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  千葉版 令和3年6月号  
いくつになっても…夢を諦めない  歌手・俳優 由紀さおりさん

コロナ禍でコンサート活動は中止を強いられ、「去年は1回もコンサートができませんでした」と由紀さん。映画の公開も1年延びたが、「みなさんにホッとして見ていただけるのなら、1年延びた意味もあるんだけれど…」と公開される日を待っている。一時期、みんなの前で歌うことができなくなったため、最近始めたのが動画共有サイトのユーチューブ。ユーチューブに「由紀チャンネル」を開設し、動画を発信している
 「夜明けのスキャット」の大ヒットから半世紀以上—。歌手活動を中心に芝居やコントも、と幅広く活躍してきた由紀さおりさん(74)が主演した映画「ブルーヘブンを君に」が11日から公開予定だ。がんが再発し「余命半年」と診断されたバラ育種家の鷺坂冬子は、ハンググライダーで大空を飛ぶ夢にチャレンジする—。そんな冬子を演じながら、その姿勢に共感を覚えたという由紀さん。自らも、これまでさまざまなことに挑戦してきたが、「いくつになっても、諦めずに新たな夢を追い求めたい」と意欲を燃やす。

初主演映画「ブルーヘブンを君に」公開
 これまで映画やテレビドラマに数多く出演してきた由紀さんだが主演は今作が初めて。「岐阜の空と緑と清流と、その土地に住む人たちとが溶け合ったような作品が作れたらいいな、と思いながらロケ地に通いました」と話す。

 物語の舞台は、ハンググライダーなどスカイスポーツが盛んな池田山や揖斐川(いびがわ)の雄大な景色に代表される自然豊かな岐阜県西濃地区。そこでバラ農園を営む冬子は“誰にも作れない”といわれた青いバラ「ブルーヘブン」を生み出した。

 そんな冬子に、がんが再発。主治医から「余命半年のステージ4」と診断され、残された人生を、ハンググライダーで大空を飛ぶことに懸けようと決心する。10代のころ淡い初恋の相手だった彼の夢をかなえるために—。しかし、それは「ブルーヘブン」を生み出すのと同じくらい、63歳の冬子にとって“不可能”と思える挑戦だった…。

 同作は、監督の秦建日子(はた・たけひこ)が「映画で地方創生をはかろう」と始めた「地方創生ムービー2.0プロジェクト」の3作目。原作は、秦が書き下ろした同名の小説だ。「監督とスタッフを信頼しているので撮影中、モニター類は一切見ません」と言って撮影に臨んだ由紀さん。「試写を見たとき、自分の中でこういうふうに演じたいな、という思いと監督の狙いはほぼ同じだったんだと感じて、とてもうれしかった」と話す。

「モデル」に共感
 同作のモデルは、不可能といわれた青いバラ「ブルーヘブン」を品種改良により生み出した実在のバラ育種家、河本純子さん。青色の色素がないバラから品種交配だけで、神秘的なシルバーブルーの色をした「ブルーヘブン」を作り出すまでには多くの困難があった。その河本さんに由紀さんが初めて会ったとき、強い印象を持った。「夢を実現させるための努力と、それを諦めなかった気持ちが感じられ、とてもすてきな人でした」

 河本さんに「信念の強さを感じることができた」のは、由紀さん自身これまで多くの難局を努力と信念で乗り越えてきたからだ。1965年、本名の安田章子として「ヒッチハイク娘」でレコードデビューし4枚のシングルを出すが、まったく売れずに挫折感を味わった。コマーシャルソングで細々と歌の仕事をつないでいたころ、ラジオの深夜番組のテーマ曲として吹き込んだ「夜明けのスキャット」が評判となり、69年に「由紀さおり」として再デビューを果たす。その「夜明けのスキャット」は150万枚の売り上げを記録する大ヒットとなり、この後も「手紙」「生きがい」「挽歌」…とヒットを連発。また、デビューと同じ時期にテレビの人気番組「8時だョ! 全員集合」などでコントを演じ、その“とぼけた間合い”が茶の間の爆笑を誘った。後年、松田優作と共演した森田芳光監督の映画「家族ゲーム」(83年)では日本アカデミー賞優秀助演女優賞を受賞したほか、NHKの連続テレビ小説「チョッちゃん」(87年)で主人公の母親を演じるなど、俳優としても開花している。

姉と共に新境地
 しかし、その順調な歌手活動に“陰り”を感じた時期があった。再デビューした年以来10年連続で出場していた「NHK紅白歌合戦」の選出から漏れ、自信を喪失するほどのショックを受けた。そのころ自作自演のシンガーソングライターが一世を風靡(ふうび)していたこともあり、“歌を歌うだけ”の自分の存在価値を見失いかけた。

 そんな危機を乗り越えるきっかけとなったのが、3600人収容できるNHKホールを自ら借りて開いたデビュー15周年コンサート。このとき、姉の祥子と二人で童謡唱歌メドレーを歌ったことが、そのあと現在まで続く「安田シスターズ」の活動へとつながっていく。もともと、子どものころ「ひばり児童合唱団」で童謡を歌っていた姉妹は舞台での呼吸もぴったり。姉妹でのアルバム制作やコンサート活動を通じて、ソロ歌手とは異なる新境地を開いた。最近では、東南アジアなど海外でもコンサートを開いている。また、ソロ活動では2011年、米ジャズオーケストラのピンク・マルティーニとのコラボレーションアルバム「1969」を世界50数カ国でリリースし、大ヒットさせた。

 そんなキャリアを重ね歌手デビューから半世紀を超えた現在、自らの心境について由紀さんはこう話す。「この先、どんなことが起きるか分からない年齢になりました。だからこそ、1日、1日をある種の覚悟を持って歌わせていただいています」。デビュー曲「夜明けのスキャット」をいつまで歌えるか、と思っている由紀さんはその美声を維持するため毎週、耳鼻咽喉科に通って喉をメンテナンスするほか、トレーナーについて筋力トレーニングするなど、日々の努力を惜しまない。

 映画「ブルーヘブンを君に」では、エンドロールに由紀さんの歌う「愛は花、君はその種子」(原曲:ベット・ミドラーが歌う「ローズ」)が流れる。映画監督の高畑勲訳詞によるこの曲は、由紀さんがステージでも歌っている感動的な歌。秦監督がエンドロールに流す曲に選んだという。

 仕事と家庭の両立が難しく2度の離婚を経験し、「あのとき結婚生活ではなく仕事を選んだ“意味”を自分に問い続けてきた」と話す由紀さん。その“意味”を求めて、映画で冬子がハンググライダーに挑戦したように、チャレンジを続ける。


©2020「ブルーヘブンを君に」製作委員会
「ブルーヘブンを君に」 日本映画
 監督:秦建日子、出演:由紀さおり、小林豊、柳ゆり菜、本田剛文、大和田獏、寺脇康文ほか。93分。

 11日(金)からイオンシネマ市川(Tel.047・356・0205)ほかで全国公開予定。

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