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藤沢周平の「三屋清左衛門残日録」を読みながら談笑する佐藤さん(中央)と平栗さん(右)、荒幡さん |
18日には「松本清張を読む」
小説や小説家を通じて文学に親しむとともに会員相互の親睦をはかることを目的に昨年4月に発足したサークル「漆の実」(所沢市)。この1年、文芸評論家で早稲田大学文学部・大学院教授の高橋敏夫さんの協力を得て、これまで藤沢周平ゆかりの地を歩いたり、DVD観賞会などを行ってきた。そして、18日(金)所沢まちづくりセンター中央公民館ホールで市民文学講座「3・11以後に松本清張を読む」を同センターと共催する。
現在、「漆の実」会員は約30人で平均年齢60歳以上の男女。男女比は半々だという。「みなさん文学が好きだということで共通しているんです」と話すのは「漆の実」代表の佐藤八郎さん(68)。3カ月に1回公民館などに集まり、活動している。
「漆の実」が発足するきっかけは、2年前に所沢市民大学修了生で構成する、ところざわ倶楽部主催の藤沢周平についての講演会。その後、市民教養講座として6回シリーズで藤沢周平を取り上げた。この講座の受講生が中心となって結成。サークル名も藤沢周平の「漆の実のみのる国」から付けられた。
「漆の実」の会員は、ほかのサークル活動にも積極的に参加する“猛者”たちが多い。佐藤さんも全部で10近くのサークルに所属しているという。「毎日のように何かの集まりがあります。好きでやっているから全然“多忙”とは思っていません」とにこやか。「サークルに参加することで自宅に閉じこもることがなくなりますよ」と話す。
現役時代、IT関連企業の営業を担当していた佐藤さんは58歳の時に大病を患い、大手術を行った。「棺桶の淵に指の先1本でへばりついて、何とか生還を果たしました」と佐藤さん。
佐藤さんは62歳で退職したのを機に市民大学に入り、その後サークル活動に積極的に参加してきた。そうやって交流を深めるうちに、「現役時代とはまた違った楽しさがある」ことを発見。現在は、「死を迎える日まで力を尽くして生き抜きたい」という思いで日々のサークル活動に精を出している。
「漆の実」の人たちの話を聞いていると、結局、自分と趣味を同じくする人たちとの交流がエネルギーの源泉になっているのだと気づく。
「漆の実」で広報を担当する平栗彰子さん(75)もその1人。「50歳を過ぎてからの人生は花盛りです」と楽しそうに話す。「漆の実」での活動のほかに自主企画コンサート開催や俳句の会に参加するなどセカンドライフを楽しんでいる。
その平栗さんも、かつては「肩肘張って」生きていたという。それが変わったのは、あるボランティア活動に飛び込んだことがきっかけだった。「仲間と話をしていると、自分の足りないところが分かってきました」と平栗さん。他人から教えてもらうには、「これまで着ていた“よろい”を脱ぐこと」と言うのは一緒に活動する中村直子さん(70)。佐藤さんらを以前から知っていた荒幡千鶴子さん(58)は定年と同時に市民大学に入り、「漆の実」に加わった。
サークル活動のこつは
ただ、定年後にサークル活動を、とはいってもただやみくもに参加すればいい、というものではない。何カ所もサークルに入っているのに「満足できない」という人も多いという。充実したサークル活動を行うこつは何か。たとえば、佐藤さんの場合、自分が定年後の人生で必要だと思う「体の健康」「心の健康」「知性・教養」「社会との関わり」の4項目を書き出し、それらの項目と関連するようなサークル活動に参加しているという。
さて、「漆の実」も発足してから2年目。これからの活動の1つの柱となりそうなのが文学講座シリーズ。所沢まちづくりセンター中央公民館と「漆の実」が共催し、毎年、継続して行う見通しだ。
その前段ともいえるのが、18日に開催される市民文学講座「3・11以後に松本清張を読む」。講師は、藤沢周平の講演と同じく高橋敏夫さん。9月からは6回シリーズ(有料)で行うことも決定している。
「漆の実」は全員が所沢市在住だが、年齢や地域を限らずに会員を募集している。年会費は1000円。問い合わせは佐藤 TEL.04・2948・8247 |
高橋敏夫・早稲田大学大学院教授 |
市民文学講座 「3・11以後に松本清張を読む」
18日(金)午後1時半〜3時半、所沢まちづくりセンター中央公民館ホール(西武新宿線航空公園駅徒歩15分)で。参加費無料。予約不要。
問い合わせは中央公民館 TEL.04・2926・9355
清張なら“戦後と原発”を大々的に取り上げた
18日に「3・11以後に松本清張を読む」をテーマに講演する文芸評論家で早稲田大学文学部・大学院教授の高橋敏夫氏(60)は、松本清張を「3・11以後に読まれるべき最も重要な作家のひとり」と位置づける。なぜ今、清張文学に注目するのかを聞いた。
昨年3月11日に起きた東日本大震災に伴う福島第一原発事故。戦後において、恐らくアメリカや日本の政官財などが「原子力安全神話」の確立に関わってきた。その神話の裏には、戦後最も巧妙に仕掛けられた「隠蔽(いんぺい)」があったのではないか。事故後に出てくる情報などを聞いても原発に対する不信感は募る一方だ。
松本清張が生きていたらたぶん、大いに悔しがったと思う。私の知る限り、清張は原発についての小説を書いていないからだ。多くの資料を集め、想像力を駆使して「戦後と原発」という問題を大々的に取り上げるんじゃないかと思っている。
清張文学の特徴は「隠蔽と暴露」にある。政官財や占領下の米軍、戦前の天皇制国家、そして戦後のわれわれ国民までがそれぞれ「隠蔽」してきたと清張は主張し、それを「点と線」などの作品によって暴露してきた。
3月11日以後の今こそ、清張は読まれるべき重要な作家の一人だと思う。清張が小説の中でとった手法をもとに自分の中における「隠蔽と暴露」を問い直していくことがわれわれの社会を向上させることにつながると考えるからだ。(事実を)「隠蔽」しようという者の内面にまで踏み込んで書いていくことが必要だ。現代の小説家が「原発」という問題をどう作品に描くのか、興味深く見守っている。 |
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