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演奏者の願いをかなえる匠の技 ドラムスティック制作、千葉勉さん |
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興味を持ったらすぐに行動に移すのが千葉さんのモットー。手で左右に振って音を出す「マスコットシェーカー」もそんな発想から生まれた |
「もっと美しい響きを!」
細かな形や材質の違いが大きな音の違いとなってコンサート会場に響く—。オーケストラの打楽器で使用するスティックやマレット作りの匠(たくみ)として、内外のアーティストから絶大な信頼を得ているのが千葉勉さん(72)。千葉さんが代表を務める(株)バロック・ミュージック(川口市朝日)のスティックやマレットの生産シェアは全国で80%を超える。また、同社はプロを目指す若者たちを雇用し演奏家に育てる役割も担ってきた。「これからも新しいことに挑戦していきたい」と千葉さんは生涯現役に意欲を見せる。
世界で最も注目されているティパニストの1人、ドイツ・バイエルン放送交響楽団首席ティンパニ奏者、レイモンド・カーフスなど著名なプレーヤーが演奏で来日するたびに千葉さんのもとを訪れる。「今度、こういうものを作ってほしいと言ってくるんです」と千葉さんはこともなげに話す。
JR川口駅からバスで約10分、バス停から路地に入ってやや奥まったところに立地するのが、千葉さん率いるバロック・ミュージック。最初は見つけるのに一苦労するような社屋に世界の一流アーティストたちがなぜ訪ねてくるのか。
「プレーヤーさんや(大学の)先生たちから依頼されたものをきちんと作ることで、口コミでわれわれの評判が広がっていくという感じです」と千葉さんは話す。
バロック・ミュージックで生産しているものはドラムスティックにマリンバ・マレット、ティンパニ・マレットなどだが、その種類は「何千種類」(千葉さん)にもなるという。特にプロの演奏家仕様は「100人が100人、違うことを要求する」(同)ため、1つ1つが手づくり感覚で作られており、大量生産というわけにはいかない。
同社で働いているのは約40人。演奏家に巣立った先輩から紹介されて働いている打楽器のセミプロが5、6人、加えて学生のころからアルバイトで働いてそのまま社員になった人なども。
「日本でオーケストラの団員や大学などの先生になるには縁故が必要。また、自治体の楽団は予算を削られ、団員になってもアルバイトを強いられています」と千葉さん。日本で音楽家を志しても食べていくのは至難のようだ。
「人を大切に」
戦前、サハリン(樺太)で生まれ茨城県日立市で育った千葉さんは日立工業高校を卒業後、1964年日本管楽器á鰍ノ入社。リコーダー(たて笛)の研究開発に従事する。その後同社が日本楽器製造(ヤマハ)と合併するのを機に退社、同僚と3人で起業することに—。69年に立ち上げた会社はドラムセットを製造、輸出して一時は業績好調だったが、3年もすると頭打ちになったため、会社を整理してそれぞれが活路を開いていくことになった。
そして、打楽器スティックやマレットを製作する会社バロック・ミュージックを設立し、圧倒的なシェアを占める会社に育てた千葉さん。70路を超えた現在も毎日出勤して自ら製作に励み、若い社員の指導に当たる。
そんな千葉さんが会社でいつも座る部屋の壁には、「人生の中で一番大切なものは人」と筆で書いた自筆の色紙がかかっている。その色紙を見ながら千葉さんは、「今までいろんな人の助けがあってやってこられた。今度は、自分が若い人にしていく番」と話す。 |
打楽器の千葉勉さん
Photo:Kozo Kaneda |
川口の匠VOL.3「音をつくる」
11月15日(金)まで、川口市立アートギャラリー・アトリア(JR川口駅徒歩8分)で。
ものづくりの街・川口で製作・活動している匠たちを紹介する。美しい響きを求めて楽器を作り上げる4人─打楽器の千葉勉のほか、中川隆(木管楽器)、賴德昌(らい・とくしょう=バイオリン)、菅井幸夫(尺八)。観覧無料。
問い合わせは Tel.048・253・0222 |
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