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  埼玉版 令和元年7月号  
東京キューバンボーイズ「結成70周年」  バンドマスター・見砂和照さん

往時のTCBは、伝説的なジャズのビッグバンド「原信夫とシャープス&フラッツ」ともよく共演していた。同バンドは惜しくも解散したが、70周年記念コンサートでは関西ジャズの名門「アロー・ジャズ・オーケストラ」を招へい。一夜限りの“バンド合戦”を行うという。「当日は父の時代の譜面を用い、双方がそれぞれの持ち味で掛け合いしながら演奏、当時の熱気を現在に再現します」と見砂さん
レコードデビュー30周年、7月に横浜でステージ
 戦後、日本に到来したマンボ旋風を背に一世を風靡(ふうび)したラテン・ビッグバンド「見砂直照(みさご・ただあき)と東京キューバンボーイズ」(TCB)。一度は解散したものの、2005年に復活した同バンドの結成70周年記念コンサートが12日に開かれる。率いるのは亡き父のあとを継ぎバンドマスターとなった見砂和照(かずあき)さん(67)。当日は往時の“懐メロ”だけでなく、近年のキューバ音楽をリスペクトし進化した新生TCBの演奏を聴いてほしいと意気込みを語る。「『父が生きていればこういうことをやりたかったはず』というのを目いっぱい盛り込みました。昔も、そして今も“聴いて、見て、元気になる”キューバンボーイズサウンドを楽しんでいただきたいですね」

 戦争の記憶がまだ新しかった1949年、ラジオから流れる、明るく軽快なラテンのリズムに憧れ、見砂直照により結成されたTCB。「当初は限られた情報の中、楽器や衣装を手作りし、試行錯誤しながら演奏を重ね、日本独特の『ラテン音楽』を築き上げたと聞いています」と同バンドの伝説を語り継ぐ見砂さん。

 「父と同じく多くのメンバーが鬼籍に入りましたが、みんな雲の上で相変わらずバンドを組んで演奏しているのではないでしょうか(笑)。当日は、『天国のバンドに比べ僕が率いる地上のバンドはどうですか』と、父に問い掛けながら演奏に臨みたいですね」

 現在、見砂さんはTCBのバンドマスターとして年に数回指揮棒を振るが、“本業”はスタジオミュージシャンなどとして活躍するプロのドラマーだ。ただし見砂さんが音楽の道に進んだのは、父とは一切関係ないという。

54歳で「覚悟」の再結成
 「幼少時、父と丸一日顔を合わせられたのは、1年通して2週間もなかったと思います。あまりにも仕事が忙しく、僕にとってはたまに家に来る“お客さん”みたいな存在でした(笑)」

 そのため父に影響を受けた記憶はなく、音楽にはまったのはきょうだいのバンド活動に触発されたからだと振り返る。「姉の練習を見に行き、ドラムの魅力に取りつかれました」

 友人たちとのアマチュアバンド活動を経て、高校時代にプロのバンドに加入。19歳のとき、歌手のレコーディングを手助けするスタジオミュージシャンになり、松山千春、さだまさしなどのフォーク歌手から松田聖子らアイドルまでもサポートしたという。「業界の隅々にまで父の存在は知れわたっており、おのずと父の名前を背負うことに…。歴戦のプロにもまれながら無我夢中でドラムをたたきました」

 やがて、23歳でポップスバンド「大橋純子と美乃家セントラルステイション」に参加したほか、さまざまなバンドに加入。業界に地歩を築いていった。

仕事では父にも敬語
 バンド活動にまい進していた27歳のとき突然父から、「ビッグバンドを経験した方が、音楽家としてつぶしがきくぞ」とTCBに誘われる。「父の真意がどこにあるのかは分かりませんでしたが、抵抗感なく合流しました」

 TCBのメンバーは自分よりはるかにベテラン。“新米”の自覚のあった見砂さんは、父とも公私の区別をつけ、仕事での上司として敬語で話していたという。「父は音楽に対して一切妥協のない人。自分は一楽団員としてそれに応えるだけでした」。しかし、2年後の80年、父の健康と経営の悪化からTCBは解散。その前に、「父から『あとを継ぐつもりはないか』との打診もあった」と打ち明ける。「当時そんな気は全くなく、断りました。父が一代で築いたものだから、父自身で幕を閉じた方がよいと思っていましたね」

 そしてバンド解散後10年で父・見砂直照は死去。「死の床でも虚空に向かって指揮をしていました。夢の中でコンサートを開いていたのでしょう。同じ音楽家として、言葉では言い表せられないほど偉大な人だったと思っています」

 その後も追悼コンサートなどでTCBメンバーと顔を合わすことはあったものの、見砂さんは一ドラマーに戻り、芸能界で活躍していた。だが、04年のある日、キューバ大使館から呼び出しが掛かる。「キューバ音楽を日本で普及させた直照氏を顕彰したい。ついてはTCBを率いてキューバに来てくれないか」

「一生奏でたい」
 突然のことだったが旧メンバーが駆け回ってくれ翌年、54歳で「見砂和照と東京キューバンボーイズ」として再結成。「覚悟を決め、あとを継ぎました」と見砂さん。バンマスを継いで以降、父の顔に泥を塗る羽目にならぬよう、ラテン音楽を必死で勉強したと話す。「日本の大衆音楽として受け入れられる形で築き上げられた旧来のTCBのラテン音楽を継承しつつも、せっかく再結成するのですから、より本場をリスペクトした、新しいラテンの響きを紹介していきたいですね」

 現在、TCBは1年に10回ほどコンサートを開催。メンバーもそれぞれ“本業”を持っているが、コンサートの予定が決まるとほぼ全員集まってくれるという。「バンマスを継いで以来、いろいろなプレッシャーで病を患ったりもしましたが、自分がステージに立てるうちは、ラテン音楽を一生奏でていきたいですね」

♪東京キューバンボーイズ結成70周年記念コンサート♪
 12日(金)午後5時、文京シビックホール(地下鉄後楽園駅直結)大ホールで。
 予定曲:「マンボNO.5」「マンボ・ジャンボ」「タブー」「ビギン・ザ・ビギン」ほか。
 友情出演:アロー・ジャズ・オーケストラ、たけうちtatata、矢坂順一、カルロス・セスペデス、岸のりこ、Somos Cubaほか。総合司会:露木茂。

 全席指定。前売りS席6500円〜A席5500円(当日各500円増)。問い合わせは日本ポピュラー音楽協会 Tel.03・3585・3903

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