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楽器「二胡」の可能性広げる 二胡奏者 ウェイウェイ・ウーさん |
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ウーさんが「住みやすい町だな」と気に入って以来、長年住んでいるのが品川区・武蔵小山。その町にウーさんが上海をイメージして作った中国茶カフェ「WeiWei's Cafe(ウェイウェイズ カフェ=現在、休業中)がある。店内には、自身がセレクトした中国茶や茶器、上海から取り寄せた鳥かご、それに「おばあちゃんが座っていたのと全く同じ造りの椅子」などが…。そんな上海に今も住む両親は、日本で活躍する彼女を温かく応援し続けている |
ロックやジャズ、クラシックなど“ボーダーレス”に
聞くたびに癒やされていく悠久の音色—二胡(にこ)。そんな中国の民族楽器を演奏しロックやジャズ、クラシックなど、ジャンルにとらわれない音楽を追求しているウェイウェイ・ウー(巫 謝慧)さん(55)。33年前、二胡を抱えて中国・上海から来日して以来、日本を拠点に坂本龍一らとのコラボレーションやNHK交響楽団と共演するなど、幅広く活動している。二胡のパイオニアとして、「二胡という楽器の可能性を広げるのが私の使命。二胡をピアノやギターのようなメジャーな楽器にしたい」と話す。29日に開くコンサートでも、心安らぐ二胡の音色を会場に響かせる。
「あっという間でした」。1991年に来日してから今年で33年、2002年のメジャーデビューから同22年になるウーさん。彼女が来日したのは、まだ20代早々のころ。当時の中国では自由を求めて海外に留学する若者も多く、「中国で人気があった日本の映画『姿三四郎』やドラマ『赤いシリーズ』を見ていた」というウーさんは日本への関心が強かった。「将来は、アメリカでバイオリニストとして活動しよう」と考えていたウーさんは、1年くらいの予定で日本に滞在するつもりだった。
そこで、まず日本語学校で日本語を学び、しばらくしてバイオリンの勉強のため桐朋学園大学へ。当時はカセットテープしかなかった中国と違い、町のCDショップでさまざまなジャンルの音楽CDが試聴できる日本に魅力を感じていたという。そんなときに出合ったのが、ロックバンド「爆風スランプ」のドラムス、ファンキー末吉だった。彼が結成したロックバンド「五星旗」に加わったウーさんは、エレクトリック二胡を持ってロックとジャズを融合した音楽に挑戦。座って弾く楽器の二胡を腰に乗せ、立って弾くスタンディング奏法を編み出したのも、このときだ。「試行錯誤しながら新たな二胡の奏法を開発し、経験したことがなかったジャンルの音楽に挑戦しました。このときの経験があったからこそ、今の私があると思います」
バンド「五星旗」がCDデビューし、国内外でライブを行うことなど活動が忙しくなったことで、ウーさんは準備していたアメリカ留学を諦め、そのまま日本に居続けることになる。
その後、ウーさんは二胡のソロ奏者、作曲家として活動を始め、02年にアルバム「メモリーズ・オブ・ザ・フューチャー」でメジャーデビューする。以来、ほぼ毎年1枚のペースでアルバムを発表し、23年12月には19枚目となる初のライブアルバム「ホーリー・ラヴソングス」をリリース。同CDはグローリアチャペル キリスト品川教会で同年5月に行われた“バラードナイト”のライブを収録したもの。これらアルバム制作の一方、ライブでも全国ツアーを含めたエネルギッシュな活動を続けている。
そんなウーさんは1968年、中国・上海に生まれた。父は作曲家でバイオリニスト。「両親と私、妹の4人家族でしたが、父は一緒にいても音楽の話しかしないような人。私も妹も子どものときから父の影響で音楽に親しんでいました」。だが、時代は文化大革命の真っただ中。西洋の音楽や楽器は禁じられていたが、5歳のウーさんは父が隠れて弾いていたバイオリンに興味を持つ。そんな娘のために、父は友人と一緒にバイオリンを手作りしてくれた。「それが私の最初に手にした楽器でした。それからずっと父からバイオリンを教わりました」。そんな一家に転機が訪れたのは、ウーさんが小学校3年生のとき。文革が終結し、上海音楽学院付属小学校が久しぶりに生徒を募集することに。「定員4人」という狭き門に全国から多くの小学生が応募、その中にウーさんもいた。「父は、あまりの入試倍率の高さに(娘は)絶対入れない、と思っていたそうです」。試験会場外の木の上によじ登って応援する父の姿に勇気づけられたウーさんは落ち着いて試験に臨み、見事合格する。
二胡との「出会い」
バイオリニストを目指していたウーさんが、二胡奏者に転じるきっかけとなったのが15歳のときだ。「メンデルスゾーンの『バイオリン協奏曲』第2楽章を二胡で弾いてみよう」と思い立ち、弾いてみると同じ弦楽器でもバイオリンとは違う、二胡の音色に魅力を感じた。「二胡の音色がなんだかすごく懐かしく感じられて。まるで昔の自分の記憶がよみがえってくるような感覚になりました」。それを機に、バイオリンと二胡が専攻できる上海戯曲学校に進学。同校時代には上海のダンスホールでキーボードを担当しワルツやブルースを弾いた経験が、今の音楽スタイルにも生かされているという。
生徒200人が演奏
「二胡の魅力とその音楽の可能性を、より多くの人たちに知ってもらいたい」と、無我夢中で活動してきたウーさん。二胡奏者、作曲家として活動する傍ら、来日後まもなく熱心に取り組んだのが二胡の普及活動だ。ウーさんが主宰する二胡教室「心弦二胡教室」は23年、創立30周年を迎えた。同年10月に開いた記念コンサート「第27回定期演奏会」には総勢200人の教室の生徒が一堂に会し、ウーさんのオリジナル曲を含めロックやジャズ、クラシック、映画音楽など幅広い曲を披露した。「多彩な楽曲を二胡で演奏できるのも、うちの教室では五線譜でも教えているから。二胡の伝統的な譜面(数字譜)では弾ける曲に限界があるんです」。また、ライブ活動が思うようにできなかったコロナ禍の期間中は、動画共有サービスのユーチューブで二胡の演奏やワンポイントレッスンなどを積極的に配信するなど、二胡を広めるための努力を惜しまない。
そんなウーさんの曲はNHK「ダーウィンが来た! 〜生きもの新伝説〜」や、TBS系ドラマ「JIN—仁—Main Title」など、テレビ番組のテーマ曲でよく知られる。また、世界遺産「白川郷」の観光ふるさと大使就任を機にそのイメージソング「時の旋律」を作曲、世界遺産「熊野古道」馬越峠のイメージソング「この道を歩こう」も手掛けた。29日に開かれる「アフタヌーンコンサート〜悠〜」では、「早春の午後に聞く二胡の、昔の記憶に誘うかのような音色で、ゆったりしたひとときを過ごしてほしい」と話す。 |
♪ウェイウェイ・ウー アフタヌーンコンサート〜悠〜
29日(木)午後2時、スクエア荏原(東急線武蔵小山駅徒歩10分)ひらつかホールで。
出演はピアノ:森丘ヒロキ、ギター:ファルコン。全席指定3500円。問い合わせはスネークミュージック Tel.03・3260・8535 |
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