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  埼玉版 平成27年1月号  
手づくり音楽会を25年  所沢市の「松井クラシックのつどい」

音楽会には日本音楽コンクール1位など実力ある演奏家が出演。約2時間の演奏後、演奏者と観客が15分程度質疑応答する
 所沢市に毎月1回、第2土曜の午後にクラシックコンサートを開催するボランティア団体がある。その名は「松井クラシックのつどい」。クラシック音楽を聴くことは大好きだけれどコンサートを運営した経験はまったくない—、そんな市民らが1回も欠かさず積み上げてきた公演回数は1月で273回を数える。実力ある音楽家でも、著名でなければそのほとんどが演奏する機会に乏しいというのが日本の現状。そこに、自分たちが見出した音楽家を出演させ一石を投じてきた。発足25周年を記念して2015年4月から特別企画「友の会が選んだ演奏会」を開催する。

ボランティアが協力、1月公演で273回
 音楽コンサートや演劇などに行くことはあっても、それがどのように運営されているのか、と意識することはあまりない。それを知る良い機会とあって、昨年12月13日(土)、西武池袋線所沢駅東口からバスに乗り、バス停「西武秋津団地」で下車し松井公民館を訪ねた。当日はここで松井クラシックのつどいが主催(共催・所沢市立松井公民館)する「景山梨乃 ハープリサイタル」が午後2時から開かれる。

 午前11時ごろ、現地に到着。すでにホールのあちらこちらではスタッフが忙しそうに動き回っている。入り口付近ではコンサートの立て看板作製やチケットのナンバー打ちを、また、会場内では演奏者が舞台上で音合わせをしている中を照明や録音などの担当者が開演前の機器調整に余念がない。

 さっそく松井クラシックのつどい会長の石田尚子さん(55)に具体的な運営の仕方について聞いてみた。

 それによるとスタッフは石田さんを含め約20人。平均年齢70歳のメンバーは男性15人、女性5人と男性の数が多い。「スタッフは定年退職者が多いんですが、音楽とまったく関係ない仕事をしていた人がほとんどなんです。でも、今ではプロ級の技量を持つ人もいるんですよ」という。そんなスタッフが共通しているのは、クラシック音楽が大好きということだ。

 気になるのは出演者の選定。どうやって決めているのかと聞くと、メンバー各自が音楽会に出掛けて行って「地域の皆さんに聴いてほしい、と思ったら楽屋に飛び込んで出演交渉をするんです」と石田さんはにこにこしながら話す。まったく知らない音楽家の楽屋をいきなり訪問するのは、さぞ勇気が要るのではと思うが、音楽に対する確信がないとできないことだろうし、それだけ自分の耳が頼りだ。出演者の同意を得た上で企画会議に出し、出演が決まるという流れ。


川北 肇さんと石田尚子さん
「低料金でよい音楽を」
 「気軽に、安く、そして深い喜びを与える」というコンサートの趣旨から、チケット料金は当日1500円と廉価に設定。このため演奏者への出演料も多くは支払えないが、その代わり曲目は演奏者が自由に決めることになっており、あまり演奏されることのない貴重な曲もよく演奏されるという。出演した音楽家がその後、有名になったケースも度々で、今では「松井クラシックのつどい」からの公演依頼を光栄に思う演奏家も増えているという。

 そもそも「松井クラシックのつどい」が発足したのは、楕円(だえん)形の多目的ホールを備えた松井公民館が87年、新たに建設されしたのがきっかけ。公民館の「クラシックの音楽講座」に参加した人たちの有志によって、同講座終了後自主的に音楽会を企画運営する団体が作られた。

 90年4月「演奏会を聴きませんか」と題して開いたアンブロジアン室内合奏コンサートを1回目として、以来1回も欠かすことなく8月を除く毎月コンサートを開催してきた。


松井公民館ホールでは開演前の準備に忙しい。立て看板の製作やチケットに番号を打つ作業も行われていた
 そんな音楽好きが集まる「松井クラシックのつどい」が開催するコンサートをひと言で表現すると、手作りのクラシック演奏会。演奏者の出演依頼から、ポスターやチラシ、プログラム、会報の作成、チラシの折り込み、会場のセッティング、受け付け、録音ビデオ収録、懇談会の司会などコンサートに関わる全ての仕事を全スタッフが分担して引き受ける。それが8月を除き毎月続くのだから、その苦労と努力は並大抵なものではない。

 これまで25年近く続けてきただけに今では、毎月のコンサートが終わった後と第3土曜午前中の月2回、会議を行うだけで公演当日はピタッと運営できるようにスタッフの呼吸があっているという。皆で協力し合い一つのことを成し遂げる達成感、それに演奏家と聴衆を結ぶコーディネーターとしての充足感こそが、スタッフとしての面白さだ。

志鳥音楽賞受賞
 そんな一般市民らがボランティアで運営してきた活動に光が当たる。03年、地域でクラシック音楽のために優れた活動をしている個人や団体に対して贈られる「第10回志鳥音楽賞」を受賞したのである。著名な音楽評論家志鳥栄八郎氏が設立した同賞を受賞したことは、その後の活動を支える自信になったことは間違いない。

 スタッフが、これまで音楽会を続けてきた中で見えてきたものがある。それは海外の著名な音楽家や演奏団体には高価でも客が集まるが、日本の音楽家、特に若手は音楽の学校で教育を受けながら、そのほとんどが表現する場がないという日本の厳しい現状だ。そうした若手を応援する目的で毎年10月に行う「フレッシュコンサート」も今年で19回目となる。

 ただし「今後のことになると課題はありますね」と話すのは、石田さんの2代前の会長だった川北肇さん(86)。1つは川北さんをはじめ平均年齢は高くなっていることで、50代〜60代の新しいスタッフを募集中だ。2つ目は、平均100人程度の集客数をできるだけホールの定員230人に近づけたいという。

 今年で発足25周年の節目を迎える「松井クラシックのつどい」。友の会会員にアンケートした結果をもとに、今まで開催した音楽会の中から選ばれた演奏会を再演する。なかなか聴けない意欲的な演奏会となりそうだ。

佐藤卓史ピアノリサイタル 「戦争ソナタ全3曲」
 10日(土)午後2時、所沢市立松井公民館ホール(西武池袋線所沢駅からバス)で。

 松井クラシックのつどい273回は、東京芸術大学を首席で卒業し、2007年シューベルト国際コンクール第1位など数々の賞を受賞、国内外の主要オーケストラと多数共演している佐藤卓史が登場。第2次世界大戦中に作曲されたことから「戦争ソナタ」と呼ばれる3曲を演奏する。

 曲目は、プロコフィエフ:ピアノ・ソナタ第6番イ長調Op.82、同:同第7番変ロ長調Op.83、同:同第8番変ロ長調Op.84。料金は当日1500円、予約・当日精算券1300円、友の会会員1200円、学生1000円、高校生以下500円。

 予約・問い合わせは松井公民館 Tel.04・2994・1222

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