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映画「ねことじいちゃん」にタマ役で“主演”したベーコンと岩合さん。「ほとんどの場面に猫が登場するようにこだわりました」。特にベーコンが大吉役の立川志の輔の上で寝ているシーンがお気に入りという |
映画「ねことじいちゃん」で初監督
「カメラを向ける前に、いつも『この猫はどんな性格の猫なのか』とじっくり観察しています。それが分かると、カメラアングルも変わってくるんです」と話す動物写真家の岩合光昭さん(68)。「猫も人間と同じで一匹一匹、個性が違う」と考える彼の撮った猫たちは生き生きしていて、見る人を楽しませる。その岩合さんが監督に初挑戦した映画「ねことじいちゃん」が現在、全国公開されている。ロケ地となったのは愛知県・三河湾の沖合に浮かぶ島々。「猫と人がのどかに暮らす素晴らしい自然にも注目してほしい」と言う。
岩合さんはこれまでドキュメンタリー映像作品を数多く撮影、製作してきたが劇場向け映画は初めて。「映像に関わる人間として映画監督はいわば男の夢。いつか動物をテーマにした物語を撮ってみたいと思っていました」
物語の主人公、春山大吉は70歳になる元校長。妻に先立たれた後、飼い猫のタマと共に、生まれ育った島で静かに暮らしていた。そんな一人と一匹の人生にある日、変化が訪れる。友人の死に続き、大吉自身も体に不調が。そんなとき、タマが突然姿を消してしまう。このまま島で暮らすか、息子のいる東京に移るか、決断を迫られる大吉は…。
猫は“心の余裕”もたらす
原作は、イラストレーター、ねこまきの同名人気コミック作品(KADOKAWA)。岩合さんは同コミックを以前から読んでいたが監督の話が来たとき、すぐにオーケーしなかった。「映画監督の責任は重い。果たしてできるかどうか」と考えた。
映画の舞台となる篠島、佐久島、日間賀島は10数年前に訪れていたので、「それらの島にはどんな猫がいたか」「どんな人々が住んでいたか」と思い出してみた。すると、頭の中にさまざまなシーンが映画のように浮かぶ。このとき、「これはやるしかない」と同作との運命的な出会いを感じたという。
師匠は「はまり役」
大吉役は落語家の立川志の輔。猫の写真展が縁で志の輔と付き合いのあった岩合さんは、「元校長という役柄は師匠にぴったり」と思ったという。しかし、初の主演ということやスケジュール調整もあって引き受けてもらうのに多少、時間がかかった。「師匠に『やってみましょうか』と言われたときはすごくうれしかった」と相好を崩す。
あとは“もう一人の主役”タマにどんな猫を選ぶか。志の輔と息の合った猫を探すため、岩合さんは動物プロダクションを幾つも回り、合計100匹以上の猫と“面接”。最終オーディションに残った6匹の猫に志の輔と室内を一緒に歩いてもらった。すると、何度も顔を見上げながら志の輔の歩く速さに合わせて歩く猫が…。そのしぐさを見た途端、岩合さんは「タマ役はこの猫(ベーコン)に決まり」と思ったという。
岩合さんは、日本人としては初めて作品が学術誌「ナショナルジオグラフィック」の表紙を二度も飾ったほど、世界的に著名な動物写真家。NHK—BSプレミアムで放送中の「岩合光昭の世界ネコ歩き」も大人気で、1年間のうち、ほぼ3分の2は海外を中心に取材に出掛けている。残り3分の1は国内各地で写真展や講演があり、休む時がない。「ここ5、6年は年末年始の休みもなく1年365日仕事をしています」と日焼けした顔をほころばせる。
猫の撮影歴は40年
父・岩合徳光の仕事を手伝ううちに父と同じ動物写真家を志すようになった岩合さんは、猫を撮り始めて約40年になる。猫の魅力にはまったのは「高校生の時」と意外にも遅かった。京浜工業地帯の東京・蒲田で育ち、それまで猫を意識することはなかったが、ある日、友人に抱かれた猫を見て「世の中にこんなかわいい生き物がいるのか」と感動し、涙まで出てきたという。
今作の舞台となっている佐久島などの島々では、今も猫好きな島民が猫を媒介に話が弾む。「猫って本当にすごいですよ。猫が隣にいるだけで人と人との距離が縮まってくる」と話す岩合さん。最近、世界各地で動物写真を撮り歩いていて感じるのは、外を歩く猫が少なくなっていること。港に行っても猫の姿が一匹もいないところが日本だけでなく世界的にあるという。それが、かつての社会にはあった“心の余裕”を失わせることにつながっている気がしている。 |
©2018「ねことじいちゃん」製作委員会 |
「ねことじいちゃん」 日本映画
監督:岩合光昭、脚本:坪田文、原作:ねこまき、出演:立川志の輔、柴咲コウ、田中裕子、小林薫、ベーコン(猫)ほか。103分。
MOVIXさいたま(Tel.050・6865・4351)ほかで全国上映中。 |
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