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退職後をどう生きるかは男性にとって重要なテーマ。慣れない料理に最初はとまどいも |
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「男子厨房に入るべし」—団塊世代の男性たちが料理を介しての仲間づくりや地域社会での人とのネットワークづくりをはかっている。その集まりの名は「美団(びだん)キッチンクラブ」(さいたま市)。“美しく生きる団塊世代”という願いが会の名前に込められている。初心者たちが毎月1回集まって先生に教わりながら料理づくりに挑む姿は、真剣そのもの。さて今回は、どんな料理が出来上がるのか。
団塊世代の男たちが地域ネットワークも
エプロンをして、頭にバンダナを巻いた60歳過ぎの男たちが慣れない手つきで包丁を握る—。美団キッチンクラブの実習会でのひとこまだ。「料理の最中はみんな真剣な表情ですが、作り終わって食べる時にはそれがとてもいい笑顔に変わるんですよ」と話すのは会長の吉田修平さん(63)。
調理場所は、与野本町コミュニティーセンター・調理室(JR埼京線与野本町駅徒歩3分)。ここに毎月最終土曜の午前10時に集まり、約3時間料理に励んでいる。調理師の三浦香代子さん、介護食士の市川昌子さんの指導でこれまで作ったのは「本格的なチキンカレー」や「恵方巻き」、「シュウマイ」など。毎回15〜20人が参加、1つのキッチンテーブルを5人以上で使用しているという。
会の運営上、吉田さんが気を付けているのは、人と人との関係をできるだけ密にすること。「食後には、『おいしかった』とか何でもいいから班ごとに発表してもらうようにしています」と話す。また、デジタル機器に頼るよりもアナログ感覚を重視。昔、母親がしていたように、コメを炊く時の水加減はかならず手を入れて測ってもらうことにしているという。
美団キッチンクラブは2008年12月に発足。埼玉県の団塊世代活動を支援するためのある機関が呼び掛け、そこが主催するセミナーに参加した人たちを中心に活動が始まった。一時、会員が20人から8人に減少した。
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吉田修平さん |
食べるのは生きること
会長を引き継いだ吉田さんが今年2月、「なんとかしなければ…」と再び会員を募集し、セミナー参加を呼び掛けた。すると、2月の講習には約30人が参加、翌週の3月の実習には約20人が集まり、このうち15人が正式な会員になった。吉田さんは「新しい会員が積極的に活動してくれる」とうれしそうに話す。
1947(昭和22)年、北海道留萌(るもい)市に生まれた吉田さんは高校卒業後東京の会社に就職し、27歳で結婚するまで一人暮らしをしていた。このため簡単な料理なら作れたのだが、食べることが大好きで興味があったので会の発足時から参加。それ以上に、吉田さんは退職後に地域での人的ネットワークを作ることに関心があった。
「50代のうちにリタイア後の準備をしていた方がいいですよ」と吉田さん。社会人となってから仕事中心の生活をしてきたサラリーマンは、自分が生活する地域社会に人的ネットワークを持っていない人が多い。
こうした人たちが会社をリタイア、あるいはセミリタイア後に明るく、元気よく生きていくにはどうしたらいいか。吉田さんは料理を通したネットワーク作りを勧める。「自分が作った料理を妻や友人などに食べてもらうことで人間関係も良くなりますよ」
さて、ここで美団キッチンクラブ会員たちの声を聞いてみよう。さいたま市の土井義行(62)さんは、「長年着込んだサラリーマン生活の鎧(よろい)を脱いで、料理を通しての出会いがあります」と仲間作りに意義を見出している。
また、包丁を握ることは新鮮な経験であり、これに刺激を受けているようだ。吉川市の小松原正之さん(63)は、「芸が細かい性格なので料理に向いていると実感。これからが楽しみ」。さいたま市の秋山透さん(63)は、「かみさんとは違った技やレシピを楽しめます」と話す。
ただ実際に、キッチンの前に立ってみると予想以上に難しかったという声も—。「結婚以来30年食事を作ってもらってきた妻に、たまには料理を作って食べさせてあげたかった」という加須市の遠藤敏雄さん(61)。いざ、包丁を握ってみると、「材料を切ることから調味料の加減、焼く、煮る、ふかす時間などすべてが難しい。料理って頭を使いますね」と話す。
妻が病気などで料理できなくなった時に備えたいというのは、さいたま市の堅川孝生さん(61)。「新たなノウハウの取得に期待して入会した。だいたいうまくいっています」と満足そうだ。
「食べることは生きること」(吉田さん)─料理をマスターすれば明るい定年生活が送れるかもしれない。 |
美団キッチンクラブは会員募集中(男性のみ。ほかは年齢、地域などの入会条件なし)。入会金1000円、会費月2000円(食材費込み)。
問い合わせは吉田TEL.090・9672・2923 |
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