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「国際音楽祭NIPPON」で諏訪内さんは芸術監督として、公演の構成や内容を練り、出演者の人選・出演交渉なども行っている。ワシントン・ナショナル交響楽団音楽監督のジャナンドレア・ノセダ、ピアニストのニコラ・アンゲリッシュらは、協演を重ねた間柄だ。「音楽祭の企画・準備の過程で、すごく力になっていただいている。人間としての幅の広さと奥深さをあらためて強く感じます」 |
「国際音楽祭NIPPON」を企画、出演
チャイコフスキー国際コンクールバイオリン部門優勝から30年—。バイオリニストの諏訪内(すわない)晶子さん(47)は、40代に入って「国際音楽祭NIPPON」を自ら企画し、芸術監督を務めている。今年は戦後75年、ベートーベン生誕250年も記念し、2月〜3月、東京を中心に開催。著名なクラシックの楽曲に加え “隠れた名曲”や現代音楽も楽しめる、多彩な公演のラインアップだ。次世代対象の公開レッスンや震災復興支援コンサートも。日本で音楽教育を受け世界に羽ばたいた諏訪内さんは、音楽祭に託す思いを語る。「私ができる日本への恩返し。そう思い定めています」
「18歳、史上最年少」「日本人初」—。チャイコフスキー国際コンクールを境に、「周りの環境が一変しました」と諏訪内さんは苦笑する。3歳でバイオリンを始め、町田市の中学校在学時に、全日本学生音楽コンクール(中学校の部)1位入賞。高校に入って日本音楽コンクールでも1位に輝き、照準を国際コンクールに移している。「私は海外の英才教育とは無縁でした」。恩師の一人に、世界的バイオリニストとして知られた江藤俊哉の名を挙げる。「江藤先生をはじめ日本の音楽家が戦後、海外で学んだ成果を持ち帰ってくださった。おかげで私は日本に居ながら、世界に通用する音楽教育を受けられました」
演奏活動を休止
しかし、「演奏以外のことには本当に疎かった」。一躍“時の人”になってからは、「演奏に追われていたら長くもたないと…、直感めいた不安がありました」と明かす。周囲の反対を押し切り、日本での演奏活動休止とアメリカ留学を決意。ジュリアード音楽院に加え、コロンビア大学にも通っている。ドイツのベルリン芸術大学でも教えを受けた諏訪内さんは、よどみない。「音楽以外の勉強もした。それらは結果として、私の音楽にプラスに働きました」。5年ほどの“充電”を経て活動を再開し、「世界のソリスト」として、国内外の主要オーケストラとの協演を重ねる。今も「練習を『とことんやった』という感覚がないと、ステージに立てない」。そうした姿勢は国境を超えた人脈づくりにもつながり、「国際音楽祭NIPPON」実現の大きな力となっている。
「恩返し」の意識は20代後半からあったものの、「40歳になってようやく形にできました」。東日本大震災の報に接し、「背中を押された気もします」と言う。
経験の全て、音楽に反映
第6回となる今年は、東京のほか愛知県でも開催。震災復興支援コンサートは、岩手県釜石市が会場だ。東京では、「それぞれ趣の違う公演を考えた。その全てに私も出ます」。一つは9時間半に及ぶ、ベートーベンの「室内楽マラソンコンサート」で、普段はあまり演奏されない“隠れた名曲”も取り上げる。ワシントン・ナショナル交響楽団との協演では、30年前のコンクールで挑んだチャイコフスキー「ヴァイオリン協奏曲」を弾く。「コンクールのときとは違う演奏をお聞かせできると思います」。今は能動的に学習したことだけではなく、生きてきた軌跡も演奏ににじむと確信する。30代は私的な心労が重なり体調を崩すなど、「すごくつらい時期でした」。自らに言い聞かせるように言葉を継ぐ。「芸術には人間のあらゆる要素が入っていて、つらさや苦しみから醸し出されるものもある。実感として、そう思えるようになりました」
現代音楽をテーマにした公演も。「演奏家と共に“今”を楽しんでいただきたい。かみ砕いた解説のトークタイムも予定しています」と笑みを見せる。子どもや若手を直接指導する「マスタークラス」(公開レッスン)は、「恩返しという意味でも外せない。私が今、持っているものをどんどんお伝えします」。
その一方、自身の演奏を「生涯をかけて磨いていく」と言葉に力を込める。使用楽器は“ストラディバリウス三大名器”の一つともいわれる「ドルフィン」だ。「語り掛けてくる以上の存在。楽器に振り回されないよう、私自身が強くありたい」とかみ締める。“ソ連発”のニュースで世界を驚かせてから30年。刺激を受けた音楽家たちが「ソ連崩壊」により、運命を変えていく姿も目にしてきた。戦後75年の新春を迎え、あらためて思う。「音楽に打ち込める環境にある私は幸せ。感謝と世界平和の願いを胸に、音楽祭に臨みます」 |
© Kiyotaka Saito |
♪ 国際音楽祭NIPPON 2020(東京開催公演) ♪
♪諏訪内晶子&ニコラ・アンゲリッシュ デュオ・リサイタル
2月14日(金)午後7時、東京オペラシティ(京王新線初台駅直結)コンサートホールで。「第5番『春』」など、ベートーベンのバイオリン・ソナタ3曲を演奏。ピアノ:ニコラ・アンゲリッシュ。S席8000円、A席6000円。
♪ベートーヴェン室内楽 マラソンコンサート
3月8日(日)午後1時、東京オペラシティコンサートホールで。全3部構成。1日通し券8500円、各部券4000円。
♪ジャナンドレア・ノセダ指揮 ワシントン・ナショナル交響楽団
3月10日(火)午後7時、サントリーホール(地下鉄六本木一丁目駅徒歩5分)大ホールで。予定曲:チャイコフスキー「ヴァイオリン協奏曲」、ドボルザーク「交響曲第9番『新世界より』」ほか。S席2万円〜B席1万3000円。
♪諏訪内晶子室内楽プロジェクト
3月11日(水)と13日(金)、紀尾井ホール(JR四ツ谷駅徒歩6分)で。両日とも午後7時開演。
11日は、ブラームス「ピアノ三重奏曲第3番」などクラシックの名曲。13日は、川上統「組曲『甲殻』より」などの現代音楽。各日S席8000円、A席5500円。2公演セット券はS席1万2000円、A席8500円。
各公演全席指定。65歳以上割引あり。諏訪内晶子は全公演出演(マラソンコンサートは第3部)。
ジャパン・アーツぴあ Tel.0570・00・1212 |
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