブサービスとして、世界の人々の交流の“場”にもなる「Twitter(ツイッター)」。練馬区の都営住宅に暮らす大崎博子さん(89)にとって、それは78歳のときから人生を輝かせる存在だ。日常の出来事、健康法、そして戦争体験…。それらの「ツイート」(投稿)を追う「フォロワー」は、国内外合わせ15万人を超す。今春には、ツイートをもとにした初の著書「89歳、ひとり暮らし。お金がなくても幸せな日々の作りかた」を発行。「何事においても限界を決めない」が信条の大崎さんは、声を弾ませる。私は「『もう年だから…』という言葉を頭から追い出しトライする。私ね、今が人生で一番楽しいわ」

 2011年3月の東日本大震災。当時、パソコンを習い始めたばかりの大崎さんは一人娘に勧められ、発生のわずか3日ほど前、ツイッターの利用登録を済ませていた。激しい揺れの後、通常の電話が通じない中、ツイッターで自身の無事を発信し、ロンドンに住む娘からのリプライ(返信)を得た。「『これはすごい』と…、まさに実感でした」。東京電力福島第一原発の事故では、「出てくる情報が何か変。戦争の記憶とダブってしまった」と唇をかむ。

 《大本営発表を信じるな!》

 政府や東京電力への憤りを率直につづったツイートは反響を呼び、フォロワーが激増。「私の人生、それで劇的に変わりました」

 茨城県下妻市に生まれ育った大崎さんは、高校卒業後に上京。娘を授かったものの、やがて離婚し「それからはいろんな仕事に就きました」と回想する。

 50歳から70歳までは、結婚式場やホテルの衣装アドバイザー。子育てが一段落した60代に入り、「ようやく経済的にも精神的にも落ち着きを得た。(カトリックの)洗礼を受けたのも大きかったですね」と笑みを見せる。しかし、70代に入って胃がんを発症し胃の3分の2を切除。娘が英国留学してからは一人暮らしとあって、「弱って、ぼけてしまうかもという不安はありました」と、手術後の心境を明かす。娘から「パソコン(の無料通話アプリ)を使えば“ただ”で話せる」と言われ、仕事でも使ったことがなかったパソコンを購入した。「そんな私がツイッターなんて…、正直、続くとは思っていませんでした」

 熱中のきっかけは震災とはいえ、「一日数回のツイートは、たわいもないものが大半です」。「毎日8千歩」のウオーキング、米ぬかを取り入れた健康食、大好きな韓国ドラマや人気グループ「BTS」…。「それから毎日の晩酌。89歳でも飲んだっていいじゃない(笑)」。後期高齢者を「高貴香麗者」、気合を「喜愛」…。ツイートの言葉にも遊び心を込める。ただ、「たまにはピリッとしたものも入れますよ」。終戦記念日の前後には、こんな“つぶやき”も織り交ぜる。

 《強烈に戦争への抵抗感をうませるためにも敗戦記念日との名称へ変えるべきかと思います》

 歯磨き粉の代わりに、かまどの灰を指に付けて歯を磨いた日々…。それでも大本営発表を真に受け、「日本は勝つ」と信じていた大崎さんは、投稿を重ねる意図を話す。「若い人の利用が多いツイッターを通して、戦争のむごさと理不尽さを伝えたい」。フォロワーの年齢層は幅広く、その数は今も増え続ける。

 大崎さんの舌鋒(ぜっぽう)は時に、政治や大企業に向け鋭さを増すが、「個人攻撃は絶対しない」。インターネット上のSNS(会員制交流サイト)での誹謗(ひぼう)中傷の問題に心を痛めながらも、「一人一人がマナーを守れば、傷つけ合うことは防げるのでは…」と言う。「こんなに便利なものを使わない手はない。その上、“普通のおばあさん”に世界各国からリプライが来る。おかげで一人暮らしの寂しさは全くないんです」

“ツイート総集編”
 そんな大崎さんでも、昨夏の著書執筆依頼には、「まさか…」と驚いた。「(1回の)ツイートが140字以内のツイッターとは勝手が違う」。戸惑いつつも、「今、悩んでいたり、老後に不安を抱えていたりする人の役に立つなら…」との思いで書き進めた。「89歳、趣味はツイッター。人生、今が一番元気です!」で始まる全8章は、10年余りに及ぶツイートの「総集編」ともいえる内容だ。認知症予防やお金をかけないおしゃれの工夫、「1カ月で10万円ちょっと」の生活費、終活など、テーマは多岐にわたりながらも、「それぞれが関係し合っている」とよどみない。例えば、仲間と一緒の太極拳でも、身だしなみを気に掛ける。「みんな若くて平均70歳くらい(笑)。外(身だしなみ)を整えて加われば、中(気持ち)も若やぎます」。出版後、増刷を重ねる中、「時折、外で(自著に)サインを求められる」とほほ笑む。「多くの人が『89歳であんなに元気とは…』と興味を持ってくださる。それは私の生きる活力にもなっています」


「89歳、ひとり暮らし。
お金がなくても幸せな日々の作りかた」
大崎博子著(1430円・(株)宝島社)
「健康で100歳に」
 大崎さんは「シングルマザー」という言葉が一般的でなく、離婚が暗く重い響きを伴う「生き別れ」ともいわれた時代を振り返る。「長いトンネルから抜け出せない時期もあったけれど、苦労はマイナスにはならなかった」。今、心から幸せを感じられるのは、「年を重ねるにつれ、自分を大切にできるようになったせいもあるのかな」とかみ締める。「知人・友人、そして見知らぬ人も大切に…、それが当たり前になればSNSの誹謗中傷もおのずからなくなる。もっと多くの人が健康長寿でいられる世の中になるはずです」。コロナ禍の中、「LINE(ライン)」の無料通話で娘や孫と頻繁に話す大崎さんは、笑みを絶やさない。「ツイッター以外にも相性のいいコミュニケーション手段が出てきたらトライする。健康でいられるのなら、100歳まで生きるのもいいですね(笑)」

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