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  埼玉版 平成28年10月号  
画業50年、初の回顧展  画家・吉岡正人さん

吉岡さんは「芸能などの修行法で極意とされる守破離(しゅはり)に例えれば、これからはもっと自由に描き、スケールアップしたい」と話す
「見る人を刺激する絵を描きたい」
 人はなぜ、絵を描くのか。描くのが苦手な人でも子どもの頃、たいていはクレヨンなどで絵を描いて遊んだことがあるはず。「人間は太古から現在までずっと絵を描き続けています。しかも、本気で。それはスペインのアルタミラやフランス・ラスコーの壁画を見ても分かります。絵を描くことは、人間にとって意味のあることだと思います」と話すのは、画家で埼玉大学教授の吉岡正人さん(63)だ。画業約50年に及ぶ吉岡さん初の回顧展がサトエ記念21世紀美術館で開かれている。会場で吉岡さんが言う“絵の意味”が見つかるかも—。

 吉岡さんは大阪出身の洋画家で、27年前から梅林で知られる越生(おごせ)町に自宅アトリエを構える。独自の世界観による物語を描き続けて、二紀展への出展や日本橋三越、髙島屋、あるいはイタリアなどで個展を開催し、精力的な創作活動を続けている。

 吉岡さんの作品には、西洋的な女性や犬、建物などがしばしば登場する。それらの絵からは静的な世界という印象を受けるが、同時に見る側に何かを訴えかけているようにも感じる。吉岡さんは「私は基本的に人間を描きたい。しかし、見たままを写そうとは思いません」と話す。

多くの人材を育てる
 吉岡さんが描きたいのは「私の作品を見る人が、触発されて自分の考えを深めていけるような作品—、それが重要だと思っています」という。

 吉岡さんが「将来、画家になろう」と決めたのは高校(福岡県立香椎高等学校)1年生の時。それまで漫画を描いたり読んだりするのが大好きだったが、高校に漫画研究会がなかったので美術部に入りデッサンのおもしろさを知った。

 だが、すんなりと画家になれたわけではなかった。まず、吉岡さんが「美大に行きたい」と言うと親が反対。父は商社や精密機械メーカーに勤める、転勤の多いサラリーマンの家庭。「血のつながった範囲内で美術関係の仕事に就いている人はいませんでしたが、どうしても画家になりたかった」と吉岡さん。その気持ちは強く、4年浪人して武蔵野美術大学に入学。浪人中にフランスへ留学、あるいは予備校で友人を得るなど、貴重な4年間を過ごしている。その後、筑波大学大学院芸術研究科美術専攻修士課程に進み修了したが、就職活動はまったくしなかった。画家で生計を立てる覚悟をしていたからだ。

 しかし「世の中、甘くない」と思い知らされることになる。アルバイトをしながら描いた絵を預けた画商が行方知れずになったり、不当に安い代金しか払ってもらえなかったりで人生の悲哀を感じることに…。そこで高校の美術教師を務めながら、画業を続けることにした。31歳で埼玉大学に転職、教育学部美術担当講師から1年後助教授、47歳で最年少教授に就任している。

 創作活動に精進する一方、教育者として多くの人材を育ててきた吉岡さんは、美術教育についても一家言を持つ。一見、矛盾しているように聞こえるが、「自分の欠点を直してはいけない」という意見は斬新にしてユニーク。その真意は、「欠点を消していくと普通になる。絵は作品に魅力がなければアウト。普通の絵は世の中にたくさんある。普通になることが一番よくない」という考えだ。

 「例えば、先生から『あなたの描く絵は形が狂っている』と言われると直さなければいけない、と思うでしょう。しかし、私は『絶対に直してはダメだよ』と教えています」と吉岡さん。「欠点はそのままにしながら、繰り返し描くことで絵画的に了解される範囲になれば個性になる。『君の(絵の)形は個性的だね、と言われたら勝ちなんだよ』と話しています」

 今回、画業50年近くに及ぶ吉岡さんの回顧展には、これまで二紀展に出品した代表作を中心に小学生の時の自画像やデッサンから、高校〜近年までの作品が一堂に集められ、画家としての成長や変遷を知ることができる。「この展覧会をエネルギーにして、私はまた前進したいと思う。どこまで行けるかわからないが、まだ見ぬ地平を目指したいと思う」(今回の回顧展の図録から抜粋)と気持ちを新たにしている。


《種を持つ》 2011年 テンペラ・油彩・キャンバス194・0×259・0cm
吉岡正人展 〜永遠なる物語をつむぐ画家〜
 2017年3月12日(日)まで、サトエ記念21世紀美術館(東武伊勢崎線花崎駅徒歩15分)で。

  入館料一般900円。月曜休館。ただし10月10日(月・祝)と11月14日(月)は開館し、翌日休館。

 関連企画・特別記念イベントとしてミュージアムトーク 「吉岡正人・画業と人生を大いに語る!」 を11月27日(日)午後2時から同美術館エントランスホールで開催。座席数約100席。着席は先着順。聴講には展覧会入館券が必要。  問い合わせは Tel.0480・66・3806

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