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  埼玉版 平成27年5月号  
デビュー50年、「一歩でも前に進みたい」  歌手・布施明さん

若いころイタリアの歌手ニコラ・ディ・バリが好きだったという布施さん。「その歌手の物まねをしていたら大きな声で歌うようになりました」
記念アルバムを発売
 「シクラメンのかほり」などの大ヒットで知られる歌手の布施明さん(67)がデビュー50周年を迎えた。ザ・ピーナッツや越路吹雪さんらがつくってきた洋楽ポップスの道を歩んできた布施さん。かつて、「自分の歌う場所がない」と感じる時期もあったが「歌が自分の財産」と分かってからは、過去のヒット曲を大切に歌っているという。「(歌手生活の)最後まで半歩でも、一歩でも前に出たい」との決意を新たに、このほどセルフカバーアルバムを発売。9日(土)午後5時半、東京国際フォーラム(地下鉄有楽町駅直結)で初のオリジナル曲だけのコンサートを開く。

 伸びのある声で知られる布施さん。これまでレコードとCDでシングル78枚、アルバム35枚を発表。その豊かな声量は今も衰えを知らない。3月下旬に発売された新譜「布施明50周年記念セルフカバープレミアムセレクション〜思いの丈すべて込め〜」でも、交響楽団やビッグバンド、クラシックギター1本など幅広いアレンジのもと、いかんなく実力を発揮している。

 「僕は洋楽ポップスの道をずっと歩いてきました」と布施さん。ほとんどの歌手がコンサートでは自分の歌を中心に歌うが布施さんの場合、「コンサートで自分の曲だけ歌うのが嫌」とプログラムの70%〜80%は、外国の曲に日本語の詞を付けた曲(=洋楽ポップス)が占めている。

 50年代〜60年代にかけて花開いた日本の洋楽ポップス。イージーリスニングや映画音楽、エレキサウンド、ヨーロピアンポップス、フォークソング、ロックといった外国の曲に日本語の詞を付けて歌うことで、曲に新たな息吹を吹き込んだ。

 その洋楽ポップスは今、「前世紀の遺物のように見られるようになりました」と布施さん。J‐POPなど日本の音楽シーンが勢いを見せ、海外のミュージシャンが逆に日本の曲をカバーするようになったことで、皮肉にも「洋楽ポップスの存在感がなくなった」からだ。「すてきでおかしな世界」と表現しつつも、洋楽ポップスの世界をずっと愛し続けている布施さん。「後輩たちは誰も付いてこないんですが、洋楽ポップスの歌手として最後までいられたら幸せかなと思っています」としみじみ語る。

 東京・三鷹市出身で団塊世代の布施さん。ラジオから流れてくる洋楽を長兄が口ずさんでいたことを記憶しているほかは、家庭に「音楽」と呼べる環境は特になかったという。父が事業に失敗し隣町に引っ越したころ、転校先の中学校でブラスバンドに誘われたのが音楽と関わるきっかけ。「土手で横になってピッコロを吹いたらピーッと鳴ってびっくりしたのを覚えています」と笑う。そんな少年が運命の糸に手繰り寄せられるように、3年後には歌手になっていた。

 ラテン音楽のグループに入って歌うなど、音楽活動に次第にのめりこんでいった布施さん。16歳の時、先輩歌手が発表する予定だった曲をレコーディングすることになった。「その先輩が体を壊して、私にお鉢が回ってきたんです。レコード会社の人から『一生の思い出になるよ』と言われたのを覚えています」。それがデビュー曲「君に涙とほほえみを」だった。

 17歳になった布施さんはとんとん拍子にスターダムに上りつめる。テレビの人気番組「シャボン玉ホリデー」のレギュラーとなり、スーパースターのザ・ピーナッツやハナ肇とクレージーキャッツと出演する一方、布施さんが「私の師匠」と呼ぶことになる平尾昌晃さんの病気療養で再び、代役で「おもいで」を吹き込む。その後も「霧の摩周湖」「恋」などヒットを連発。希望していた大学進学からも徐々に遠のいていった。

最後の1曲が…
 しかし、いつかは大学で勉強したいと思っていた布施さん。次第に「歌を歌うという仕事をこのまま続けていていいのか」という疑問が大きくなっていく。すると不思議にヒット曲も出なくなる。デビューして10年くらいたったころ、ついに歌手活動を一時期ストップして海外に留学しようと決断。「最後にもう1曲だけ歌ってみよう」と吹き込んだのが「シクラメンのかほり」だった。この大ヒットが出て歌手活動を続けることになったが、布施さんは「自分は音楽の基礎を勉強していない」という負い目を感じ続けていた。その後米女優オリビア・ハッセーとの結婚を機に渡米、離婚を経て帰国することになる。

歌手活動を再開
 帰国後、日本で歌手活動を再開しようとしたが、10年も日本を留守にしていたため、音楽業界の中で歌う場所がない。そんな状況下でも、「かつてのヒット曲を歌う」という条件なら歌う場所を開けてくれる。その時、布施さんは「昔、自分が歌っていた曲が財産だったんだ」とようやく分かったという。「それ以来、サラッと歌ってきたヒット曲を大切に歌うようになりました」と布施さん。

勇気をもって一歩
 デビューして半世紀。かつての「武蔵野の少年」もさまざまな経験を積んできた。「この年になると、一歩を踏み出すのはすごく怖い。一歩出たことが失敗だったらそこでおしまいになるかもしれない。でも、そこで止まってしまうと安全だけど過去を振り返るだけ。どんなに怖くても前に出たい」と今の心境を話す。

 9日のコンサートは、そんな布施さんの歌声が存分に聴ける貴重な機会だ。

 問い合わせはキョードー東京 Tel.0570・550・799

布施明50周年記念セルフカバープレミアムセレクション
 〜思いの丈すべて込め〜

 デビュー曲やヒット曲の10曲に加え、布施さんが作詞作曲した新旧5曲ほかを新たに録音した(徳間ジャパン・3600円)。

 「君に涙とほほえみを」「霧の摩周湖」「君は薔薇より美しい」「落ち葉が雪に」「カルチェラタンの雪」「恋」「シクラメンのかほり」「愛は不死鳥」「愛情物語を観ましたか」「哀愁のナザレ〜ひとり芝居」「佐保姫〜積木の部屋」「一万回のありがとう」「慟哭」「MY WAY」「そっとおやすみ」「次の一歩へ」

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