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  埼玉版 平成23年5月号  
熊谷のそばを広めたい!  熊谷そば打ち愛好会

蕎麦打ち道場(後ろの建物)での例会は月8回。多くそばを打つのが上達のこつ(前列右から髙橋さん、小林清次さん、原口さん、後列中央左が根岸さんと大島さん)
 「定年を迎えたら何をしたいか」—。そう問われて「そば打ち」と答える人は結構いるようだ。特に男性は現役時に昼食などでそばを食べることもあり、自分で打ってみたいと関心を持つ人も多いのだろう。熊谷市でそんなシニアらが集って和気あいあいとそばを打ち、おいしく食べているのが「熊谷そば打ち愛好会」(以下、くまそば)だ。全国有数の小麦生産地、熊谷市はうどんが有名だが、うどんとともに、そばの知名度を広めようと、くまそばの面々は研さんを積んでいる。

楽しく打って おいしく食べる
 JR熊谷駅から車で約10分のところに「熊谷そば打ち道場」がある。ここはくまそばのホームグラウンド。以前は居酒屋だったという店内にのれんをくぐって入ると笑い声が聞こえる。今日は月例そば打ち会の日だ。午前8時ごろから作業が始まっているという店内ではそば粉に水を加えてかたまりにまとめる人やそれをこねる人、麺棒を使って生地をうすく伸ばす人などが急がしそうに動き回っている。時刻はすでに午前10時半過ぎ。

 「みんなで楽しくおいしいそばを打ってお腹いっぱい食べて帰ろう、というのが会の趣旨なんです。今日はたくさん召し上がってくださいよ」とくまそばのユニフォームを着た会長の髙橋侑一さん(63)がにこやかに出迎えてくれた。

 くまそばの打ち方は「江戸流」。「長野などでは丸い生地をそのまま伸ばしますが、江戸流は丸い生地をつのだし(四つ出し)しながら四角形に伸ばすのが特徴です」と副会長の根岸紀雄さん(69)が説明してくれた。生地を1.5ミリ厚に均一に伸ばし、それを1.5ミリ幅で切ると一本一本のそばの断面がきっちり正方形になる。角が残るそばがのど越しの良いそばで、角の部分が丸くなるとのど越しが悪くなると言う。

 くまそばが結成されたのは8年前の2月。市の施設で行われたそば打ち講習会に参加した中の有志29人が集まった。初代会長・中村正純さん(75)の尽力で会員も増え、現在の会員数が85人、平均年齢60代で、約2割を女性が占める。熊谷市中心だが、群馬県からも参加しているという。

 当初、そば打ち経験者も何人かいたが、ほとんどは初心者。そこで、加須市にある「彩次郎道場」(分桜流・彩次郎蕎麦打ち会)で打ち方などの基本を教わった。くまそばで打つのは二八そば。そば粉800グラムをつなぎの小麦粉200グラムの割合で混ぜて作る。

 そば粉は新そばの出荷時期に北海道産などを吟味。だしは2種類のかつお節に北海道から取り寄せた昆布を使い、かえしを作った後でだしとあわせ、何日か寝かせて味にまろやかさを出す。また、例会では「変わりそば」として毎月季節感のあるメニューを企画。この日は、桜そばだ。


木鉢の中のそば粉に水を加え、耳たぶ程度にまとめているところ。この後、こねて鏡餅状のそば玉を作り、それをのし棒で均一にのした生地を切る
「奥が深い」食べ物
 桜(大山桜)の葉は水に漬けて塩を洗い出した後、葉脈を取ってミキサーにかけ、香りが乏しく粘り気が少ない更科粉と混ぜて麺を打つ。くまそばのそば作りは材料選びから作り方まで本職に劣らないほどの凝りよう。「時々ボランティアで召し上がっていただくんですが、みなさんおいしい、と言って喜んでくれます。ただ、孫と一緒にそば店に入っても、おじいちゃんが打ったそばの方がおいしい、と言って食べ残してしまうのは困ります」と髙橋さんは苦笑する。

 実際、出来上がったそばを食べてみると、角が立ったそばはのど越しがよく、おいしい。つるつるといくらでも食べられそう。横に座って食べていた根岸さんが「そばにはルチンやポリフェノールなどが含まれる上に高タンパク質。美容食、健康食なのでシニアには適した食べ物なんですよ」と笑う。

 普段何気なく食べているそばだが、打ってみると「奥が深い」と髙橋さん。「そば粉の種類にもよりますが、湿気や温度にもずいぶん左右されます。湿度50%くらいの気候がそば打ちに適しています」と言い、微妙な要素が味に影響してくる。

 そば打ちのことわざに「一鉢、二のし、三包丁」というのがある。木鉢に入れたそば粉に水を加えて回し耳たぶ程度にまとめるのに3年、こねたそば玉に打ち粉を振ってそば玉の中心から徐々にのしていくのに3カ月、均一にのした生地を包丁で切るのに3日かかる—という意味だ。入会して7年目の原口玉枝さん(61)は「水回しと切りが難しいですね。これでいい、ということがありません」と話す。最高顧問の大島常次さん(78)も、「水回しやこねがきちっとできなかったので最初、なかなか長いそばが打てませんでした」と笑う。


更科粉に桜の葉を混ぜ打った桜そば。桜の香りがしてみずみずしい
 「上達のこつは最初の1週間ぐらい毎日続けて打つこと」と髙橋さん。55歳で勤めていた会社を退職後、そば打ち一筋に打ち込んでいる。今も1日1食は自ら打ったそばを食べているという髙橋さんが今年2月、新会長に就任した。抱負は、そば打ち講習会を開き今年1年改めて基本技術を学ぶこと、それに数年前まで行っていたそばの実の耕作を再開することだと話す。「地元で採れたそばを打って食べ、ぜひ地産地消をやっていきたいですね」

 1坪で1食分(約100グラムのそば粉)しかとれないそばの実。その貴重な実から手間ひまかけて作ったそばを髙橋さんらはボランティアやイベントで子供たちなどにふるまい、喜ばれている。そんな気持ちがこもったそばをたくさんいただいて道場を後にした。

「熊谷そば打ち愛好会」では会員募集中。入会費2000円、年会費3000円。詳細はホームページ参照。インターネットで「くまそば」と検索。
 問い合わせは髙橋 TEL.048・523・2469

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