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  埼玉版 平成24年1月号  
舞台の演技に歌で対抗  こまどり姉妹

「最初、出演の話がきた時は、えっ、なんで蜷川先生がわたしたちを? って思いました」と栄子さん(左)。敏子さんもうなずく
蜷川「ハムレット」に特別出演
 舞台で「ハムレット」を演じる若者たちとそれに見入る観客。白熱した演技が盛り上がったちょうどその時、突然客席後方から舞台に向けて三味線を弾きながら双子の演歌歌手・こまどり姉妹が登場する。歌うのはデビュー間もない1959年に発表した「三味線姉妹」(遠藤実作詞・作曲)-。2月20日(月)から上演される蜷川幸雄演出・さいたまネクスト・シアター公演の「ハムレット」に特別出演することになったこまどり姉妹。どんなインパクトを舞台に与えるのか楽しみだ。

 「見ている若い人たちはみんなびっくりすると思いますよ」とにこにこしながら話すのは、こまどり姉妹の姉・長内栄子さん(73)。隣の妹・敏子さん(73)も「どうなりますか、今から楽しみです」とわくわくしている様子。

 シェイクスピア劇に演歌が流れ、若者中心の舞台にレコードデビュー53年目の大ベテランが登場—という蜷川幸雄ならではの演出ともいえる。しかしなぜ、こまどり姉妹が「ハムレット」に特別出演することになったのか。実は、蜷川さんは父子2代にわたってこまどり姉妹の大ファン。こまどり姉妹の出演は長年の念願で、「僕が演出家になった時からずっと思っていたことで、40年越しの企画なんですよ」と埼玉県芸術文化振興財団の情報誌・埼玉アーツシアター通信No.36で話している。

 「ハムレット」の中でこまどり姉妹が登場するのはこの1場面だけだが、この1場面が「ぼくらの演劇は、こまどり姉妹の3分間の歌声に匹敵するほど内容が濃いのだろうか」とチェックするほどのインパクトを持つ、と蜷川さんは考えている。

 姉妹が口をそろえて、「なかなか鋭いところを知っているんだなあ、と思いました」というのは、蜷川さんが劇中で歌う曲目として「三味線姉妹」を指定してきたことだ。

 「ソーラン渡り鳥」や「浪花節だよ人生は」など豊富な持ち歌の中からあえて選んだ「三味線姉妹」。こまどり姉妹がデビューするきっかけとなったこの曲には運命的な出会いが秘められていた。

 38年、北海道・厚岸に生まれた栄子・敏子の姉妹。炭鉱労働者の家庭だったが戦後、極貧の中で帯広などの炭鉱町を転々とする生活が続き、日銭稼ぎとして姉妹が11歳の時に両親からやらされたのが他人の家の門などに立って歌い、金品をもらう門付け。その後上京、東京・山谷の木賃宿などに住みながら父と浅草などの飲食街を流すようになる。

 そんな生活から抜け出そうと21歳のころレコードデビューを模索して日本コロムビアを訪ねた時に、ひょんなことから遠藤実と知り合う。自分も流しをしていた遠藤さんは姉妹の歌のうまさに驚き、2人の話に共感し、ディレクターを紹介してくれたという。

「歌うことは宿命」
 こまどり姉妹によると、実はこの時、遠藤さんは悩んでいた。在籍していた日本ポリドールには自分を見出してくれたという恩義を感じていたが、コロムビアから「ぜひうちの専属に」と強く誘われていたからだ。

 迷った揚げ句、伊豆のある旅館に雲隠れしていたが、ある時ふと、「自分がコロムビアに行かないとあの子たち(こまどり姉妹)は永遠にレコードデビューできないだろうな」と思い、箸袋の裏に走り書きしたのが姉妹の境遇をモチーフにした「三味線姉妹」だった。正式なデビュー曲は「浅草姉妹」になったが、1カ月後「三味線姉妹」が発売になる。

 デビューから間もなく、同じ双子のザ・ピーナツとともに人気絶頂となったこまどり姉妹。そんな中でも「いつか引退して普通の生活を送りたい」というのが希望だったという。

 しかし、姉妹が歌うことを運命が強いるように次々と事件は起きる。敏子さんが舞台でファンの男から刃物で刺される事件や同じく敏子さんががんにかかったり、また、経理担当者の脱税事件など—。それら不幸なことが起こるたび、治療費や税金などを稼ぐために歌うことが必要になった。

 「きっと歌うことは宿命なんでしょうね」と栄子さんはポツリという。今もステージに上がった時、その日の観客を見て自分たちの歌だけでなく、どんな歌なら観客をあきさせずにすむか、と考えているという。「わたしたちの歌を聴いて、というのではなくて観客が好きそうだなと思う歌を歌うようにしています」と敏子さん。

 ポケットに100円、10円無い時の苦しさを知り抜いているこまどり姉妹だからこそ、観客がどんな気持ちで切符を買って歌を聴きに来ているかを知っている。

 問い合わせは TEL.048・858・5507


映画「こまどり姉妹がやってくるヤァ!ヤァ!ヤァ!」より
(C)ALTAMIRA PICTURES,INC.
NINAGAWA千の目(まなざし) こまどり姉妹×蜷川幸雄
 29日(日)正午、彩の国さいたま芸術劇場(JR与野本町徒歩7分)で。定員346人。無料。

 はがきに〒住所、氏名(フリガナ)、年齢、希望人数(はがき1枚に2人まで)を明記し、〒338-8506さいたま市中央区上峰3の15の1 (埼玉県芸術文化振興財団「千の目1/29入場募集」係へ。13日(金)必着。

 また、こまどり姉妹の半生を描いた音楽ドキュメンタリー映画「こまどり姉妹がやってくるヤァ!ヤァ!ヤァ!」(監督:片岡英子)を27日(金)〜29日(日)、同劇場(同)映像ホールで上映。料金1000円。09年公開。71分。
2012年・蒼白の少年少女たちによる「ハムレット」
 2月20日(月)〜3月1日(木)、彩の国さいたま芸術劇場(JR与野本町徒歩7分)で。全13回公演。
 蜷川幸雄演出による「さいたまネクスト・シアター」第3回公演。料金・全席自由4000円。
 申し込みは TEL.0570・064・939

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