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  埼玉版 令和3年3月号  
画面の中に「過去」を醸す  女優・香川京子さん

田中絹代、原節子、山田五十鈴、長谷川一夫、三船敏郎…。名優との共演を重ねた香川さんは「若いころは『ご迷惑をお掛けしないか…』と不安でした」と振り返る。「でも、皆さん、本当に良くしてくださいました」。現在放映されているNHKの連続テレビ小説「おちょやん」のモデル・浪花千栄子とは、「近松物語」などで共演した。「時代劇の歩き方をはじめ、いろいろ教えていただきました」
公開中の映画「モルエラニの霧の中」出演
 女優として70余年—。香川京子さんは89歳になった今も、「現役」の意欲を失わない。小津安二郎、黒澤明といった巨匠に起用された若いころと違い、「今は(画面の中に)居るだけで『過去』を感じていただけるように…。難しいですね」と、たおやかな笑みを見せる。公開中の出演映画「モルエラニの霧の中」は、北海道室蘭市を舞台にした“七つの記憶の物語”だ。「優れた作品の記憶は見た人の心に宿り、時として、その人の生き方をも変えます」。静かに、よどみなく言葉を継ぐ。「そうした作品に出合い続けられている私は、本当に恵まれています」

 牧草地の緑に映える満開の一本桜と、桜に向き合う和装の女性—。室蘭に生きる人々の息遣いを絵画のような映像に織り込んだ「モルエラニの霧の中」は当初、昨春公開を予定していた。しかし、公開日程はコロナ禍のあおりで延び延びに。撮影後、共演の大杉漣、小松政夫らがこの世を去ったこともあり、香川さんは「ようやく上映がかなって、何かほっとしました」とかみ締める。3時間半を超す長編だが、「登場する一人一人の思いが自然に伝わってくる、気持ちの良い映画。(試写を)見ていて疲れを感じませんでした」。和装の女性を演じたときの記憶をたどる。「2〜3日して(桜の花は)散り始めましたが、そのはかない美しさは、作品を見た人の心に残ります」

 香川さんは都内の高等女学校を卒業する直前、東京新聞社主催の「ニューフェイス・ノミネーション」に応募し、卒業後に新東宝と契約。映画のエキストラ出演を経て1950年、「窓から飛び出せ」で本格デビューした。成瀬巳喜男の監督作品「おかあさん」に出た52年には、新東宝を離れフリーに。53年、所属俳優の他社作品出演を封じる「五社協定」が結ばれただけに、「協定に縛られずにすんで幸運でした」と回想する。

 清純で素直な印象がかわれ、「巨匠」として映画史に名を残す監督から重要な役に抜てきされた。今井正の「ひめゆりの塔」(53年)、小津安二郎の「東京物語」(同)、溝口健二の「近松物語」(54年)…。指示が緻密だった小津、演技指導を極力しなかった今井と溝口。「一つ一つが勉強になりました」と言いながらも、初めての人妻役だった「近松物語」を「一番忘れられない作品」に挙げる。「死にたくなるくらい苦しんだけれど、『役の気持ちになり切れれば、自然に動ける』。芝居の根本を教えていただきました」。その後、「どん底」(57年)を皮切りに、黒澤明の5作品でも主要キャストに名を連ねている。「『近松物語』の体験があったから、『黒澤組』でもやっていけたと思います」

「決断には責任」
 自らの性格を「少し頑固」と評した上で、「出演作は自分で選び、その責任は自分で持つ。そう考えて生きてきました」。黒澤の「赤ひげ」(65年)で“狂女”に挑むなど、年を重ねるとともに役の幅を広げてきた。60歳を過ぎたころからは、「老い」がにじむ役柄も。95年放映のNHK連続ドラマ「藏」では、“古い屋敷に長年住むおばあさん”を好演した。「長い過去があって、その上に今がある。せりふや扮装(ふんそう)に頼らず、いかにそれを表現するか…。若いころにはなかった難しさを感じました」

 映画「モルエラニの霧の中」では“謎めいた女性”として登場し、長く離れて暮らしてきた父子の心をつなぐ役割を果たす。「ここでも『時の蓄積』を感じていただければ…」。監督・脚本の坪川拓史は「(脚本を)書くときに『香川京子さんのような人』をイメージし、断られるのを覚悟で出演をお願いした」と明かしている。香川さんは「昔の作品を見たという若い監督からのお話はうれしいです」。同作に限らず、はるかに年下のスタッフに、「何でも言ってください」と念を押す。「昔の偉い監督も、今の若い監督も、私にとっては同じ『監督さん』。その考えを十分くみ取るように努めるのは当然です」

収束と撮影を切望
 夫の仕事の関係で海外に住んだ3年間を除き、女優活動に切れ目はない。「私にとって現場の仕事は、視野を広げる機会にもなりました」。第2次世界大戦中は疎開したこともあって、空襲などには遭わずにすんだ。それだけに、沖縄戦のセミ・ドキュメンタリー映画「ひめゆりの塔」では、「(ひめゆり学徒隊を)演じた私自身がすごい衝撃を受けました」。沖縄返還後の79年から沖縄に通い、奇跡的に生き残った元学徒隊員らの話や記録、現況を、自著などを通して広く紹介してきた。「ひめゆり同窓会」の准会員にもなった香川さんは、戦後75年を過ぎた今、「世の中が心配な方向に行きつつあるのでは…」と危ぶむ。「戦争ほど人の命を軽くするものはない。絶対嫌」。昨年春、沖縄戦を題材にした新作映画「島守の塔」の撮影で沖縄に行くはずだったが、コロナ禍のため延期されている。「残念です」。今は収束をひたすら待つ。「私は『これは撮らなきゃいけない映画』と考えています」


©室蘭映画製作応援団 2020
「モルエラニの霧の中」  日本映画
 「冬」、「春」、「夏」、「晩夏」、「秋」、「晩秋」、「初冬」の“7話連作形式”。
 監督・脚本・音楽:坪川拓史、出演:大杉漣、小松政夫、坂本長利、香川京子ほか。214分(途中休憩あり)。
 岩波ホール(Tel.03・3262・5252)で12日(金)まで公開。

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