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「大宮薪能」の普及に尽力 金春流能楽師・本田光洋さん |
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「薪能は屋外で演じるからいい。月が出るとなおいいですね」と話し、能を舞う本田さん |
今年も5月にさいたま市氷川神社境内で行われる大宮薪能(たきぎのう)。今年で第32回を迎え、さいたま市の文化的財産として定着している。その大宮薪能に最初から関わり、育ててきたのが能楽師の本田光洋さん(70)だ。「大宮に新しい住民が増え、その人たちが地元に溶け込めるもの、ということで始まりました」と振り返る本田さん。「能はよく敷居が高いと言われますが、覚えやすい面もあります。今年は初心者にも分かりやすい演目が多いのでお勧めです」と話す。
大宮薪能を普及させた第一人者といわれる本田さんはシテ方金春流の能楽師。本田秀男の長男として生まれ、父および金春信高に師事。5歳で初舞台を踏む。重要無形文化財総合指定保持者。戦前、父の稽古場が大宮にあったことも、大宮薪能と関わる縁になった。
その本田さんが今年の演目について、「初心者にも分かりやすくて楽しめ、しかも能らしさを堪能できるものを選びました。また、狂言もポピュラーな曲を出します」と話す。きれいな女神が登場する「葛城(かづらき)」や千筋の糸を投げかける土蜘蛛退治の話、「土蜘(つちぐも)」。牛若と弁慶が京の五条の橋で戦い、主従の契りを結ぶ「橋弁慶」など、よく知られる話が中心だ。
それを演じる演者には、金春流の宗家親子や観世流、宝生流などのベテランが登場する。3流が一堂に会するのは第1回から大宮薪能の特徴の1つになっているが、「演者に各流が入っているのは非常に珍しいこと」(本田さん)。これは、「各派が入るのが長く続くこつ、と亡くなった金春流家元が言われたことがきっかけ」(本田さん)だったという。
大宮薪能2日間の演目と演者は次の通り。
24日(金)=▼素謡(金春流)翁(おきな)金春安明▼能(観世流)葛城(かづらき)観世喜正▼狂言(大蔵流)棒縛(ぼうしばり)大蔵千太郎▼能(金春流)土蜘(つちぐも)本田光洋
25日(土)=素謡(金春流)翁(おきな)金春憲和▼能(金春流)橋弁慶(はしべんけい)金春安明▼狂言(大蔵流)千鳥(ちどり)善竹十郎▼能(宝生流)胡蝶(こちょう)藤井雅之
そもそも薪能とは野外で演じられる能のことで、戦後盛んに行われるようになった。それが大宮で始まったのは1982年のこと。当時、人口が急増する中で祭りなど昔からの催事だけでは新住民が地元に溶け込めない、という行政からの問題提起がきっかけだった。「薪能なら品もあるし、大衆性もある」ということになり、氷川神社境内で行うことになったという。
「能を定年後の趣味に」
現在、全国には定期的に行われている薪能が100カ所以上あるといわれるが、その中で大宮薪能は、3本の指に入るといわれるほどの高い評価を得ている。ここまで続いた背景には行政(市)と主催者の(社)さいたま観光国際協会、それに地元愛好者が企画の中心となって支えてきたということがある。
それに薪能を演じる舞台に恵まれたことも長く続いた一因、と本田さんは言う。「薪能にとって一番の心配が天気。雨になると中止になるところが多い。しかし、大宮薪能は比較的天気が安定している5月に開催することと、もし雨で氷川神社境内で続けられない状態になっても、近くに1000人を収容できる市民会館があるので、そちらに移動して、舞台を続けることができるのも心強い」と話す。これまで大宮薪能が雨で中止になったことはないという。
ただ、これからの大宮薪能を考えると、いくつかの課題が浮かぶ、と本田さん。
「能だけでなく古典芸能全般に言えるのですが、趣味で芸事をやる人が減少しているのが問題。大宮薪能の入場者も観客が高齢化しており、それを次の若い世代にどう引き継いでいくのかが課題です」と話す。
若い世代を含め、能など伝統芸能の愛好者人口がなかなか拡大できない理由の1つが高くなる一方の観劇料にある。
「伝統芸能やクラシック演奏会でもそうですが、全般に入場料の高さが普及の障害になっています。国が文化予算を増やすなどして、お客さんが見に行きやすい料金にすることが必要ではないでしょうか」と国へ普及のための努力を促す。
昔から「十五徳がある」といわれる能の謡曲。本田さんはJR大宮駅近くのカルチャーセンターで一般人を対象に能の実技指導をしているが、「臍下丹田(せいかたんでん)に力を入れ、腹の底から声を出すので健康にもいい。50代から少しずつ始めるといいですよ」と話し、定年後の趣味に、と勧めている。 |
第32回 大宮薪能
5月24日(金)、25日(土)午後5時40分、武蔵一宮氷川神社境内(JR大宮駅東口徒歩20分)で。雨天の場合は市民会館おおみや大ホールに変更。
鑑能券(全席指定)はS席7000円、A席6000円。一般販売は4月12日(金)午前10時から。販売場所は大宮駅観光案内所(JR大宮駅構内)TEL.048・644・1144ほか。
問い合わせは(社)さいたま観光国際協会 TEL.048・647・8339 |
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