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現地では、個人の能力を競うことなく、自分のできる範囲で作業を行う。自分はここまでやったという成果が見えるのが達成感につながる |
手弁当で年間120回超
水や空気など自然の恵みを授けてくれる大切な資源、森林—。しかし、森林づくりには植樹、下草刈り、間伐(かんばつ)、落ち葉掃きなどの作業が欠かせない。こうした作業を文字通りの手弁当で年間120回以上も行っているのが平均年齢60歳代の特定非営利活動法人(NPO法人)埼玉森林サポータークラブ(事務局・さいたま市浦和区)の面々。手入れせずに荒れ放題になった里山や森林が増える中、同クラブが環境保全活動に一役買っている。
朝、8時半現地に集合し、もくもくと作業を続け昼食をはさんで午後2時には終了。終わると同時にメンバーは三三五五と自宅へと帰っていく—。これが毎回繰り返される森林サポータークラブの作業風景だ。「現場は足場の悪い所も多く、特に夏場の作業は暑くて大変。しかし、終わった後はやり遂げたという達成感があってそう快な気分になります」と話すのは、同クラブ会長の北村博さん(63)である。
東西に幅広い埼玉県には12万áfの森林がある。海に接していない同県だが、平地が多く森林面積は少ない。都道府県の全国平均が36万áfなので、約3分の1の水準だ。そんな現実もあってか、林業の衰退、山村地域の高齢化、不在地主の増加など県内の森林を取り巻く事情は厳しさを増している。
スギやヒノキの山は人間が手入れをしないと木々が密集して真っ暗になり、下草も生えなくなる。そこに大雨が降ると土砂崩れが起こる恐れもある。一方、切った木を売却した地主は再び木を植える資金が不足しそのままにしているケースも。そこで活躍するのが北村さんたちのメンバーだ。
埼玉森林サポータークラブは20代〜80代と幅広い年齢の人たちが参加しているが、平均年齢は60代。比較的時間に余裕があって体力のある定年前後の人たちが活動の中心になっている。急な斜面での下草刈りやチェーンソーを使った間伐など肉体労働が多いことで男性が約90%、女性10%と男性の比率が高い。現在、実際に森林ボランティアとして活動している会員は220人。登録全体では700人にものぼる。「埼玉県で林業労働者というのは100人以下に過ぎません。その2倍以上となる200人以上の森林ボランティアが活動している団体は、全国的に見てもほかにありません」と同クラブ専務理事の小室正人さん(61)は話す。
会員になると事務局から自宅に送られてくるのが、数カ月間の活動スケジュール。この中で参加したい現場にチェックを入れて申し込む。作業は1現場で大体10〜30人のグループで行う。
中心メンバーの北村博さん(中央)と菅家征史さん(左)、小室正人さん |
寺や民家から依頼も
同サポータークラブが発足したのは1997年。社会全体で森林を守り育てていくことを目的に、埼玉県がボランティアによる森林整備活動を呼び掛けたのがきっかけ。今もそうだが、入会当初、ほとんどの人は森林での作業経験がなく、「のこぎりは使えます」程度のサラリーマン。
「和装関係の仕事に従事していたわたしは、住んでいる春日部市から勤め先の東京・人形町まで毎日ネクタイを締め通勤電車に揺られ通っていました」と北村さん。ちょうど休日をどう過ごすかと悩んでいた矢先、日曜大工が好きだったこともあって同クラブへの参加を申し込んだという。「仕事とまったく違うことを体験することで気分転換になり、それ以来止められなくなりました」と笑う。
副会長の菅家征史さん(68)はオリエンテーリングが趣味で、荒れた山が多いと常々実感、「もっときれいな山道を走りたい」と思って入会した。
2002年にNPO法人となった森林サポータークラブは、現在毎月1回作業する現場が4カ所、年1回作業するのが計30カ所のほか、寺や民家などから依頼されて作業を行うことが増えてきた。
「作業はもちろんボランティア。現地までの交通費や昼食代は自己負担。作業に必要な道具は自前で用意し、作業に対する謝礼はいっさいいりません」と北村さん。ただ時に、「気は心」と出してくれるみそ汁の味はまた、格別だと笑う。
植栽する苗木も自分たちで育成。最近は、森林教育を兼ね小学生が拾ったどんぐりを自宅で育ててもらい、3年程度育てたら再び山に植えてもらう活動を行っている。
埼玉森林サポータークラブの会費は年3000円(年4回発行の会報の制作発送費など)のほか、入会金が2000円(ヘルメット代など)かかる。 |
現在、森林ボランティア体験希望者を募集中(ボランティア保険500円が必要)。
TEL.048・814・2770(月・水・金の午前10時〜午後5時) |
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