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  埼玉版 平成27年9月号  
♪𠮷田メロディーの魅力を語る  𠮷田正記念オーケストラ音楽監督・大沢可直さん

東北や四国、九州などの地方で年10回程公演しているYKO。日本の音楽文化をオーケストラで発信している。コンサート会場での歯に衣着せぬ大沢さんの話も人気だ
タンゴやジャズなどの結晶
 国民栄誉賞を受賞した昭和を代表する作曲家、𠮷田正。その𠮷田が残した数々の楽曲を管弦楽団で演奏しているのが「𠮷田正記念オーケストラ(YKO)」だ。𠮷田メロディーと称されるそれらの曲は、「明治から大正、昭和にかけて日本に流入してきた海外の音楽—タンゴやシャンソン、ジャズ、映画音楽、ラテン音楽などの要素が結晶して生まれた歌謡曲の全盛期に登場した」とYKO音楽監督・指揮者の大沢可直(おおさわ・よしなお)さん(65)は話す。大沢さんに𠮷田メロディーのルーツを聞いた。

 𠮷田正記念オーケストラ(YKO)は、98年に死去した𠮷田正の妻、𠮷田喜代子さん(故人)が2001年に結成、主宰し代表に就任。𠮷田メロディーなどの音楽を文化として継承するために設立された。このとき音楽監督に就任したのが大沢さんだ。

 東京・浅草生まれの大沢さんは、2000年に𠮷田メロディーの数々をクラシック編成の組曲で奏でたCD「𠮷田正 交響組曲 東京シンフォニー」を発表、編曲・指揮を担当している。同作品はこれまで第7番まで発売されているほか「𠮷田正 タンゴアルバム」も7枚のCDがビクターエンタテインメントから発売されている。

 大沢さんは、YKO設立のいきさつについてこう話す。「かつて、戦後の復興が進んで洋酒がよく飲まれるようになった高度経済成長期。バーなどでグラスを傾けていても、BGM(ビー・ジー・エム)で流れるのは外国の曲ばかりでした。そこで𠮷田は、外国の曲に負けないものを作りたい、とフランク永井が歌い大ヒットした『有楽町で逢いましょう』(57)などの曲を作った。喜代子さんは、そんな𠮷田メロディーをオーケストラが演奏し、広く大衆に聴いてもらうことで後世に残そうと考えたんです」

 そのためにYKOを設立し、演奏会にかかる費用についても、その一部を負担。𠮷田正の遺産をつぎ込んで、利益を求めないオーケストラとして活動しているという。

青春時代がよみがえる
 そういう意図で設立されたYKOだが、演奏する曲は𠮷田メロディーに限っていないというから面白い。𠮷田メロディーが登場した時代にはやった軽音楽—タンゴやシャンソン、ジャズ、映画音楽、ラテンなどを幅広く聴いてもらおう、と考えている。「海外から入ってきた軽音楽が結晶してできたのが歌謡曲。その全盛期に登場したのが𠮷田正だ」(大沢さん)からだ。

 弦楽器、管楽器、打楽器の編成によるオーケストラの機能を生かして明治期に作曲が始まった日本。その後、西洋でオペレッタという歌劇がはやったのとほぼ同時期に日本でも東京・浅草で大正オペラがはやるなど、「西洋の音楽ブームの動きに日本が遅れることはありませんでした」と大沢さん。

 大沢さんによると、日本独自の歌謡曲が生まれるきっかけは、作曲家、中山晋平がオペレッタをたたき台に「カチューシャの唄」などの劇中歌を作ったこと。それ以来、日本の歌謡曲は世界の流行音楽を取り入れてきた。タンゴやシャンソンに日本語の歌詞を付けて歌い始める一方、芸者たちが歌った新民謡、新小唄が演歌のルーツになる。タンゴ、シャンソン、そして演歌を含めた音楽の要素が歌謡曲の土壌を形作っていく。

 さらに、戦前の「夜来香(イエライシャン)」や「支那の夜」など大陸的なメロディー、戦後はジャズといったもろもろのスパイスが日本でミックスされ、「歌謡曲は昭和20年〜30年に黄金期を迎えました」と大沢さん。

 ちょうどその時期に作曲活動を開始したのが𠮷田正だった。1921年茨城県日立市に生まれた𠮷田は太平洋戦争で召集され、満州(中国東北部)で終戦を迎えた。しかし、ソ連軍によりシベリアに抑留され、48年に帰国。翌49年から日本ビクターの専属作曲家として作曲に携わり、以来、「誰よりも君を愛す」(60)、「いつでも夢を」(62)で日本レコード大賞を受賞するなど、数多くの曲を残している。98年に死去、同年国民栄誉賞を受けている。

 「平和になったからこそ歌謡曲が全盛期を迎えることができた」と大沢さん。その後、歌謡曲は東南アジアに輸出されるまでに—。歌謡曲を含め昭和という時代を彩る名曲が聴けるYKOのコンサートは、中高年にとって懐かしい青春時代をよみがえらせるに違いない。


2012年公演(春日部)
“おかえりなさい”𠮷田正記念オーケストラ
 11月14日(土)午後1時半、県立春日部高校音楽ホール(東武アーバンパークライン八木崎駅徒歩2分)で。

 指揮:大沢可直。珠玉の𠮷田メロディーから、再会、みなと神戸のお嬢さん、好きだった、追憶の女ほか、このほか映画音楽・タンゴも演奏。入場料・前売り3000円、当日3500円。問い合わせは、スペース悠悠 Tel.048・745・0250

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