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  埼玉版 平成29年5月号  
語り伝えたい「風船爆弾」  さいたま市の福島のりよさん

さいたま市盆栽町に住んで40年以上になる福島さん。新著「風船爆弾」を手に、新たな執筆の構想を話す。「好奇心旺盛なんでしょうね。面白いからやる、やれば面白くなるという感じです」。ほかにも、隠れキリシタンの遺物についての研究や写真撮影など、多趣味だ
関係地域を取材し物語紡ぐ
 児童文学に長年携わってきた福島のりよさん(79)はある日、県内のデパート催事場で目にした「風船爆弾」という言葉に衝撃を受けた。それから、とはいうもの風船爆弾に関係する地域を訪ね回った。打ち上げの地・茨城県大津町や福島県勿来(なこそ)地区、それに風船爆弾で唯一死者が出たアメリカ・オレゴン州の田舎町にも足を運んだ。福島さんはそれら地域での取材をもとに物語を紡ぎ、このほど「風船爆弾」(冨山房インターナショナル)というタイトルで出版した。「戦争末期にどういうことがあったか知ってほしい」という気持ちを込めて—。

 福島さんは1937年岡山県赤磐郡(現赤磐市)で生まれた。60年、岡山市にあるノートルダム清心女子大学文学部英文学科を卒業後、教職を経て文筆活動を始める。以来、今日まで主に児童文学の分野で執筆を続け、「ホタルがとんだ日」「南蛮のうた」(ともに、けやき書房)などの著作がある。

 戦争末期はまだ小学2年生だった福島さん。それでも、岡山市が空襲を受け夜空が真っ赤に燃え上がったことを覚えているという。「翌日、空襲で自宅を焼け出された人が体中真っ黒になって歩いていました」

 そんな福島さんでも風船爆弾のことは「全く知らなかった」と話す。「和紙をこんにゃく糊でくっつけた風船に爆弾を積みアメリカに向け飛ばしていた」ことを催事場で初めて知ったという。

 「もっと詳しく知りたい」と思った福島さんは風船爆弾に関わりのある場所を訪ね回った。千葉県松戸市では、当時爆弾を作っていた女学生や女子挺身隊の人たち、生産現場の監督だった人から話を聞き、実際に爆弾を打ち上げた人の講演会にも出掛けた。

 そういう中で分かってきたのは風船爆弾の開発は当時、軍の重要機密で関係者はもちろん、それを見た住民も口外できなかったことだ。

「戦後も秘密」に恐怖感
 打ち上げ現場の大津で聞いた、民宿を営むおばあさんの話には「驚かされた」と福島さん。「打ち上げ地の近くには、打ち上げ失敗による爆発で亡くなった人のお墓—土まんじゅうが2つあったそうです。終戦から数十年がたったある日、そのお墓で見知らぬ男性が線香をあげ拝んでいたので、近くに住んでいたおばあさんは教えてもらおうと『このお墓にどなたが埋葬されているかをご存じなのですか』と聞いてみたら、『秘密だから言えない』とピシャリと言われたんだそうです」

 爆発によって亡くなった兵隊も含め、大津で風船爆弾の開発に携わった軍人はみんな南方(東南アジア)に赴いていることになっていたことが、その後の関係者の話で分かった。民宿のおばあさんの話を聞いた時、福島さんは戦後長い時間がたっても口外できない“軍の秘密”に戦争の怖さを実感したという。

 福島さんによると、風船爆弾は終戦間際に約1万発打ち上げられ、そのうちおよそ1000発がアメリカに着いた。大半は山火事を起こしたりした程度で死者は出なかったそうだが、唯一オレゴン州ブライで犠牲者が出たという。「学校の生徒らが遠足の時に発見し、変な物が落ちていると突っついたら風船爆弾が爆発し、何人もが亡くなりました」。その被災地を訪れた福島さんは遺族の心情に心を揺さぶられることになる。

 88年秋、カリフォルニア州オレンジカウンティ空港からサンフランシスコを経由しブライへと向かう途中、クラマスフォールズという町に宿泊した。同地に犠牲者の父が住んでいるというので話を聞こうと訪ねると、「私は一人息子を日本の風船爆弾で亡くしました。日本人を恨んでいるので会いたくない。帰ってくれ」と拒否されてしまった。その時、初めて「私の事実を知りたいという思いは手前勝手なことだった」と気付いた福島さん。来た道をトボトボと引き返していると、後ろから追いかけてくる人が…。先ほど話を拒否した男性だった。「私は話せないけれども他に話せる人がいる。この人を訪ねなさい」と住所と名前を書いた紙を渡してくれた。その行為に勇気付けられた福島さん。教えられた住所を訪ねて会った女性は先ほどの男性と同様、風船爆弾で兄を亡くしたという。しかし、その女性は「戦争は憎んでいるけれども人は憎んでいません」と抱きしめてくれ、当時の新聞記事の切り抜きなどを提供してくれた。

 「大津では2人ではなく6人が亡くなっていました。また、勿来の学校では風船爆弾を見られないように『上を向いて歩いてはいかん』と教えていたそうです。なんてつまらないことをやっていたのか、と思います」と福島さん。再び、そんな時代にしないためにも、「あの戦争で何があったかを知ることが大切」と警鐘を鳴らす。

「風船爆弾」 福島のりよ
 冨山房インターナショナル(Tel.03・3291・2578)、241ページ、1728円

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