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次の演劇(「アイドル、かくの如し」東京公演12月8日=木=から本多劇場)執筆のため最近スペインに行ってきた岩松さん。「スペインはみんな陽気でユーロ危機など感じなかった」と話す |
平均72歳の劇団「さいたまゴールド・シアター」に書き下ろし
演出家、蜷川幸雄さんによって2006年に演劇経験がほとんどない中高年で結成された、さいたまゴールド・シアター(以下、ゴールド)。12月6日(火)から彩の国さいたま芸術劇場で5回目の公演「ルート99」が上演される。劇団員の平均年齢は72歳に上がったが、エネルギッシュな舞台にますます磨きをかけている。そこで、1回目に続き2作目を書き下ろした劇作家の岩松了さん(59)に話を聞いた。
約5年前のゴールド旗揚げ公演「船上のピクニック」では、リストラされた中高年が新しい仕事を求めて南の島に行く船上をシチュエーションに設定した岩松さん。今度の「ルート99」では、軍事基地の移転問題に揺れる島が舞台だ。
「今回はゴールドの年齢のことをあまり気にしないで書いてみようと思った」と話す。「前作でかなり意識した」という年齢を気にしなくてよかったのは、第1回公演以来見てきた彼らの舞台が年齢を感じさせないものだったからだ。「彼らはかなりエネルギッシュ。年を取って社会からはじき出されているとか、そういう印象でないものをやりたいな、と思ったから」と岩松さん。
岩松さんは長崎県出身。「蒲団と達磨」で岸田國士戯曲賞、「こわれゆく男」「鳩を飼う姉妹」で紀伊國屋演劇賞個人賞、「テレビ・デイズ」で読売文学賞を受賞するなど数多くの作品を発表している。また、俳優としてテレビドラマや映画、舞台に出演するほか、監督作品に「たみおのしあわせ」などがあり、多方面で活躍中の当代一流のクリエーターの1人。
劇のあら筋はこうだ。ある日、基地のフェンスに沿って南北に貫く国道、通称「ルート99」で島の銘菓がばらまかれるという事件が起こる。警察は、商品を港へ運んでいたトラック運転手を逮捕するが、一方で基地内の映画館で働く1人の映写技師が消息を絶つ。
そのタチバナという若い男は、基地内に建つ一軒家に老女と住む若い姉妹のうちの姉と密通していた。「橘に何があったのか」と憶測が飛び交う中、本土から呼んだ劇団による公演の準備が進められようとしていた—。
今回は、40人を超える高齢の俳優が登場する群像劇の要に、若い男女の恋愛が描かれる。これにより、さいたまゴールド・シアターの公演に新たな息吹を吹き込もうという岩松さんの試みだ。「年配の人ばかりだとマンネリ化してしまうと思った。年配者の中に若い人を入れて様子を変えたかった」とその狙いを話す。
今回の舞台設定となった「基地」について岩松さんは、「日本の中で象徴的な問題をはらんでいる」と強い興味を持つ。基地の中はいってみれば治外法権。基地の周りに住んでいる人たちと違うルールがあったりする。一方、基地の外に住む人たちも基地に影響を受けて生活している。そのため基地のある地域に住む人々は「非常に本音が揺れている。そんなところに関心がある」と岩松さんは言う。
第1回公演「船上のピクニック」
撮影=宮川舞子 |
蜷川幸雄と組み3回目
「(国から)犠牲を強いられた島の象徴としての基地」と似ている、と岩松さんが感じるのが東日本大震災の被災者たち。大震災後の原子力発電所の事故で、自分たちが住んでいた福島などに帰れない人たちも、基地がある地域に住む人たちと同様に原子力発電所推進という国の政策に対する本音が揺れているように見える。
ちなみに、岩松さんの出身地からは佐世保という在日米海軍基地が近いが、今回の軍事基地はどことは特定していない。ただ、「ルート99」を書くために取材で沖縄に行った時に基地を囲うフェンスを見て、「たんに現象としてフェンスがあるのではなく、フェンスというのは人と人の間にあるドラマが起こってそのことを具体的な形にしたものの1つだな、と思った」と岩松さんは話す。
今回の作品では日本を代表する演出家・蜷川幸雄さんとの3回目のコンビというのも注目される。「(蜷川さんは)入口をバーンと作ってくれる。入口をちゃんと決めて、お客さんをそこに入れるというような作業をやる人。(蜷川さんとやる時は)いつも(作品を)預けるような気持ちでやっている。頼りになるというよりは逆に、どうなるんだろうという楽しみがある」と話し、蜷川さんの演出に期待している。
日本の高齢者人口が今後増え続けていく中、「高齢者の希望の星」ともいえるのがゴールドの劇団員たち。「みなさん元気。特に女性が」と岩松さん。自分も次第に高齢者(65歳以上)に近づきつつあるため、健康に気を付けようと考えているが、健康法はたまに泳ぐ程度。常に次の戯曲の締め切りに追われている毎日で、日に何回か仕事部屋周辺の喫茶店に入るのが気分転換になっているようだ。 |
「ルート99」
12月6日(火)〜20日(火)、彩の国さいたま芸術劇場小ホール(JR与野本町駅徒歩7分)で。
料金は全席指定3000円。チケット申し込みは TEL.0570・064・939 |
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